
§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection
おそらく、ロータス・エンジニアリングはかなり張り切ったに違いないと思う。それまでにも、ピアッツァ(米国名:インパルス)で「ハンドリング・バイ・ロータス」仕様を作っていたし、今回のクルマには既にして、西独のチューナー(イルムシャー)によるスポーティ版が存在する。いすゞが、それをロータスに知らせなかったはずはない。
思えば、我がISUZUも、なかなか味なコンペを仕組むものである。「ヨーロッパ」を使いこなしている? こういう見方は十分に可能なので、同時に、欧州の自動車人たちにとっても、ニッポン製のすぐれたハードを材料にして何かやるということは魅力的な仕事である──そのようなレベルを、われわれの日本車は既に獲得しているのだとも言えよう。
突然に余談だけれども、F1のあのアラン・プロストは、87年に使ったエンジンよりも速くて好燃費のエンジンを、自分の属するチームが獲得できなかったら、チームを出て独立するつもりだったといわれる。結果として、彼がいるマクラーレンは、87年のTAGポルシェに代えて、“常勝”のホンダ・エンジンを搭載できることになり、現役最多勝のF1レーサー、アラン・プロストは88年以降もマクラーレンに乗る。
この種の例はほかにいくつもありますが、ともかく、ジェミニに話を戻す。いすゞジェミニZZハンドリング・バイ・ロータスである。
要するにジェミニを、ロータス・エンジニアリングに渡す。いすゞとブリヂストン・タイヤのメンバーが加わり、足まわりに関するチューニングを6ヵ月にわたって行ないセットアップする。その間のテスト走行距離、5万マイル(8万キロ)。テストしたダンパー(カヤバ製)120種。テストしたBSタイヤ、20種。スタビライザーのコンビネーション、14種……。
シャシー、サスペンション、ステアリング系の総合チューニング──ロータスの言う「ライド・アンド・ハンドリングのマジック」を施されたクルマが、こうして生まれた。
いすゞは、このクルマのために1・6リッターのDOHC(ノンターボ)ユニットを新開発。レッドゾーン表示とは異なり、実は8000回転(!)まで回せるエンジンを、ロータスにプレゼントした。
……ということで、張り切ったロータスが作りあげた足がどういうことになったかというと、これが超・本格のスポーツカーになってしまった。「スポーツカー」という表現が曖昧なら、とにかく速く走る抜くことだけに留意して、きわめて高度な水準で固められた足だ……と言い換えてもいい。
日本で売るバージョンであり、当然、日本国内でもテストをして最終決定した足まわりだと、ロータスは言うが、率直に言って、これはニッポンに合わない!
(まっすぐな高速道路以外で)時速100キロで走れるところは、この国にはないんだなんて野暮なことは言わないけれど、たとえばワインディング路にしても、そのコーナー(のR)は小さく、当然、その通過速度も低い。さらには信号も多く、ストップ・アンド・ゴーばかりを強いられるのが、わがニッポンである。中速コーナーなんて言うから、その(通過)速度を訊いてみると、「140㎞/hだ」という数値が出て来る、たとえば西ドイツなんかとは、どだい走行条件が異なるのだ。
もし、欧州風の本格的なスポーティ・サスペンションの「味」は欲しいけれど、あまたある彼の地のスポーツカーや、たとえばルノー・サンクGTターボを、クルマ全体のユニットとして買うのは、いささか高価に過ぎる──。このような意見を持っていた賢明な走り屋諸氏にとっては、ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータスは注目のバージョンであるかもしれない。その野性味溢れるシャープな「走り」の切れ味は、意を決して、また敢然として、味わうに値するものである。そして、このようなバラエティをジェミニ・シリーズに加えることを決したいすゞの勇気も、拍手とともに迎えてよいものであろう。
だが、ジェミニを、日常車としてグダグダと足として使いつつ、たまさかの日曜日に郊外のワインディング路などで、その高度にセッティングされたハンドリングの具合を独り楽しむ……といったような向きには、このジェミニ/ロータスは、あまりにシビアなのではないか? このように評価せざるを得ない。
むしろぼくは、マツダの「アンフィニ」の例もあるし、チューンド・バイ・ISUZUの方に興味がある。それをこそ世に問うべきであり、また、そういう時代であるとも思う。「イルムシャー」にしても「ロータス」にしても、要するにこれ、欧州コンプレックスの商品化ではないのか!?
(1988/03/29)
○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
ジェミニZZ/ハンドリング・バイ・ロータス(88年3月~ )
◆スポーツFF同士で比べるとすると、これだったら、たとえばCR-Xの方がずっといいなあ!……というのが、試乗会でジェミニ/ロータスに乗ってみての率直な印象だった。小さなRのコーナーを、アクセルを踏んで行っても曲がれるという点では、日本製FFスポーツ車の方がずっと「fun」であり、またデリカシーに富むと実感した。もっともこれ、「欧州」とか「ロータス」といった問題ではなく、ジェミニというクルマ自体(シャシー)にその因があるのかもしれないのだが。
Posted at 2014/10/09 14:39:23 | |
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