
ディーゼルかガソリンか、どっちのエンジンにするか迷う新型デミオだが、このクルマの本当の魅力は「挙動」にある。近年のマツダ車は、いっとき「統一感」という開発コンセプトを掲げていた。走っている時にクルマがどう「動く」かを、単にサスペンションのバネがどうしたというのではなく、もっとトータルに考えようというもので、この場合、たとえばアクセルを踏んだ時にクルマがどうなるかといった、エンジンがらみのことも、この「統一感」には含まれていた。
ただ、「スカイアクティブ」が登場した頃からだろうか、この用語があまり使われなくなっているように思えたので、このデミオの試乗の際に開発陣に訊いてみたところ、現在のマツダにとっては、「統一感」というかなり総合的な言い方であっても、この言葉では「もう、範囲が狭すぎる」のだそうだ。「だから、その言葉に代えて、いまは“人馬一体”をキーワードにして開発を進めています」──。
なるほど。今回のデミオで、全長に制限のあるコンパクト車であるにもかかわらす、アクセルを踏む右足が真っ直ぐに(車体に対して並行に)なるようにしたいとしたのも、この“人馬一体”感を得るために必要な要素の一つだったか。
つまりは、ステアリングを切るとかアクセルを踏むとか、そうした動作をドライバーが行なった場合に、それに対して、クルマがどう「動いて」くれたら最もいいか。人と馬との──じゃない、人とクルマとの「一体」感が生まれるか。言葉にすると、おそらくこういうことが、昨今のマツダ車の開発テーマになっているのだろう。
さて、デミオで走り出してすぐにわかるのは、乗り心地が「しっとり」していることである。「動き出しのxxメートルを大事にしている」と、かつてマツダの実験スタッフから聞いたことがあるが、サスペンションがまだ働き始める前というような段階で、どういう感覚をドライバーに与えるか。デミオもまた、そのへんがきちんとケアされ、よく磨かれている。
しかし、そうした乗り心地が「いい」クルマは、たとえばコーナリングなどではクニャッとした感じになってしまう? ……と思いがちだが、しかし、デミオはそうではない。直進状態から、クルマを曲げるためにステアリングを切り込んでやると、このクルマはいい感じにガシッと踏ん張ってくれる。安定していて、安心感がある。ちょっとハード気味にブレーキングした時でも、ノーズダイブ(前のめりになる)は非常に少ない。
……というようなクルマなので、じゃあ山岳ワインディング路に遭遇して、(ちょっと攻めてみようかな!)なんてやってみても、そのしっかり感を楽しみつつのアクセル・オンやハード・ブレーキングができる。とくにディーゼル・バージョンは、エンジンがパワフル&トルクフルなので、この足と組み合わされての“攻めの走り”では、タフにしてシュアな速いコーナリングが可能だ。
一方、1300のガソリンエンジン車でもこの確実感は変わることなく、さらにはフロントが軽いため、ディーゼル仕様とは異なる軽快さが、これに加わる。ワインディング路といったシーンでは、ディーゼル版の速さを取るか、それともガソリン車の軽快感を上位とするか。これは大いに迷うところ。
しかし、いったん市街路に戻れば、前述のように、低速域での「しっとり感」満載の柔和なコンパクト車として街を走ることができる。国内の一般的な使用状況では、ドライバーの意志のまま、自分の走りたい速度を決められることは、実はほとんどない。運転者はやむなく40~50キロ(時速)で走ることになる機会が多いが、その時に、クルマで走ることが快適な時間となるかどうか。実用車としてはこの点が重要だと常々考えているのだが、この局面でのデミオのホスピタリティはきわめて高水準。この乗り心地の「しっとり感」は同乗者にも喜ばれるはずである。
またシートも(いい意味で)身体にまつわりつくような感じで、同時に、身体の全体をシートの全体で支えてくれるといった感覚がある。ハード・コーナリングなどをしても、サイド方向のサポートはしっかりしている。これまた、日常性とスポーツ性をうまく両立させたと評価できるシートだ。
乗り心地の「しっとり感」というのは、重量車(高級車)では割りとよく見られる属性だが、クルマとして軽量であることを求め、さらにサイズに限りのあるコンパクト車においては、こうしたいい意味での“重量感”に出会うことはきわめて稀である。
まあ「人馬一体」かどうかは、乗馬をしたことがないのでわからないが、でもさまざまな条件下で、ドライバーの(こうあってほしい……)という「期待値」に高水準で応えつづけたのが、今回のデミオだった。そのオールラウンド性と充実を評価し、あえて“奇跡のコンパクト”と呼んで、この一文の結びとしたい。
(了)
Posted at 2014/10/27 07:46:50 | |
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New Car ジャーナル | 日記