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2014年12月09日 イイね!

第13章 「ニュル」 その2

 ~『最速GT-R物語』 史上最強のハコを作った男たち(双葉社・1996年)より

さて、そのR33GT-Rのプロトタイプが初めて北海道のテストコースに行ったのは、93年の春である。評価ドライバー・加藤の「30点」発言から出発して、実験部のスタッフは、まず独自にボディを補強した「栃木仕様」のGT-Rを作り、それを陸別に確認に行ったのだ。

実験部の川上はそのクルマを設計陣に見せ、「厚木に帰って、車体剛性を計算してくれ」と要請する。最低限、このくらいのボディでないと今度のGT-Rはできないという実験部からの回答だった。

そして、93年の8月。9代目スカイラインとしてのR33・基準車が発表される。この時にGT-RだけはR32のままで、とりあえず併売されていた。R33でも、GT-Rは出るのか? これに対してニッサン側はイエスともノーとも言わずに沈黙を守ったが、当然、ジャーナリズムは新しいGT-Rについての憶測記事に沸いた。

いや、もっと言うなら、大きくて重たくなってホイールベースが伸びた新型(R33)で、GT-Rは果して作れるのかという懸念と疑問のネガティブな流れが、誰言うともなく生まれていた。渡邉はもちろんそれに気づいてはいたが、この件に関しては、11月のモーターショーで答が出せるし、それでいいと思っていた。

そして、その93年・秋。R33GT-Rのプロトタイプは、初めて「ニュル」の土を踏んでいる。超高速で、かつ複雑極まる「G」がかかる、この“危険なサーキット”を走ってみようという程度には、クルマは進化していたことになる。

この時のテストは、時期的にはR33の発表後であり、もう堂々とそのGT-R仕様がニュルを走っても不思議はないような気もするが、しかし「もちろん、カムフラージュ付き」(渡邉)だった。発表されたのは、あくまでスカイラインの基準車のみ。そのGT-R版は、対外的にはまだ存在することさえ秘密なのだ。

この「ニュル・テスト」で、最も精力的に動き回ったのは、もちろん評価ドライバーの加藤博義である。テストした加藤は、まず、さらなるステアリング・インフォメーションを求めた。

加藤のドライビング理論は以前にも紹介したが、クルマが速くなればなるほど、もう「掌」しか頼れる情報源はなくなる。「ニュル」ではさまざまな方向からの「G」が車体にかかり、しばしばオーバー200km/hで曲がらなければならず、さらにブラインド・コーナーだらけだ。次のコーナー、このまま行ってもいいのか、いや、アクセルを緩めるべきなのか? 加藤にそれを教えてくれるのは、唯一、ステアリング(掌)だけだった。

いっそうの「情報性」を求めたこの時の加藤の要求は決して過大なものではなく、むしろ最低限の、また肉体から発した必死の要求であっただろう。渡邉は、フッと洩らしたことがある。加藤には今回、ものすごくシビアなことをしてもらった、彼の身に何もなくてよかった、と。

ただ、このステアリング・インフォメーションをさらに良くするというのは、実はそう易きことではない。要するに、路面からの情報を過不足なく、ドライバーの「掌」まで伝えてほしいという願いだが、その地表との接点であるタイヤからステアリングホイールまでには、驚くほどの数のパーツがある。それらのうちのどれかひとつにダルなものがあったら、もう情報は途切れてしまう。

すべての部品が見直されたほか、新GT-Rのステアリング系には、1000分の1ミリ単位の精度で加工と研磨がなされたギヤが導入されることになった。そのギヤは、通常のクルマよりはるかに深く噛まされ、そして、それを押しつけるための油圧も高められた。また、フロント・サスペンションのアッパーアームが二段にされ、横方向の支持剛性が大幅に上げられた。

さらには、『動性能』のためのシェイプアップとして、フューエルタンクはR32に比べて、より車体中央寄りに置かれ、一方全体の重量配分は1.5%ほど、R32よりも後ろ寄りにセットし直された。また、フロント部を軽くするためにエンジンマウント(材質)はアルミ化され、インタークーラーも軽量のものに換えられた。「まあ100グラム単位で、ひとつずつやっていくだけ……」。実験部による第一次ニュル・テストに同行した主担の吉川正敏は、この種の軽量化については、こう語るだけだ。

(第13章・了) ──文中敬称略
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「【 20世紀 J-Car select 】vol.14 スカイラインGT S-54 http://cvw.jp/b/2106389/39179052/
何シテル?   01/15 10:59
家村浩明です、どうぞよろしく。 クルマとその世界への関心から、いろいろ文章を書いてきました。 「クルマは多面体の鏡である」なんて、最初の本の前書きに...
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