
……うーん、いまにして思うと、じゃあ“EV感覚”って何だったのだろうかと、逆にちょっとフシギになってくる。無理やり思い出してみると、あの感覚は、おそらくは、ある種の過剰さだった。トルクにしても、アクセルペダルを踏んでいる(システムに指示している)ドライバーの感覚やイメージ以上に、「電動車」はチカラが出ていた。また、そのチカラの出方には、ブワッというような唐突感が含まれていた。そしてそれとも似た感覚だが、二次電池などの重いものを積んだ巨大な“マス”が、ようやく動き出す。そんな風情もEVにはあったと思う。
もちろん、ガソリンエンジンにおいても、トルクはペダルの“踏みしろ”に応じてリニアに発生するわけではない。ただし、高回転域では爆発的にチカラが出ても、低中速域では、パワーもトルクもその出方はおとなしい。
そして、それに馴れてしまうと、それが「自然だ」という感覚になって、その「自然さ」と異なるものには、人はしばしば「違和感」という言葉を投げつける。そうした“人心”の動き、また、人の感覚と心理における機微といったことを、トヨタは深いところまで分け入ってみたのではないか。
そして、モーターの持つトルク感を失うことなく、しかし“過剰さ”は抑える。そんなチューニングであれば、電動時の走り、そのトルクの出方において、多くの人が「リニア」と感ずるであろうフィールになる。そこまで探索が到達し、ついでに、ヒューンというモーターの回転音も室内に入らないようにした。こうすれば、多くの人が「自然」と感じるはずだ──。
今回のプリウスは、そこまでやっているクルマのように思う。結果として、2010年代の「電動車」とその走行フィールは、初期の“電動アピール”の時代を終え、新次元に入った。そして、われわれが知る(体感する)ことのできる、その最初の成果が今回のプリウス(とミライ)なのではないか。
もちろん一方では、あの“電動感覚”は21世紀を切り拓くクルマの新提案と、その象徴だったのにぃ……とか、せっかくハイブリッド車(異種混交)を買ったのに、パワーソースを二つ持つという“優越感”を味わえなくなってしまった……といった文句を、今回のプリウスに向けることはできる。
ただ、そうした電動車的な要素を強調することは、このプリウスのテーマではなかった。ハイブリッド車だからとか、そうした前提ナシに、無条件で他車と較べてほしい。同じ地平に、一度、ハイブリッド車プリウスを置いてみたい。これがおそらく、この4代目でやりたかったことで、「お客様には、とにかく、クルマに乗ってみてほしいんです」と開発陣が言うのは、そういう意味だと思う。
さて、搭載電池のタイプが異なることによる「走り」の違いはない(感じられない)と先に記したが、とはいえ、シリーズ全モデルの走行フィールが同じというわけではない。そう、装着タイヤによる差異である。新プリウスでは、各グレードの「ツーリングセレクション」に17インチタイヤ仕様が装着されている。この大径タイヤを付けた仕様の乗り心地が悪い(固い)とはいわないが、でも、私のパーソナルチョイスは断然、15インチタイヤの“普通仕様”の方である。
この普通のバージョンによる、路面を掴みつつ、同時にしなやかに動きながら走っていくという滑らかさ。その度合いが、17インチ仕様ではやはり低下する(消える、とは言わない)。もちろん、見た目ということはあるのだろうし、17インチタイヤとしては良好な乗り心地なのかもしれないが、市街地などでこんなにイイですよ……という、せっかくのプリウスのホスピタリティを、違う“靴”を履くことによって失いたくない。これが私の意見だ。
それに、そもそもプリウスは、そんなに「スポーティ」方向に振らなくても、多くのカスタマーにとって十分なのではないか。プリウスの商品性として、そうした要素が、そんなに必要なのか。私としてはそんなふうにも思うのだが、しかし、この点も(繰り返しにはなるが)、仮に「走り」のパートだけを抽出されて評価されても、そこで他車との比較に耐えるものにしたい。それが、今回のプリウスの狙いであり、野望であった。
それと、こうしてすぐに比較とかライバル車の想定といったことにハナシを持っていくのが、メディアとそれに関わる者特有の習性であるらしい。VWゴルフがライバルですよね?……と訊かれるので、それをあえて否定はしていない。これが開発陣の立場で、実は、対抗モデルというのは何も想定していないというのが本音であるようだ。「ライバルを問われるのは、実はいつも困っています」と、開発陣の一人は苦笑いとともに語った。
さらには、セダンとしてまとめることにこだわったプリウスである故に、たとえばヒップポイントにしても、対旧型比で59ミリほど下げている。しかし、今回で呈示した新プラットフォームから生まれるモデルは、べつにセダン系とは限らない。これは容易に想像できることで、たとえばSUV的なコンセプト&パッケージングのモデルが、いずれ、このラインから派生してくるのは確実。高いHPのクルマについては、「プリウス以後」に注目しつつ待つべし、ということであろう。
(つづく)
Posted at 2016/01/16 23:24:18 | |
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New Car ジャーナル | 日記