
§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection
クルマのおもしろさ、楽しさとは、つまるところ、その挙動の魅力なのではないか。これはよく走るワ……などと、しばしば言うけれども、その表現の中身を追求してみると、要するに「挙動」ということに突き当たるのではなかろうか。たとえば、曲がりたいように曲がってくれる、行きたいように行ってくれる。あるいは、望む速さに、すぐなってくれる、希望する態勢にすぐ戻ってくれる。乗り手のイメージを裏切らない、余計な動きをしない。つまり挙動が……というわけである。
ドライバーが入力したものに対して、クルマの側からアウトプットとして返ってくるもの。それの総合的なレベルがどうなのかということだ。要素として、もし分類するとすれば、レスポンスだの回頭性だの、リヤの追従性やらコーナリング特性やらになるだろうが、これらの分析はクルマの作り手側にとっては必要な仕事であっても、受け手にとっては、もっと瞬時にしてトータルな判断がある。「あ、いい、これ!」ってやつだ。
そのアウトプットは時間軸でいえば瞬時であることがよいし、空間的には過不足なく確実であることがよい。ダイレクトであって、ソリッドな対応である。それには、エンジンのレスポンスもさることながら、足回りの能力の方がはるかに重要だ。こと「挙動」を問題にする限り、主役は足。そして、足がそのように働けることを可能にする全身的なバランス度と、その水準の高さである。
そしてもうひとつ、走りについての作り手としてのセンスも大いに問われる。そもそも、よき走りについてのイメージがなければ、挙動のセッティングはできないであろう。サスペンションからエンジンから、また乗り手から、互いに“手札”を見せ合って、みんなで一緒に“上がり”に向かう。それらの組み合わせである点数を、さらに高める。そのような有機的で高度なバランスのよさが、クルマというものにすぐれた「挙動」を与え、ドライバーにそれを操る楽しさを与える。
……そうか、もしかしたら、このようなクルマのことを「スポーツカー」と呼ぶのかもしれぬ。普通に育った筆者は(例外なく高価な)欧州製のスポーツカーの歴史と高性能については無知である。そうではあるが、1986年後半のいま、ニッポン製の小さな実用車のうちから、このような走りの魅力を発見できることを深く喜びとするものである。それも複数で、しかも、たった100万円前後の価格で──。
新しいホンダ・シティは、初代の粗暴な「イヌっころ走り」(開発担当者の弁)を彼方に捨て去り、ネコのようなしなやかな走りを超えて、俊敏なヒョウになった。フロントフェンダーの張り出しぶりは、小さな姿態に秘められた《走り》の主張で、その期待を裏切らない鋭さに、乗り心地のしっとりさを併せ持つ。
先代シティのターボ・モデルの後継モデルも兼ねているということで、新設計1カム16バルブ・エンジンとその足とは、ほとんどタイトロープを渡るかのような微妙で快いバランスを乗り手に実感させる。「零戦だ」と、開発担当の平松竹史氏は言った。
そして、マツダの手になるフォード・フェスティバのDOHCバージョン、GTとGT-Xは? これまた、ニュー・パワーユニットに対応して、足回りをきっちりとツメた。とくにスタビライザーや前ロアーアーム・ブッシュなどのチューニングによる横方向への剛性アップは、コーナリングの切れ味を磨き、曲がることそれ自体を楽しくした。
GT-Xのパワーステアリングが、これまた“使用感”のないもので、必要時のみにアシストを行なう(かのような)好フィーリング。シートも、一クラス上(ファミリア用)のものをオゴってあり、剛性感のあるボディ作りも昨今のマツダ風。また、このかたちにして結構なスペースのトランクがきちんと隠れて存在し、リヤシートの居住空間にも配慮があるのは、実用性への作り手の意志の高さを示す。
ともかく、この2モデル、ともに「挙動」において実にココロ楽しく、スペック少年やクルマ応接間青年、あるいは直進坊や、そしてステイタス中年には、決して見えることがないであろうクルマのおもしろさに充ちているのだ。
(1986/12/10)
○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
シティ(86年10月~88年10月)&フェスティバGT(86年10月~ )
◆ぼくは、スポーツカーに関する若き日の体験的な記憶を持っていない。(動かないフル・オープン車を“置いて”おいたことはあるが)スポーツカーとは何かということについては、かつての経験からは語れず、したがって、その分フリーでもある。そして、本コラムに記したようなドライバーとの関係が作れれば、それは十分に「スポーツカー」なのではないかと本気で思っている。「形態」ではなく、クルマで何が、どういうことができるか、である。
Posted at 2015/03/02 19:26:37 | |
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