ジェームズが北海道から鹿児島まで日本を縦断する
全6話のAmazonプライム・ビデオ配信の旅番組
2020年 1月 3日配信始
(日本では2020年 3月 6日配信始)
2020年3月からAmazonで配信開始された『ジェームズ・メイの日本探訪』(原題:James May: Our Man in Japan)は、英国人のテレビ司会者・ジェームズ・メイが日本を訪れる旅行ドキュメンタリーです。
撮影時期は2019年3月下旬から11週間にも及んだとのこと。
北海道から始まり、太平洋側経由で南下し鹿児島まで巡ります。
Go (行こう)
旅の始まりは北海道、3月でもまだまだ雪が多く冬の気配も濃い景色が続きます。
大雪で撮影がままならないシーンもあり、さっそく北の大地に試されるジェームズ一行。
ですが「ありきたりな旅番組にはしたくない」というジェームズの意思は強く、漁師とともに大海原に繰り出し釣果ゼロのまま帰ってきてもめげません。
神々しい日本刀に触れたり、ややこしい食券機に翻弄されたりと、「日本らしい景観・伝統的な文化」~「サブカル的な変わり種スポット」をバランスよく巡っていきます。
『古さと新しさが混在し、相反する魅力を持つ不思議の国・日本』がこの番組の裏のテーマとも言えるでしょう。
Cabbage Roll (キャベツロール)
北海道からフェリーで東北地方に到達したジェームズ一行。東北もまた、現代と古代の慣習を併せ持つ独特の魅力に満ちています。
【山形・羽黒山】では山伏と共に雪の残る階段を登り、【宮城・仙台】ではアイドル「ぜんりょくボーイズ」の早朝ライブ(朝6時台から並ぶ!)に参加、俳句大好きジェームズの憧れの地【陸前松島】ではその景色の美しさに感動し、相馬野馬追で有名な【南相馬】では、戦国時代の本格的な甲冑を着用して自転車で走り出すアドベンチャーな旅が展開されます。
東日本大震災の被害にも触れ、福島の原発の問題を取り上げます。
ガイガーカウンターを構えながら浪江町に向かう一行。地元で暮らす人を軽々しく励ますようなことはせず、静かに寄り添う姿が印象的です。
浪江町で料理屋を営む青年に「また会いに来るよ」とサラっと言ってくれるジェームズの優しさに惚れてしまいそうに...
忖度無しの日本探訪、主としてバラエティ要素の強い展開になっていますが、きちんとこうした負の側面にも目を向けます。それがこの紀行番組の本気さを感じられる要素にもなっています。
※ちなみに二足型巨大ロボ『MONONOFU』は群馬県・榛東村の榊原機械で開発されたものです。編集の都合で東北に入れられてしまったらしいですね)
Deodorant (制汗剤)
会津若松からは超豪華寝台列車『四季島』で移動、一波乱ありつつもゴージャスなひと時を過ごしたジェームズ一行はいよいよ日本の首都・東京に到達します。
季節はちょうど春のベストシーズンで、満開の桜が一行をおもてなしします。
咲き乱れる桜のもと浮つく人々とともに、ジェームズも花見や祭りにチャレンジします。
東京の春を楽しむため…というだけでなく、そこから日本人の秘められし心に触れようと抜け目なく観察しているジェームズ。
バカ騒ぎしているところをジェームズに冷静に分析されるのは、嬉しいような恥ずかしいようなキモチでもあります。
川崎の奇祭・かなまら祭り(※英語で雑に紹介するとペ●ス・フェスティバル)ではジェームズ特有の下ネタの言い回しが冴えわたります。
ジェームズ・メイほどこの祭りを世界に紹介するのに適した人物はおりません。
「悪趣味だろうとたかがペ●ス、人類の半分が持ってる」
また筋金入りの「鉄オタ」と紳士的な交流をしたり、俳句のプロフェッショナルたちから薫陶を受け、代々木アニメーション学院では若者たちに交じって体験学習、鉄道音楽界の重鎮・向谷実先生に駅発着音ジェームズ・メイ版を作曲してもらい、チームラボによる最先端のデジタルアートに触れインスパイアを得るなど、東京ならではのサブカルチャー感にあふれた体験をします。
東京編で初登場の通訳・雄二朗氏はかなりクドめなキャラクターで始めのうちは迷走を繰り広げますが、日本についての説明も偏りすぎず、バランス感覚が取れた人物です。
今後たびたび登場し、ジェームズとの友情(?)を深めていきますのでお楽しみに。
Hey Bim ! (ヘイ、ビム!)
バイクのツーリング集団とともに日本人の心の拠り所、富士山に立ち寄る一行。
親日家のジェームズは日本のバイクの歴史にまで精通しており、バイクの発展から暴走族の話まで詳細に紹介してくれます。
…そろそろジェームズが社会科の先生のように思えてきました。
富士山と日本人の関係を探るべく、50年間毎日(!) 富士山を描いている櫻井さんに話を聞くジェームズ。
日本人の魂のなんたるか、富士山を理解すれば見えてくる!というのは分かる気がします。
『富士山は日本人の魂』と言う櫻井さんのシンプルで素朴な言葉が沁みるのですよね。
古都・京都では舞妓さん(番組中では芸者と表記)から日本的おもてなしを受ける一行、伝統的なお茶・踊り・歌などを楽しみます。
一方で観光案内ロボットによるおもてなしを受けるも予想外の展開です。
可愛い顔してバグが止まらないロボに翻弄されるジェームズ一行、果たしてまともに京都を巡ることができるのか!?
ちょっと長めの旅行だと疲労が溜まってくる中盤くらいに同行者とケンカすることってありますよね。
この番組の製作も例外ではなく、ジェームズと番組製作の監督との間で意見の食い違いが起こります。
監督「バスが横切ったから撮り直したい。この番組は僕たちの作品でもあるんだ」
ジェームズ「バスが映ってたほうがいい。ありのままの姿を伝えたい」という...
視聴者からしたら「どっちでもいいんじゃ…」と思うようなレベルですが、創り手として細部にこだわりたい!という気持ちは非常によく分かります。
ちなみに自分はは「バスが映ってたほうがいい」ジェームズ派です。
こころ旅の火野正平さんと同じ考え方ですね。
ただし、火野さんの場合は撮り直しがめんどくさくて言ってるのかもしれませんが…w
Peach Boy (桃太郎)
『東洋のマンチェスター』と呼ばれる道楽の街・大阪に到達する一行。
突然「東京の人は大阪を見下してるらしい」と東京と大阪の複雑な想いにまで迫ってくるジェームズ。
これを短時間で説明するのはちょっと難しいかもしれません。
こんな細かいところにまで踏み込んでくるとは、ジェームズの好奇心をここまでかきたてる日本人の神秘性とは... と思わずにはいられなくなってきました。
そんな大阪の街では気軽に楽しめるエンタータイメントが大充実!
穏やかでテンションが一定しているジェームズですが、心なしかいつもより楽しそうに見えます。
好奇心旺盛なジェームズは、大阪をエンジョイしながら未知のアドベンチャーにも挑戦します。
なんと漫才の舞台に立つことに!だが、しかし!!
がっつりスベって意気消沈... 観てるこっちもしんどい展開ですが、残念ながら『ボケ突っ込み』の大阪文化はジェームズたちに伝わっていなかったようです。
通訳のはっちゃん女史が時々「関東の人は二日酔いのときにケバブを食べる」など細かいボケをかましていましたが、ジェームズにはスルーされていましたね...
『笑い』は国境を越えにくい、と改めて思い知らされます…。
そんな大阪で派手な体験をしたのちは岡山へ移動します。
スタッフは車ですが、ジェームズのみ新幹線利用。
四苦八苦しながら駅で切符を買う姿には、手助けしたくても助けられないもどかしさを感じてしまいます。
エピソード5の広島パートですが、ジェームズも「デリケートな問題だし、他の番組もあるよ」と前置きしますし、広島ではオフザケは一切ありません。
日本版では、神戸大学大学院法学研究科教授でアメリカ出身の簑原俊洋氏へのインタビュー(2分程度)が全てカットされています。
簑原氏は本音と言いながらも「広島と長崎の犠牲が無ければ、韓国と北日本はソ連に占領されていた」というアメリカの建前を言います。個人的には、この意見には賛同しかねますが、英米版で存在する以上、日本でもカットしないでほしかったです。
冒頭の『出演者個人の考えに基づくものです』で充分だったと思いますが、もしかしたら簑原氏側の意向があったのかもしれません。(ちなみに、冒頭の但し書きも、日本版にしかないようです)
Season 1 Episode 6 四国&九州
Pickled Plum(梅干し)
いよいよ番組も最終回、本州から瀬戸内海を自転車で駆け四国へ移動します。
香川県ではゆるキャラに迎えられ、うどんを打ち合気道を体験。
徳島県では人口27人の限界集落・名頃(なごろ)で300体以上のかかしに出迎えられます。
名頃は個人的に一番衝撃的な訪問地でしたが、外国からの観光客にはちょっと有名なところだそうです。
四国から瀬戸内海の絶景を楽しみつつ九州へ渡る一行。
大分県の別府では砂に埋められるなどして地獄めぐりをエンジョイ、砂湯で通訳と案内をしてくれた雄二朗に別れを告げます。
「身動きが取れないので本音を言う」というジェームズがとても英国人らしくてグッと来てしまいます。
熊本県では「ジェームズが得意なこと」であるホンダの工場に寄り、宮崎県の高千穂でびしょ濡れになりながら神道への理解を深めます。
旅の終わりの地である鹿児島ではちょっと駆け足進行、薩摩焼を30分で習得するジェームズ、華道で花との対話を芸術に昇華させ、人形浄瑠璃文楽も体験します。
この人形浄瑠璃、なんとジェームズ自作自演で今までの日本探訪の旅についての劇を上演することになります。
文楽で旅のまとめをするだなんて... とてもチャレンジングな締めくくりに思えました。
この番組の中でジェームズが一番使っていた日本語はなんでしょう。
それは… 「すみません!」
使うシュチュエーションが正しかったりズレていたりもしますが「本音と建て前」などここまで日本人の内面に迫ったジェームズが、最も重要な言葉は「すみません」と言うのはとても興味深いです。
最後に松尾芭蕉のように俳句を詠んで締めくくるジェームズ。
感傷と、少しの不思議さを残して旅を終えます。
この旅を通じて得たものとは...
明確ではなく抽象的な結末にはなっていますが、それが曖昧な国の日本にちょうどよいと感じました。
今回の旅は太平洋側がメインだったので、次シーズンがあればぜひ日本海側+沖縄も巡って、また新たな俳句を詠んで頂きたいものです。
先月に見返したのですが、撮影時期を考えると製作側が意図していないにしても、コロナ禍直前の日本の姿を映した貴重な番組になっています。
一昨年のことなのに、ずいぶん昔のように感じてしまいます。
ちなみに公開の前年(2019年春頃)に、撮影の様子がSNSで話題になったのをご存知の方もいらっしゃるかと思います。
「ジェームズ・メイが仙台にいる!」「川崎にいる!!」など、連日入る速報に、自分もそのうちジェームズに会えるのでは...と夢見てしまいましたが、やっぱり会えませんでした...
シーズン1ということは、シーズン2もあるのでしょうか?
covid-19が収束すれば撮影開始⁇
シーズン1は英国のプロデュースでしたが(当然ですが)、もし次があるのでしたらもう少し日本側のプロデュースも関わってもらいたいです。
まだ、アジアへのやや偏った見方が拭えない内容に感じたものですから。
最後に...
ジェームズが東京での冒険を終える時、この様々な文化で溢れる日本の首都への想いについてあることを口にします。
私もうっすらと思っていたことなので、共感せざるを得ませんでした。
ちょっと寂し気に語った(ように見える)ジェームズの現代における東京観、是非実際にご覧になってみてください。
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Posted at
2021/07/02 08:12:20