
たしかに、このクルマのフロントマスクを顔に見立てれば、ちょっと目は眠たくて、そのくせ、口もとだけは割りと派手め。そんなアンバランス感もあり、また、近頃では珍しい“顔っぽい”タイプのフロントだとは言える。それは認めるとして、でも、ぼくがもしこのクルマを作ったエンジニアだったら、異星人みたいのが意味なく蠢いていたあのTVのCMは、けっこう悲しいだろうな……。
このクルマは、単に顔がちょっとファニーというだけのクルマか? 作った側として、言いたいことはそれなのか? あるいは“笑える”材料を探すことだけが、いまの「広告表現」なのか? そんなことも言いたくなるが、もっとも、よく考えてみると、CMっていうのは当のメーカーがOKしたから世に出ているわけだ。つまりは、ダイハツ自身もこのクルマを“笑える存在”と認識してたのか。
……フム、じゃあメーカーの意向はほっとこう! ともかくぼくは、このダイハツ・ストーリアというクルマについては、顔の細部はどうでもいい。このクルマで注目すべきは、何といっても「柱」(ピラー)だと思っている。そしてそこには、「RV」の隆盛という洗礼を受けた後の「セダン」(普通のクルマ)はどうあるべきか。その答えのひとつがあるとも見ている。
このクルマを一度、正面からでもじっくり見るとわかるが、こんなに各ピラーが「立っている」クルマは滅多にない。このストーリア、実はおそろしく「四角い」クルマなのである。ルーフに向かっての、いわゆる“絞り込み”が異様に少ない、そういう造形──。むしろ細部が妙にオシャレなのは、その“四角四面”ぶりを目立たさせないための工夫なのではないかと思うほど。……そうか、顔だけに注目してくれというCFは、その意味ではメーカーの意図と戦略に忠実だった?
しかし、四角いカタチであることを恥じる必要はない。そういう造型にすることによって、室内では、肩から上の部分での想像を超えた余裕が生まれる。そして、この“四角造型”によってユーザー側が受けるデメリットというのは、実は何もない。
そもそも、いわゆる「RV系」のクルマたちは、この“スクエア造型”路線と「高さ」の主張によって、ユーティリティと快適性を稼いできた。一方で、セダン系がヘンにスポーツを志向し、ちっちゃなルーフはカッコいいとして狭苦しいセダンを作っていた。これでは勝負は見えている。
「パッケージング」とは、いつまで経っても、なかなかこなれない語ではあるが、あくまでセダン型でその要素を重視すると、クルマのカタチはどうなるか。その貴重なトライが、このストーリアの造型なのだと思う。
これからのセダン(日常使用車)は、パッケージングに優れた四角いカタチをどう(カッコよく)見せるかがキモになる。また、全高のある(ありすぎる?)「RV」が必ずしも実用性が高い……わけではないという側面もある。そして、まだまだセダンには存在理由がある。そんな時代が生んだ、あるいは、そんな時代を超えようという野望を抱えた、ダイハツからの新提案。いま、ストーリアがおもしろい!
(ダイヤモンドEX誌 1998年)
Posted at 2015/11/25 19:13:06 | |
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90年代こんなコラムを | 日記