
◆「HP600」モデル、各社の現在
○トヨタ
トヨタの実用車では、この「HP600」は、もはや定番化。同社は、新型車を企画する最初の段階で、そのクルマのHPをいくつにするか決定するという。HPの数値は、クルマのキャラやポジショニングまで決めるのだ。
そして、トール型であっても「走り」は妥協しないとして、近年は、高めの全高を前提とした車台の開発と熟成に余念がない。また「HP600」コンセプトに引っ張られて、伝統的な3ボックス・セダンのHPもひそかに上昇中。最新カムリは米国狙いの機種だが、それでもHPは565ミリだ。
○マツダ
各所の筋肉にセンサーを付け、HPが異なる種々の椅子に座ってみて、人体や筋肉への負担を計測したとは、実はこのメーカーのこと。レビューというモデルの時点で、すでにHPはかなり高かったというから、この点でのキャリアは長い。最新のプレマシー2000では、ボディと足を再チューン。このような高HP/高ハイトのハコであっても、十分にスポーツ感覚は盛り込めるという提案を行なっている。
○スバル
富士重工は、フォレスター、レガシィ・ランカスター、プレオを作ってきた「HP600」ではベテランのメーカー。ただ最近、そのキャリアから見えてきたこととして、身体にやさしいということで選択した「600」だったが、ハンディキャッパーにとっては高すぎないか?という検討も行なっているという。現行インプレッサは、座面を手動で上げてもマックスが580ミリ程度。次期レガシィはどうするのだろう?
◆日本狙いではない「ワールドカー」はどうする?
○カローラ
人にやさしい新時代のパッケージングとして、90年代半ば時点で「HP600」を発見し、ラウム、プリウス、ヴィッツといったモデルで、実際にも商品化したメーカーがトヨタ。
そのメーカーが、21世紀直前にちょうどモデルチェンジの時期を迎えた最量販シリーズ、「世界のカローラ」では、果たして、どのくらいのHPを選択するのか? 通常よりもモデルチェンジの時期が約1年後ろにずれ込んだこともあって、さまざまな意味で注目されたが、結局、最新(現行)型カローラはHP「550ミリ」でのデビューとなった。
なぜ、「600」あるいはそれ以上のHPにしなかったのか。この点について開発担当者は、後席は前席よりもHPを上げたい(後席パセンジャーの眺めをよくしたい)という前提条件があり、仮に前席を「600」にすると、後席はそれ以上になってしまって、後席の座面が高くなりすぎる……という理由を(公式には)述べていた。
なるほど、そういうこともあっただろう。しかし実際は、もっと大きな、そして切実な理由があったのではないかと察する。それは、スタイリングの問題――。
世界中のマーケットで使われるカローラは、ワゴンをはじめとしていろいろな車型を作るが、そのメイン・ストリームはあくまでも3ボックスのセダンである。そして、この3ボックス造形を、たとえばHPは600ミリ、そこから必要な全高1500ミリ以上……といったディメンションでまとめる。これがどうも、けっこうむずかしいようなのだ。
カローラの開発陣は、前例としてのビスタ・セダン(タイトルフォト:注1)やプラッツを見たはず。また、それらを踏まえての、いろいろな造形のトライも行なわれただろう。だが結局、世界中を満足させるような「HP600ミリの3ボックス・セダン」というデザインは、現時点ではなかなか困難……。そんな判断をしたようである。
(ビスタ・セダンと2ボックス造形のビスタ・アルデオでは、どっちがカッコいいですか? ……こんな投票を行なったら、そしてとくにサイドビューを較べたら、8割以上の人がアルデオの方に一票を投じるのではないだろうか)
トヨタは、カローラ以後、ウィンダムやカムリでも、こと3ボックス車においては、「550」ミリ付近のHPを設定する作戦を採っている。その意味では、カローラ・セダンを成り立たせた時の苦闘(?)は活きているということになろうか。
(つづく)
(「カーセンサー」誌、2001年特集より加筆)
○注1:この角度は、最も“欠点”が映らないかもしれない? HP600&全高1500以上で「3ボックス」を造形すると、横から見た場合のリヤ・クォーター部付近がどうしても“厚ぼったく”なってしまう。アルデオのように2ボックスのワゴン型であれば、その部分にドカッと「マス」(かたまり)が来ても、逆に重量感で落ち着くのだが……。
Posted at 2015/07/14 20:35:17 | |
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