
§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection
難がない……ではなくて、いわば積極的に、走ること・曲がることが気持ちのよいクルマ。サスペンションが魅力的なクルマとは、そういう存在である。
それは直感的にわかり、なお、走るたび、曲がるたびにわかる。つまり絶えざる悦びであり、気持ちのいい“瞬時”が連続する。そういうクルマに出会うと、ぼくらは端的に「いいクルマだなあ!」と思い、走ることをやめたくなく、コーナーをこそ待ち望む。
ただし、これは単にコーナリングの限界性能が高いということを意味しない。絶対的な限界比べであれば、たとえばレーシング・サスペンションとスリックに近いタイヤの組み合わせこそ最上ということになろうが、これはカミソリの鋭さであり、限界以上ではおそらくパッキンと折れるだけでなく、取り扱い上でも普段に要注意であるシャープさである。それは、快さを含む疲労感ではあっても、日常的に抱え込めるような快感ではない。
だから、たとえば限界性能でいうなら、それは穏やかに乗り手に知らしめてくれた方がよく、唐突さ、激しさは、ぼくらの望むものではない。いまのはちょっと攻めすぎた……となれば、次のコーナーは少しだけ緩めればいいし、あるいは、そのわかりやすい軽度のドリフト振りをもう一度楽しむ手もあるのだ。
思えば、「足まわり」とは素晴らしい日本語である。以上のようなことは、そういえば単にサスペンションだけでなく、ブレーキやステアリングのフィール、バランスなども含んだ総合性能であった。そのような「足」の良さに、さらにシートまでも含んで、いい走りをするクルマというのはあり、足のいいクルマは気持ちいいと、身体の深い部分で実感するのだ。
いくつかの優れたヨーロッパ車は、しばしば、このような評言を受け、その挙動そのものの魅力でファンを得てきた。
欧州メーカーは《何か》をわかっており、日本メーカーはそのサムシングに到達しない……。このような説も可能だった。とくにシートの良否までも評価基準に入れた場合には、欧州車の総合フィーリングにおける高得点には、日本車はたしかに及ばなかった──エンジンだけ、またシャシーだけなら、欧州車に勝っていると言えるクルマはあっても。
それは、ひょっとしたら、求めつつも手に入らないという意味で、われわれにとっての“青い鳥”であり続けるのではないか……!? そんな悲観論すらも、けっこうリアルであったと、ぼくは思う。
新しいニッサン・ブルーバードが“青い鳥”という名を持っていることは、不思議な偶然である。同車はついに、その“青い鳥”を手に入れた。われわれもまた、その名を持つクルマによって、冒頭に述べたような走りの魅力を獲得できることになった。
おそらく、いくつかの欧州車を走り込んだ結果の(データ化できない)体感をもって最重要なセンサーと成し、そのセンサーからの数値ではない報告を、あくまで目標を高度なところに置きつつ、集約してまとめる。その際に、シートの持つ重要性を決して軽視しない。このようにして創り上げたと思われる足まわりの良さが、新しいブルーバードには体現されている。快挙である。
とりわけ、「エルゴノミック・シート」と名付けられた大型のシートは“独仏混血”の美女とでもいうべき出来であり、ぜひとも搭載車種を拡大すべきスグレモノである。「ノン・スポーティ感覚」(広報資料)なんて言わず、SSS系にもあっていいと思う。フラットな形状に見えて、サイド方向のサポートも悪くないからだ。決して、ハードな走りには不適なシートなんかではない。
センターデフにビスカス・カップリングを組み合わせた「アテーサ」という名の4WDシステムがクローズアップされそうだが、ブルーバードは、そのような“新機構趣味”のクルマというより、クルマの下側の見えない部分に感心すべき点の多いニューモデルである。極めてよく「曲がる」4WDの出現もたしかにニュースだが、走りそのものの魅力は2WD=FFのブルーバードにこそ、たっぷりと詰め込まれている。
このクルマは、とくに欧州車好きの方に試乗を奨めたい。日本車でクルマは十分だという向きも、われわれが得た新たな走りの水準を体感してほしい。
青い鳥は、いたのだ。
(1987/10/27)
○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
ブルーバード(87年9月~ )
◆ニッサンの“青い鳥”は同社だけでなく、この国の乗用車の「走り」の水準を確実に上げた。その契機となった現行スカイラインをまとめる際に、「テストドライバーの声は神の声と思え」という合意があったといわれているが、そのような人間の感覚を重視したクルマ作りへの自信を生んだのも、ブルーバードの成果の良き遺産であろう。いま乗ると、ボディが(西独的でなくて)少々ヤワであり、また日本車としては静粛性も高くないことにも気づくが、その走りと挙動は、やっぱり高く評価したいと思う。
Posted at 2014/09/23 12:31:17 | |
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