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2016年11月19日 イイね!

映画『コクリコ坂から』~1963年的「細部」とクルマが気になる 《2》

映画『コクリコ坂から』~1963年的「細部」とクルマが気になる 《2》松崎海の妹・空は、風間俊が屋根から飛んだ時の写真を「30円」で買ったと姉に言った。「30円」というのは、この映画で桜木町駅にあった切符販売機と同じプライス。国電(当時)の最短切符と写真代が同じだったのであれば、“風間俊ファンクラブ”のブロマイドは、今日の感覚では一枚200円くらいということになるだろうか。

そして空は、買ったその写真に風間のサインをほしいと姉に言う。ただ、風間がいるであろう「週刊カルチェラタン」の編集部は、あの古くてコワい(?)建物の奥深くにある。とてもひとりでは行けないから一緒に来てと、姉にせがむ空。こうして、「海と俊」が初めて会う機会(ファースト・コンタクト)は、図らずも妹の空がお膳立てする格好になった。

文化部系の部室が並ぶ“魔窟”に分け入った、二人の少女。彼らが何とか三階の文芸部までたどり着くと、「ようこそ」と迎えたのは生徒会長の水沼だった。デスクから振り向いた風間俊に、サインを!……と空が写真を差し出す。「してやれよ、ヒーロー!」と、笑ってけしかける水沼。

この時、サインペンを持つ風間俊の右手が、包帯で包まれていることがわかる。空の付き添い役として、そこに松崎海がいることに気づいた風間が言った。「これ、あの時のじゃないぜ。猫にちょっと引っかかれただけだ」

──あの時、つまり風間俊が屋根からダイブした時に、松崎海はほとんど反射的に立ち上がった。目の前で起きたことに驚き、何より、自分のすぐ傍で起きていることに静観はできない。海は、そんな性分なのだろう。

さらにあの時に、海は、水から顔を出した俊を引き上げようと右手まで差し出した。すかさず、二人の“握手”シーンにカメラが向けられる。(え……?)気づいた海が手を振りほどいて、俊はふたたび水の中へ……。友人たちと一緒の席に戻った海は、吐き捨てるように「バカみたい!」と言った。

そんな海だったが、しかし、「俊の記憶」だけはしっかり残ったようだ。その夕方、掲揚柱から旗を降ろそうとした海は、降りてきた信号旗と、あの時に空から落ちてきた俊の姿が一瞬重なるように見えたことに驚く。

水沼はもちろん、そんなことは知るよしもない。ただ、これは想像ではあるが、水沼は風間から聞いていたのではないか。俺は「松崎海」に重大な関心がある。風間は水沼に、こう言っていたと思う。たとえば、風間が「週刊カルチェラタン」に載せた、「少女よ、何故、旗を……」という詩的な一文である。風間がタグボートから、毎朝掲揚される「航海の安全を祈る」という旗を見て興味を持ち、それに答礼していたとしても、旗を揚げているのが誰であるかは、ボートからはわからない。

海から見える丘の上 → 揚がる旗 → コクリコ荘 → 松崎海。……この“連想ライン”を風間俊に教えたのは、港南学園のことなら何でも知っている事情通の男、つまり水沼なのではないか。親友である二人は、これまでに何度も、「松崎海」について二人で話していたのだ。そういえば、屋根からのダイブの時でも、風間は、一度海と目を合わせてから飛んでいた。

そんな「松崎海」が、妹と一緒であるにせよ、いま自分たちの部室にいる。水沼は(いまこそ好機だ!)と見た。風間の包帯が話題になったところで、水沼はまず、「そうだ、俊の代わりに、ちょっとガリを切ってくれないか?」と探りを入れる。すると、これに妹・空が同調してくれた。「おねえちゃん、手伝ってあげたら? 私、字がヘタだし」

さらに水沼と風間は、海を“こっちの世界”へ取り込もうと、物理のテストの「ヤマ張り」を持ち出した。次回の「週刊カルチェラタン」は、それがメインのネタだったこともあるが、風間は、水沼が「ヤマ張り」の名手であり、その情報は「83%」の確率があると持ち上げる。すぐに水沼は、「残り17パーセントは、自分の運だけどね」とクールに笑ったが。

こうして、松崎海の“内堀と外堀”は埋められた。コトは成ったと見た水沼は、さらに気を効かせる。こんな“魔窟”の中を女生徒ひとりで歩かせられない、自分が出口までエスコートすると申し出て、部室から空を連れ出し、さり気なく「海と俊」を二人だけにするのだ。

……いや、妄想が過ぎるかもしれないが、しかし、この映画は「海=ラ・メール → メル」の説明もない、基本的に不親切なシナリオ(笑)で作られていることを思い出すべき。ゆえに、見る側で「補う」必要があり、また、そうして「補った」方が話としてもおもしろくなる。その意味では、この映画はお子様向きではない。ひとりのオトナの観客として、「描かれなかったシーン」に思いを巡らせながら物語を追うのがいいと思う。

(つづく)    (タイトルフォトは、スタジオ・ジブリ公式サイトより)
Posted at 2016/11/19 23:40:00 | コメント(0) | トラックバック(0) | クルマから映画を見る | 日記
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