
電車通勤になってからというもの、往復の電車の中で暇を持て余すようになったので、古本屋であさった本を読むようになりました。こちらは大手古本チェーン店で860円で売っていたものです。
さて、「よみがえった」といっても、ここ最近だけでも3回くらい「よみがえって」いるマツダ^^;ですから、いつのことを言っているかと思われるかもしれませんが、20世紀末の、3回のうちでは最初の危機の時のお話です。(本書の刊行は2004年11月22日)
皆様ご承知でしょうが、このころのマツダはいわゆる「5チャンネル戦略」の失敗ででえらいことになって、フォード傘下に入りました。冗談じゃなくて、マツダはこのままフォードの一工場になってしまうんじゃないかと心配されたわけですが、端折って言うと、乗り込んできたフォードの経営陣は「4ドアのスポーツカーを作れ」と、逆に「無理難題」を出します。そして誕生したのが、言わずと知れた「RX-8」です。
もとはソニーの技術者だったという著者、ソニーのウォークマンなどを引き合いに、「これまでになかった商品」を世に出すことの難しさを説いていますが、興味深いのは、どちらも開発する担当者の方が半信半疑だったということです。
物語の前半は、皆様御存知の任田功氏を軸に、RX-8の開発物語で始まります。RX-7の後継車を開発していた任田氏は、乗り込んできたフォードの経営陣にあの手この手でRX-7(2ドアスポーツ)の開発を訴えますが、経営陣は絶対にYesと言いません。
たとえば、RX-7の試作車と100kgの重りを用意して、重りの有無でミラー社長に乗り比べてもらい、「だから、軽く作れる2ドアで開発させてください」と持って行こうとします。すると「100kg重いとスポーツカーにならないのはわかった。だから、100kg軽くしたまま4ドアを開発しなさい。」と返されるという具合。しかし、一見無理難題としか思えない要求の裏には、明確なコンセプトがありました。
かいつまんで言うと、こんなところでしょうか。
「2ドアのRX-7を作ったところで、売れても『今まで程度』だし、失敗する危険も少なくない。失敗したら今度こそロータリーエンジンは終わる。そのような危険な開発を、危機的状況の今のマツダで行うことはできないのだ。開発するのは、4ドア4シーターの、『安定した需要の見込める』車であることは絶対条件で、いかに無理難題と思えようと、これだけは譲れない。」
そして、任田氏ら開発陣は見事この期待に応えます。ミラー社長と任田氏ほか開発陣の対話(というよりぶつかり合い)の中から、RX-8、ひいては、現在のSKYACTIVに続く「日常で使いながら走りを楽しむことのできるクルマ」というコンセプトが固まり、開発陣と経営陣が車の両輪のごとく回りだしたといっていいでしょう。同じエンジニアとして、このシーンには胸を熱くするものがあります。
この本はこのように、RX-8の開発を切り口に、企業の再生の一つの形を生々しく描いており、実に面白い本です。また、現行車種の開発に主査や重要な役職でかかわっている人たちが様々な形で出てきて、その意味でも面白いですね。
ですが、あとがきで著者はもう一つマツダに、実に鋭い批評を加えています。文中の表現で言うと
「マツダの対消費者コミュニケーションはまだまだ足りない気がする」
ということです。著者は、「赤いファミリア」のヒットをブランドのファンとして獲得できなかった失敗を引き、それに当時のRX-8のCMなどを重ね合わせ、いわゆる一発屋で終わらないかどうかを危惧していました。残念ながら、この点では悪い予想が当たっていたのかもしれません。マツダはその後も2度の経営危機を迎え、ロータリーエンジンの開発も一時中断します。自身の経験で言っても、マツダの店員は世間に流布された車の「人気」に乗っかるだけで、自分から車の魅力をアピールしたり、個々の顧客に合わせた提案をしたりといったことができていないように思えます。
10年以上前、今とは全く違う状況で書かれたはずの本ですが、不思議と今のマツダと重なることが多く、それはとりもなおさず、マツダがまだこの最大の弱点を克服できていないこととも言えます。
マツダの、特に販売の人にはぜひもう一度読んでほしい本ですね。
Posted at 2015/10/21 23:21:09 | |
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