
あのパジェロが消滅するかもしれない……というニュースがある。もう新型の開発は行なわない、つまり次期型を作らないというもので、12月5日の日経電子版でも「新規の開発は中止」することが報じられている。
一世を風靡したモデルが現行型を最後に消える(かもしれない)というのは寂しいし、いろいろと感慨もあるが、しかし逆に、これはチャンスではないのか!という気がする。あるコンセプトで通したモデルが、時が流れて、状況や市場に合わなくなった。こういうのはアタリマエのことであり、もし、合わなくなった(売れなくなった)のなら、「時代」や「人」に合わせて変貌させればいい。消してしまおうではなく、どう変えるかである。
“あの頃のパジェロ”は、「時代」とさまざまな幸運にも恵まれ、空前のヒット作になった。人々が「クルマ」に関してフリーな感覚を持ち始めた時期、従来のジャンル以外で「乗用車」にできるものを探し始めた。マルチパーパス(多用途性)はその通りだったし、クルマ(乗用車)はこうした“変種”であってもいいという提案をメーカーとユーザーで共有できた……など、さまざまな“ヒット要素”が1990年代のパジェロを取り巻いていたと思う。
一方でメーカーは、パジェロのヒットの原因をどのように捉えていたのだろうか。強力なオフ性能を持つクロスカントリー車、それを証明するためのモータースポーツ・シーンでの活躍と実績。これらがメーカーがパジェロに与えたポジショニングだったようだが、ただ、ユーザーそしてカスタマーは、このクルマをもっと「広義」に受け止めていたはずだ。
そもそもパジェロが一世を風靡していた当時に、既に、オフロードを一切走ることなくその生涯を終えるパジェロがいる……という笑い話があった。「クロカン+スポーツ」というメーカーの措定は、カスタマー&マーケットによって別のものに置き換えられていた。(アメリカはそういう現象に対して、新たに「SUV」という言葉を作ったのではないか?)
「乗用車」にはいろんなタイプがあっていい。そういう“受け皿”にパジェロも収まっていて、そして2000年代になると、その“受け皿”に「クロスオーバー」という言葉と要素が絡み始めた。もちろん三菱もそれを読んで、アウトランダーという新しいクロスオーバー・モデルを世に問うたのだろう。アウトランダーは、私見では「セダン+ミニバン」のクロスであり、これは正しい戦略だと思うが、だからと言って“あのパジェロ”を消してしまうことはない。
たとえば全輪駆動車とかオフ性能、あるいはクロカン車をイメージしたい場合に、米人なら「ジープみたいな」というかもしれないが、私たちは短い言葉でわかってほしいなら「パジェロみたいな」と言うのではないか。そのくらいに、この国では「パジェロ」は浸透した。
そういえば、“本家”ともいえる「ジープ」は、2015年に「史上最小のジープ」と謳って、コンパクトSUVの「レネゲード」をデビューさせている。われらがパジェロだって、この種の手口は使える。仮に、いま作ってるパジェロが売れなくなったのなら、どんなパジェロなら売れるのかと、新たにコンセプトを立てればいいのだ。
1990年代の「RV」ブーム以後、わが国のクルマは多様化した。クロスオーバーという言葉が日本でついに流行らないのは、極言すれば、90年代後半以降の日本のクルマがすべて“クロスオーバー車”であるからかもしれない。それぞれのジャンルが他のジャンルを互いに学びあって、世界に類例がない“脱カテゴリー”状態のマーケットになっている。
そんな状況であるからこそ、2010年代後半から2020年代に向けて、伝統のパジェロをどう作るか。あるいは、どんなニューモデルに「パジェロ」という名を与えるか。それがメーカーとしての腕の見せ所であろう。
たとえば、米国の高級ブランドというキャデラックでも、1950~60年代の華麗なるテールフィンの時代と、ダウンサイジングしてSUV風までラインナップに加えた今日のキャデラックでは、バッジ以外の共通性はほとんど何もない。しかし、それで通る、もしくはそれで押し通す。これがブランド戦略というもののはずだ。
クルマのカテゴリー、その“垣根”が消失しかけている今日とこれからだからこそ、「パジェロ」のようなブランドが活きる。パジェロを──正確には「パジェロ」という「名」を消すな! 2015年、メーカーに提言したい。
Posted at 2015/12/18 17:56:38 | |
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