
「サーキットを走るのに較べて? それは、ラリーの方がずっとおもしろいよ。単純だよね、サーキットは」「ラリーは違うぜ! 時々、ビッグ・サプライズもあるし(笑)。路面もいろいろ、天候も変わる」
「そういう刻々と変わっていく条件の中で、インプロビゼーション(即興的対応)でドライビングしていくんだ。このおもしろさは、レースの比じゃないよ」
スペイン生まれの若きラリースト、カルロス・サインツは、こう言ってニッコリした。このカルロスを自チームに引っ張り、シーズン2年目にしてチャンピオン・ドライバーに仕立てたトヨタ・チーム・ヨーロッパ(TTE)の代表で、自らも優れたラリー・ドライバーであったオベ・アンダーソンは、次のように付け加えた。
「レースは、ある程度『学ぶ』ことができる。練習で、どうにかなるという要素がある。しかし、ラリーは違う。ドライビングに天性のものが必要だ」
そのような天才たちが、合図とともにSS(スペシャルステージ)という名の“戦場”に飛び出していく。土煙や雪の中でのタイムバトル。完璧なドリフト・コントロールと、ほとんど動物的なドライビング・センスが要求される。クルマは、こんなふうにも動くことができる! 人はクルマを、このようにも操ることができる! それが「WRC」である。
ただ、「走り」の面だけを見るなら、このような“動物的天才”たちの祭典ということになるラリーだが、その「走り」を支えるバックアップ態勢というのは、いやになるほど大仕掛けだ。まず、飛行機が舞っている。スペシャルステージ(SS)の上空を旋回するそれは「サテライト」であり、ここをステーションとして、チームの全車が連絡を取り合う。そしてサービスカーは、ほとんどクルマ一台分のパーツを積んで、SSからSSまでを全開で駆け巡る。
タイヤの話が、また凄い。何と、各SSの状態に合わせて、すべて違うものがラリー車に装着されるのだ。……ということは、SSのスタート前に、どこかでタイヤを履き替えておかねばならない。そのためには、タイヤの確実なデリバリーが必要。そのこと以前に、どのSSではどのタイヤを履くかという選択がなされているわけで、そういうテストも事前にやった。また、そうしてタイヤを選ぶ(決める)ためには、競技タイヤという現物が各ラリーの前にできあがっていなければならない。
一日の競技時間内に10ヵ所を超えるSSがあり、以上のようなかたちでその闘いを行なうために、スタッフやハード&ソフトのサービスをどのように動かすか。そのことだけをプランニングする役(ラリー・コーディネーターという)がチームにいるのは、まったくフシギではないし、また、それは必須でもある。4日間にわたる競技期間のどれかのSSで、何か一つが欠けても勝負にならないのだから──。
そして、以上が主としてサポートとソフト面だとすると、ラリー車というマシンもまた“停滞”していてはならない。WRCの各戦は、それぞれに、闘う環境や性格が異なっている。それらに対応して、いちいちクルマ(シャシー)とエンジン、そしてタイヤは、ベストマッチを求めて作り直していく。
したがって、ご覧のトヨタ・セリカ「GT-FOURラリー」は、あくまでも、“サファリ・スペシャル”である。欧州スタイル(前述)のSS主体のタイム競争というよりも、4000キロ以上の悪路を、ともかくタフに走りきること。そしてストレートでは、時速200キロ以上で走れること。この両立が必要となるクルマで、またナイト・ランなどでは動物との衝突への対応も非常に重要だ。
そのため、ほとんど超高速の装甲車という雰囲気になってしまうのが“サファリ仕様”なのだが、その一方で、泥道を走り続けることを考慮して、水圧ポンプでラジエターを洗うシステム(オーバーヒート対策)装着という小ワザも盛り込まれている。
1990年WRC第4戦の「サファリ」で、このセリカは、B・ワルデガルドのドライブでウイナーとなった。そしてこの時、サファリ初体験で4位となったのがカルロス・サインツである。
(つづく)
(「スコラ」誌 1991年 コンペティションカー・シリーズより加筆修整)
Posted at 2016/01/21 00:53:28 | |
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