
その2 クルマがいつも“傾いて”いる!
そんなに速くは走らなかった(走れなかった!)「北コース」の一周だったが、それでも、いくつか見えてくることはあった。それはたとえば、クルマ(車体)に対する、コース側からの「入力」の複雑さだ。
コーナーひとつを取ってみても、どうもここは、一回ステアリングをスッと切ればそれで済むようなコーナーになっていない。曲がってみたら、さらに何らかのステアリング操作が必要だったとか、コーナーの先というか出口がいきなり下っていたとか。とにかく、走りながら、(おおー、こうなっていたのかぁ!)というようなコーナーが多い。
言い換えると、ひとつのコーナーを抜けるだけでも、クルマ(とドライバー)に何らかの“ストレス”を掛けてくるのが「ニュル」だった。それにしっかり対応し、何とか答えを出していかないと、次には行けない。そんな一種の“意地悪ゲーム”みたいになっているとも思った。
そして、笑ってしまったのは、たくさんあったコーナーをようやくクリアして、たしか最後になるはずの直線にさしかった時だった。それまでずっと、曲がるたびに左右に傾き、ダウンヒルでは前下がりに……と、絶え間なくクルマが姿勢を変えて来たのだが、ようやくたどり着いたストレートでも、それは同じだったのである。
最後の直線を走りながら、どうもクルマが傾いているなあ?と思った。かすかではあるが、ストレートを突進しながら、ここでも右側が沈んでいるように感じた。(ああー、ここでも、傾いてるんだ……)苦笑しながら、「ニュル」はどこまでも「ニュル」であり続けるんだとも思った。
このような「ニュル」における、コースからのクルマへの「入力」については、「北コース」を実際に走ってみる前から、何度か、複数のカーメーカーの開発陣から話を聞く機会があった。本ブログにも掲載した「 Le Mans へ…」でも、ホンダのスタッフがプレリュードとNSX(プロトタイプ)を初めて「ニュル」に持ち込んだ時のことが描かれている。(注1)
まずプレリュードで走った時には、そんなに大変な“道”だとは思えなかった。しかし、プレリュードから、3リッターV6搭載のスポーツカー、NSX(プロトタイプ)で走りはじめた時、いきなり様相が変わった。コーナリングでのこれら二車の速度差は、およそ30~40㎞/hほど。しかし、その差によって、北コースとクルマ(車体)との関係が一変したのだ。
速度が上がった時、「ニュル」は、それまでとはほとんど別のコースになったという。高速で、プロトタイプだったテスト車の足は、いきなり暴れ始めた。ジャンピング・スポットも、もちろん機能し始める。それまで何でもなかったところで、クルマが宙に浮き、そして着地して、そこでまたクルマが落ち着かない。コースに翻弄されるその挙動があまりにもラフであったため、そのプロトタイプは大変更を余儀なくされた。
また、スカイラインGT-R開発でのボディ設計者も、この「北コース」について、改めて「凄い場所だ」だとして、「コースがクルマにさまざまに『入力』してくる、そのレベルが、まるでケタ違いだった」と語っていた。ニッサンの場合は、それまでテストで走ってきた北海道・陸別のコースとの路面状態の違いも作用していたかもしれない。陸別のコースは(知る限りでは)「ニュル」ほどには舗装が荒れていないからだ。
これらの証言でひとつ気づくのは、この「ニュル」(北コース)は、どんな速度で走るかによって、その様相が異なるということ。そして、「ニュル」が牙を剥いて、クルマやドライバーに襲いかかってくるのは、ある速さ以上という条件が付き、そのフェイズになって、コースと闘うという意味でのドライビングのシビアさ、そしておもしろさも生まれてくる(らしい)こと。
しかし、だからと言って、それまである程度以下の速さでしか走れなかったドライバーが、いきなり、その“ニュルがおもしろくなる”速度で走ろうとしても、それは無理な話である。時速何キロ以上で進入すればクルマは飛ぶよ!などと、仮に、ジャンピング・スポットとのバトルの仕方を聞いたとしても、そんなことはすぐにはできないし、また、スキルの高くないドライバーが、それを試すべきでもない。
しかし、世の中にはアタマのいい人がいるものだなと思った。何のためのセダンか、何のための二座席スポーツか。クルマには、ドライバー以外にも人が乗れるではないか──。まあ、コロンブスの卵というか、この「北コース」が基本的にオープンな“有料道路”であることを活かしてのアイデアだが、ともかく「ニュル」には、手練れのドライバーが運転する速いクルマに一緒に乗れるという同乗サービスがあるのだ。クルマは、ダッジ・バイパーであったり、BMWのM5であったり、はてまたVWのトゥーランであったり……。
ジェットコースターにカネ出して乗る人がいるのなら、「北コース」を走るBMWに乗りたい人だっているはず?……という発想で生まれたのかどうかは定かでないが、「ニュル」という“道”が、誰もが簡単に速く走れるコースにはなっていないだけに(彼らの営業をPRするわけではないが)、この“ニュル・タクシー”というサービスには、やはり価値があると思う。
(フォトは「北コース」走行チケットの販売機)
○注1:「 Le Mans へ……1994レーシングNSXの挑戦」第1章。
「2リッター級4気筒のスポーツクーペと、3リッターV6の純スポーツカー。この両車では、メーター読みでたった40km/hしか走行速度は違わない。しかし、その40キロ差がもたらすものが凄いのだ」
「車速が上がった途端、いきなり、ボディがよじれ始める。クルマが空を飛び始める。『G』が横方向だけでなく、縦にも斜めにもかかる。車体は浮き、ハネるが、それが予測不可能なため、ドライビングしてるという感じにならない。どう浮くかわからないのだから、どう落ちるかはさらに読めない」
https://minkara.carview.co.jp/userid/2106389/blog/c919308/p13/
Posted at 2015/01/25 00:04:12 | |
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