• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

家村浩明のブログ一覧

2015年12月27日 イイね!

ちょっと寂しいプリウス「4代」の“旅” その3

ちょっと寂しいプリウス「4代」の“旅” その3メーカーは、報道陣にプロトタイプを試乗前提で公開するに際して、「これまでのプリウスの『強み』と『弱み』として、以下のようなことを挙げた。まず「強み」は「圧倒的な燃費性能」と「先進装備」。そして「弱み」として「走りの楽しさ/乗り心地」、そして(価格に対しての)「内装の品質感」である。

また、新しいプラットフォームというか、クルマの新しい作り方として「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)という考え方とコンセプトを用いた最初の市販車であり、「いつまでも運転していたくなるクルマにしたい」「小中高、そして4代目で社会人になる」ように、新プリウスを熟成させてきた……とも語った。

そのように設定したテーマに対しての「達成度」を考えると、新プリウスのそれはかなり高いと思う。その「達成率」を勝手に、また体感的に数値にしてみると、それは90%超であるかもしれない。動かして(走らせて)いる時にドライバーが感じるクルマとの一体感、何かを運転者が「入力」した際にクルマが返してくる「過不足」のない挙動、これらは見事というべきであり、新プリウスは開発陣が意図した通りの「ずっと運転していたくなる」クルマのひとつになっている。

ハードウェア論として、ここまで新プリウスを認めた上で、しかし、なぜ私は、このクルマを見て、そして乗って、一抹の「寂しさ」を感じてしまうのか。このナゾが自分でもなかなか解けず、それで、新プリウス関連の原稿も書けなかったのだが……。ただ、それについては、いくつか言葉を思い浮かべているうちに少しずつ見えてきた気がする。

たとえば、新プリウスは、「狭義のセダン」として成熟させるという道を選んでしまった。この場合の「セダン」とは、多くの人が日常的に使おうとするクルマというような意味だが、そうした「日常車」はいま、著しく「多様化」していると思う。(とくに日本マーケットの場合は──。たとえばスズキのハスラーは、クロスオーバーがウンヌンといった説明なんか抜きで、あっさりと買われている?)

そういう「視界」の中に新プリウスを置いてみると、このクルマが考えている「セダン」の範囲がすごく「狭い」ことに気づく。めざしたのは「ヨーロッパ車」、もう少し突っ込むなら、そのターゲットとなったのはVWのポロ/ゴルフ・ブラザースか。実際、開発陣からも、クルマを作りながら見ていたのはゴルフだったという意見は聞ける。

世界一を競っている量販車メーカー同士、期せずしてほぼ同時期にモジュール的なクルマの新開発方式を提案したなど、トヨタとVWのライバル関係を考えると、仮想敵をゴルフとして「4代目」プリウスを作ることにエンジニアが躍起となった。この感じは想像できるし、そうしたスピリットがクルマ世界を進展させていることにも異議はないが、でも、どうなのか。

プリウスがトヨタの基幹車種であるからこそ、VWのゴルフと正面から対峙して、そしてそれを超えたかった。このようにテーマ設定をしたのなら、それはそれで一理はある。しかし、基幹車種であるからこそ、トヨタとプリウスはもっと広い視野で、この「地球」を見ていきたい。VWと対抗するに、そうした発想と展開もあり得たはずだ。

たとえば、ゴルフもポロもよくできたクルマだが、それはあくまで、「ヨーロッパの、ヨーロッパによる、ヨーロッパのためのクルマ」ではないかという視点である。「ヨーロッパ」という言葉が曖昧すぎるなら、もう少し正確に「ドイツ」と言い換えてもいい。アウトバーンが発達し、高速移動がクルマの前提であり、ちょっと郊外へ行けば、乗用車が百数十キロの速度で“コーナリングする”(!)ように「道」が設定されている。そうした土壌から生まれたミディアム車が、たとえばゴルフであり、そのコンパクト版がポロであろう。

その同じフィールド内で、ゴルフやポロにガチで対抗しようとすれば、それらと同じように「低重心」にしたいと、エンジニアなら思うだろう。サーキットのグリッドに、一台だけ「高重心」のレーシングカーを並べたくはない。俺たちにも同じようなクルマを作らせてくれ!

しかし、このコンペティティブなコンセプトが有効なのは、その「サーキット内」だけではないか。世の中には、サーキット以外の道もある。いや、そもそも基本的にサーキット以外の道で生きているのが「日常車」(市販車)というものである。

また、クルマが競う場(マーケット)は「ヨーロッパ」や「ドイツ」だけではない。北米や日本は「ヨーロッパ」とは微妙に異なる環境だし、さらにいうなら、中国大陸や東南アジア、そして南米、アフリカなどもクルマにとっての舞台だ。こうして見ると、「ヨーロッパ」というステージで「ゴルフ」に勝ちたいというのは、基幹車種プリウスの目標として、いささか小っちゃくないか?

【 タイトルフォトはVWゴルフR 】

(つづく)
Posted at 2015/12/27 09:41:54 | コメント(0) | トラックバック(0) | New Car ジャーナル | 日記
スペシャルブログ 自動車評論家&著名人の本音

プロフィール

「【 20世紀 J-Car select 】vol.14 スカイラインGT S-54 http://cvw.jp/b/2106389/39179052/
何シテル?   01/15 10:59
家村浩明です、どうぞよろしく。 クルマとその世界への関心から、いろいろ文章を書いてきました。 「クルマは多面体の鏡である」なんて、最初の本の前書きに...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2015/12 >>

  1 2 3 4 5
6 789 101112
1314 151617 1819
2021 2223 24 2526
272829 3031  

愛車一覧

スバル R1 スバル R1
スバル R1に乗っています。デビュー時から、これは21世紀の“テントウムシ”だと思ってい ...
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation