E46のDouble VANOSのオーバーホールを考え始めました。
下の絵は、VANOSのピストン周りの構造についていろいろ調べた上での僕の理解を絵にしたものです。まだ間違いがあるかも知れません。もし間違いにお気付きの際はご指摘下さい。
右のスプラインシャフトをピストン本体に対して太くしすぎましたね。
■ Double VANOSの動き
絵ではちょっと表わせていませんが、スプラインシャフトの細い部分がピストン中心のベアリングレースに接する形でボルト固定されます。なのでベアリングレースはスプラインシャフトと共に常に回転しています。前から見て時計回りです。このボルトは逆ネジなので、緩むことはありません。

これも絵では表せていませんが、スプラインシャフト(11番)は筒状になっていて、筒の外側の歯がカムシャフトスプロケット中心の歯と噛み合い、筒の内側の歯はカムシャフトの先端に覆い被さってカムシャフトの歯と噛み合います。つまりスプロケットはスプラインシャフトを介してのみカムシャフトを回転させます。これがVANOSのポイントです。
油圧はピストンの前後のどちらからもかかります。油圧のかかる経路の切り替えなどは給排気側それぞれのソレノイドが(DMEからの司令で)行います。
ピストンの前方(絵では左側)から油圧がかかると、スプラインシャフトが後方へ移動しスプロケットの穴に潜り込む量が増えます。スプラインシャフトは潜り込むと同時に、斜めの歯の働きにより(前から見て)時計回りにねじられます。するとカムシャフトも一緒に時計回りにねじられます。すなわち進角が起きます。
逆にピストンの後方から油圧がかかると、スプラインシャフトも前方に移動すると同時に逆時計周りにねじられ、カムシャフトには遅角が起きます。
ソレノイドが油圧経路を高速で交互に切り替えることにより、ピストンを途中の一定の位置で止めることができるのだそうです。全体的にすごくよく考えられています。驚きです。この制御のためにカムシャフトポジションセンサーからの信号を使うんでしょう。
さて、オーバーホールでどこをどうしたいかについてです。
■ ピストン外周のOリングについて

(画像はBeisan Systemsより拝借)
いろいろ調べると、Double VANOSユニットのピストンに使われているOリング(※断面は円形ではなく四角形)は、少なくともM54やM52TUといったエンジンではただのゴム製です。正確には、ただのゴムなのは、二重になっているOリングの内側だけで、外側は元々テフロン製のようです。
ゴムのOリングはそのうち熱などで劣化して痩せ細り遊びが大きくなるので、ピストンにかかる油圧を受け止められなくなり、バルブタイミング調整がうまく動作しなくなるそうです。またVANOSハウジングの中でピストンが暴れてカラカラという異音を発生するようになるそうです。いろいろな動画で見ると、リペア前のピストンはハウジングの中で驚くほど緩々で、キャップを外すと斜めに向き放題になっているものが多いです。これでは油圧も逃げまくりだろうという感じです。
このOリングの対策品をBMWは出していないどころか、そもそもVANOSの内部パーツを単品では出していません。が、熱に強いVITON製のピストンOリングを出している業者があります。
M54のVANOSリペアを実演している海外のYouTube動画をいろいろ調べると、カラカラ音はこのOリングの交換でまず直るそうです。実際、いろいろ動画を観た限りでは、Oリングの交換を経たピストンはハウジングの中できっちりと前後方向にのみ動くようになります。
せっかくやるなら、少なくともこのOリングだけは対策品にしないと意味がない、というか勿体ないでしょう。Oリングはピストン1つあたり大小2つずつあります。
外側のテフロン製のOリングは、伸びないので装着時になかなか大変なようです。予めお湯に浸して少しでも伸ばしてから嵌めると、多少は楽にいくようです。
■ プラグのOリングについて

(画像はECS TuningとYouTube動画より拝借)
あと、Oリングということで言えば、ピストンキャップ(M24ボルト付きで、中心に穴があいている)の穴に嵌めるプラスチック製の小さいプラグに付くOリングも、同じく社外品でVITON製の対策品が出ています。このプラグはピストンキャップに対して回転はしないので摩耗はしませんが、油圧は受けるので、せっかくやるならここもVITONに交換したいところです。

(画像はBeisan Systemsより拝借)
こうやってピストン外周のOリングとセットで売られていることが多いです。また、この写真のケースでは含まれていませんが、VANOSユニットへのオイルホースのバンジョーボルトのところのガスケットもセットで売られていることが多いです。
ちなみに、このプラグのOリングのところから仮にオイルがピストンキャップの中に入ったところで、反対側のスプラインシャフトが出口を塞いでいるので影響は無いような気もしないでもないですが、実際は隙間があるんでしょうかね。
ここまで書いたOリングの交換だけでも、予防整備としてかなり価値がある気になっています。エンジンの全体的な調子や下のトルク、それと燃費がかなり向上したと書いているレビューが多いです。ブローバイガスも減るのかも知れません。
■ ピストン内部のリング(筒)とニードルベアリングについて
扱いに困るのがこれです。せっかくのオーバーホールのついでに手を出すべきかどうかが悩ましいということです。

(画像はBeisan Systemsより拝借)
ピストンの内部にあるニードルベアリングのペアを収めているリング(筒)の前後方向の厚みを純正よりも狭めたものを出している業者があります。通常はAnti-Rattle Kitという名で売られています。
このリング(筒)に関しては、海外の掲示板では、Beisan SystemsというVANOS専門業者(←恐らく)の製品の評価がとても高いようです。精度の点でここ一択という感じの評価です。ただ、ここは他よりお高いです。ここが元祖なのかも知れません。

(画像はBeisan Systemsより拝借)
Beisanはリング(筒)だけでなくニードルベアリングも売っています。せっかくなら寸法をきっちり合わせたベアリングレース(=2つのベアリングの間にある、絵では赤いパーツ)もセットで売ってくれれば面倒がないのに、と思いますが(笑)。ベアリングレースまでセットで売っている業者は見つけられませんでした。
傾向として純正のリング(筒)では遊びが大きいのかどうかまでは分かりませんが、「対策品」が出ているということは、恐らく純正では多少の遊びはあるんでしょう。
■ 遊びとカラカラ音の関係について
Beisanの説明によれば、ピストン内部の前後方向の遊びがカラカラ音の根本原因なのだそうです。
曰く、カムシャフトがバルブを押し下げる際にはバルブスプリングの抵抗を受けて遅角気味になり、反対にバルブスプリングが伸びる局面では進角気味になるという動きがそのままスプラインシャフトの前後方向の動きに変換され、一定の回転域では共振となってピストンの中でカラカラ音を発生させる、のだそうです。このせいで、ハイカムを入れている車両はカラカラ音が出やすいのだとも。また、スプロケット、スプロケットシャフト、カムシャフトを新品交換すれば、スプラインの噛み合いのクリアランスの減少に伴ってカラカラ音は一時的には直るものの、ピストン内部の前後方向の遊びを放置していれば、またいずれカラカラ音は再発するのだそうです。

(画像はYouTube動画より拝借)
ピストン内部に遊びがあるか否かの確認は、VANOSハウジングからピストンを取り出した後に、まずピストンをスプラインシャフトとともにT30ボルトでカムシャフトに軽く固定した上で、前後に揺すってみれば分かるそうです。なるほど、という感じです。もしこの時点で遊びが無く、かつベアリングの回転もスムーズなら、わざわざピストン内部に手を出す必要は全くないでしょう。なお、横方向の遊びはBeisanによれば必要なものだそうです。
■ 遊びと進角/遅角度合いの変化の関係について
仮にリング(筒)の厚みが内部のニードルベアリングやベアリングレースの厚みに対して過大で遊びがある場合、カラカラ音以外にはどういう影響があるのでしょうか。個人的にはカラカラ音よりこちらに興味があります。カラカラ音の話は聞いたことがありませんし。
ピストンの前方(絵では左側)から油圧がかかってスプラインシャフトをリア側/カムシャフト側へ押そうとしている場合に、ベアリングとレースがリング(筒)の中で前後に動く余地があるので、スプラインシャフトが実際にリア側へ押される力として伝わるのが遅れることはありそうな気はします。
この遅れが(あるとして)実際のエンジンのパフォーマンスにどう現れるのでしょうか。
以下は間違いかも知れませんが、、「スプラインシャフトがカムシャフト側へ押し出されスプロケットに潜り込む量が増えるとカムシャフトが進角する。ここで例えば低回転から中回転へとペダルを踏んだ際に進角が遅れると、吸気側なら、吸気バルブが早めに開く動作に一瞬の遅れが出る。」でしょうか?

ただ、スプラインが斜めに切られた向きを見ると、スプロケットの回転によりスプラインシャフトは常に前方に押し付けられている気がします(スプロケットの回転は前から見て時計回りなので)。だとすると、ピストンを後方へ移動させようと油圧が加わる瞬間には、スプラインシャフトを後方へ押し出すための力の伝達経路上には遊びは無いことになります。うーん、怪しいですが。
遊びが遅れとして現れるのは、ひょっとすると油圧がピストンを前方に押し出す際、つまりカムシャフトを遅角させようとする油圧が加わる瞬間なのかも知れません。つまり高回転への移行時?
■ 過度な予圧の影響について
遊びとは逆に、もしリング(筒)の厚みが内部のニードルベアリングやベアリングレースの厚みに対してギチギチでベアリングに過大な予圧が掛かっている場合、ベアリングがスムーズに回転しないので、カムシャフトの回転に応じ、本来は回転することを想定されていないピストン自体が回転してしまいそうです。そうなればピストンOリングの消耗はかなり早いでしょう。また、リング(筒)とエンドワッシャーの間に隙間ができているでしょうから、そこから中にオイルが入り込み油圧が逃げることもあるかも知れません。エンジンパワーがVANOSのせいで常に食われていそうです。
遊びか過大な予圧のどちらかを選べと言われたら、まだ遊びでしょうかね。
■ 遊びまたは過大な予圧があった場合の対処について
もしリング(筒)をBeisanなどの対策品に交換してもまだピストン内部に遊びがあり、「対策」したいなら、リング(筒)の厚みをさらに減らすために研磨する以外に無いでしょう。これは大変そうです。斜めに研磨してしまいそうですし、やりたくないです。ただ、Beisanはこのリング(筒)の厚みを純正より狭めているということなので、この作業は不要になることを期待します。というか、ピストンの分解自体が不要になることを期待します。
逆にもしベアリングがスムーズに回転しなかった場合の対策としては、今度は厚いベアリングレース(絵の真ん中の赤いパーツ)を研磨して薄くする必要があるでしょう。これもやりたくありません。
■ ピストンキャップの締め付けトルクについて
ピストン内部の遊びや予圧の程度は、ピストンキャップの締め付けトルクによっても多少は変わる気もします。ただ、締め付けトルクを強めたところでリング(筒)やエンドワッシャーが潰れる訳でもないでしょうから、締め付けトルクはあまり気にしなくてもいい気もします。
このピストンキャップの規定トルクは謎です。確かな値は誰も知らないようです。ピストンを万力で固定してインパクトレンチで思い切り締めている動画が多かったです。ただインパクトレンチはやり過ぎな気もします。それに、インパクトレンチを使えばピストンキャップのボルトの角に傷が付きそうな気がしますが、中古品などではそんな傷は見たことがありません。BMWではどう組み立てていたんでしょうか。謎です。ピストンの鍔の後方をよく見ると、一定間隔でギザギザがあります。これをジグに嵌めて固定した上で締め付けていたようです。
あと、整備性を考えるとピストンは円形ではなく六角形ぐらいでよかったのにと思います。ピストンはどうせ回転しませんし、六角形なら万力で固定もしやすいでしょう。
ピストンキャップはピストンに対して順ネジで、カムシャフトの回転はフロントから見て時計回りです。ということは、ニードルベアリングの時計回りの回転につれてエンドワッシャーにも時計回りの力が多少は働くので、今度はピストンキャップに触れているエンドワッシャーからの摩擦を通じてピストンキャップも締まる方向の回転が加わる気がします。ということは、ピストンキャップは最初は軽めに締めておけば、締め付けは自然といい感じに落ち着きそうな気もします。ただ正直よく分かりません。やはりピストンを開ける必要が無ければ開けたくないです。
とか言いながら、その場になれば誘惑に勝てずに開けてしまうかも知れません。。挙げ句は、ハマらなくてもいいドツボにわざわざハマる。。ああ、そうなりそう。。
ということで、いろいろ細かい疑問や懸念はあるものの、オーバーホール用のパーツをいろいろポチりました。

ピストンを開けざるを得なくなったときのために、IPSのソフトタッチワイドWL-270Sをポチりました。万力は持っていないので。
VANOSの脱着のためにはバルブカバー(ヘッドカバー)のガスケット交換が必要になります。最近交換したばかりなのでかなり勿体ないですが。
【追記】オーバーホールを実行しました(2024/4/6の整備手帳を参照)