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2016年03月10日 イイね!

スバル・ヴィヴィオ サファリ・ラリー(1993) 《1》

スバル・ヴィヴィオ サファリ・ラリー(1993) 《1》「実車を見て、その小ささにビックリした。これで本当に完走が果たせるのかどうか……。まあ、雨でも降れば大丈夫だと思うけど。ただ、クルマは見かけによらず、本当に速い。いかに転倒しないで走り抜けるかが、完走の秘訣となるだろう。3台のうちで、サファリ経験者はボクだけ。これは、ボクが完走できなければ、他の2台も完走できないと言っても、言い過ぎではないはず。だから、絶対に完走を果たそうと思った」

こう語ったのは、ケニア在住のラリー・ドライバーであるパトリック・ジルだ。この発言は、なかなか正直であると同時に、極めて的確でもあり、そして予言さえ含むものだった。

エントラント自身がビックリしてしまうような「小さなクルマ」とは、わが軽自動車規格そのままのスバル・ヴィヴィオである。トヨタ・ワークスの1~2~3~4フィニッシュに終わった1993年のサファリ・ラリーだが、今年は、このジルの言葉にあるような、もうひとつの“サファリ・ストーリー”があった。

あの「サファリ」へ、軽自動車で──。このチャレンジングな話が出たのは、1992年のサファリ・ラリー終了後の頃だという。「軽」としては“走り”を十分にツメてのデビューを果たした、ヴィヴィオというクルマの存在。そして、ケニアを走ることについては、長い間の挑戦で多くのノウハウの蓄積があるスバル・ワークス。これらの組み合わせが生み出した、ひとつの夢だった。そしてここには、ヴィヴィオの完成度の高さについての、メーカーとしての自信もうかがえる。このクルマならやれるんじゃないか、ということである。

いま国際的なラリーは、グループAあるいはグループNのカテゴリーでなければならない。要するにあくまでも市販車をベースに、規則に則ってのモディファイを行なう。したがって、ラリーで勝利したいメーカーは、ひとつのモデルのラインナップの中に、ラリー車の素材となるような4WDのハイパワー・バージョンをわざわざ加えておくのが当然のこととなっている。

このへんの事情はサーキット・レースでも同じで、レーサーの素材となるべき仕様を持つモデルが、グループAレースでは圧倒的に強い。スカイラインGT-Rがその身近な例であり、外国車ではBMW・M3とメルセデスの2・5-16がその究極だ。

また、グループAのレギュレーションでは、ボディの変更がほとんど許されないため、外観的には、巨大なリヤウイングが市販車の段階で付いていたり、フロントにエンジン系やブレーキを冷却するための大きな穴を、いくつも開けておいたりする。あるレーシング・メカニックは、新型車が登場するたびに、「これはレースで使えるか?」ということを手っ取り早く確認するのに、ボディ前面の穴の開き具合を見ると、ジョークっぽく語っていたものだ。

さて、そのヴィヴィオだが、サファリ参戦に際して、グループAでのエントリーを選択した。グループNでは、グループAに較べると改造範囲が限られていて、やはりサファリではむずかしいだろうという判断からだった。

これは言い換えると、「サファリ」という場はそれだけハードだということである。全長4000キロ、5日間。SS(=スペシャル・ステージ、タイムアタック区間)こそないが、逆に、リエゾン(つなぎの区間)もない。すべてのステージにアベレージ速度が設定され、そして、その指示速度が誰もクリアできないほどに高い。だから、4000キロの全区間が、いわば“SS”なのだ。

1993年のリザルトでも、ウイナーのワークス・セリカでさえ、その指示速度に対する「遅れ」、すなわちペナルティ・タイムは1時間54分なのである。要するに、とにかく速く走れ! ……というラリーだというのが、このことからもわかる。

そして、雨が降ればドロドロになり、河はあふれ、スタックを呼ぶ。晴れたら晴れたで、路面をカチカチにし、さらなるハイスピードをクルマに求めてくる。ホコリが舞って、動物も飛び出す。どっちに転んでも、「サファリ」はやっぱり“カー・ブレーカー”なのだ。そしてドライの方が、クルマにとってはもっとキツい。パトリック・ジルの「雨でも降れば……」という言葉を思い出してほしい。

その「キツさ」を最も具体的に示すのが、フロント・サスペンションへの「入力」の強さだという。ガンガン、ガツーン!と、絶え間なくフロント・サスペンションに衝撃が入ってくる。それがアーム類に伝わり、ボディのサスペンション取り付け部分に力が入り、ついには車体が変形して、クルマが壊れる。

とりわけ軽自動車の場合は、フロントからの「入力」がいきなりBピラー(センターピラー)にまで行ってしまう。そしてそのための補強は、「サファリ」の場合、国内ラリーを走るレベルのプラスαくらいでは、まったく追いつかないほどだそうだ。

(つづく)

(「スコラ」誌 1993年 コンペティションカー・シリーズより加筆修整)
Posted at 2016/03/10 17:05:58 | コメント(0) | トラックバック(0) | モータースポーツ | 日記
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