
この世の中には道理というものがあります。
ものの道理というものがあります。
例えばそれは、子供というものは、自らの食い扶持をもって生まれてくるということ。
だから親は、人間の考える狭い了見で、「子供が生まれるからもっと貯金しなきゃ」とか「もっと働いてお金を稼がなきゃ」とか思わなくていいんです。
ただひたすら、自らの今の立ち位置をしっかり自覚して、その立ち位置から一歩ずつ一歩ずつ、しっかりとした歩みで上に向かって正当な努力をしていればいいんです。
そうすれば、子供が生まれながらに持ってきてくれた食い扶持によって、その子の、その家族の人生の学びに必要なだけのものが、自ずと与えられるのです。
そして子供が巣立っていけば、与えられるものは自分たち夫婦が必要なだけになる。
また例えばそれは、何かを得れば、何かを失うということ。
何かを手放せば、何かを得るということ。
お義父さんに言われました。
neJ君、君も今や一家の主だ。
男だろう、覚悟を決めなさい。
覚悟をもって、これからの人生を彼女と共に歩んでゆきなさい。
お義父さんの目は、真剣そのものでした。
お義父さんは続けます。
neJ君、君たち家族のために、私から贈り物をしよう。
軽自動車だけど、君たち家族のために、新車を買ってあげよう。
だから今のクルマから、新しい車に乗り換えなさい。
圧倒されました。
父親として、一家を支え、今まさに娘を巣立たせようとする男の心意気とは、ここまでのものかと圧倒されました。
私に選択肢はありませんでした。
お義父さん、解りました。
私も男です、覚悟を決めます。
覚悟をもって、これからの人生を妻と共に歩み、かならず幸せにします。
でもお義父さん、ひとつだけ僕のワガママを聞いてください。
家族が増えたり、荷物が多かったりしたとき、高速道路を走るとき、周囲の交通の流れを滞らせることなく、余裕をもって走るために、何としてもターボが必要です。
安全のために、ブレーキを踏むのではなく、アクセルを深く踏み込むことが求められる場面もあるのです。
もちろんNAでもエンジンぶん回せば、そこそこ走ります。
私のようにサーキットを走った経験のある人はいいです。音に慣れていますから。
でもそのけたたましい音は、同乗者に恐怖や緊張を与えます。
だからターボが必要なんです。
そして、夜の視認性を確保するために、HIDを付けさせてください。
彼女が一人で子供をかかえながらクルマを運転することもあるでしょう。
その時のために、両側パワースライドドアを付けさせてください。
装飾にコストをかけたカスタムグレードは絶対要りません。
でも家族の安全にかかわることだけは、万全を期させてください。
この追加分だけは、自分で出させてください。
そうお願いしました。
そして、八幡南高校という、昨年私にとてつもなくかけがえのないものを与えてくれた、そのご縁によって、我が家に新しい相棒がやってきました。
HONDA NBOX(turbo)です。
色は嫁さんの希望でオプションのホワイトパールマイカ。
ソリッドカラーのホワイトの設定がないことで、ひと目見てオプションだということが判る人には判る、それが限定好きの自分にとってちょっと嬉しいところです。
でも私の心の中には、まだ未練が残っていました。
明らかに残っていました。
仕事を切り上げ後輩の勤めるディーラーへ行き、綺麗に洗車されたクルマを見たとき、自分で綺麗にしてあげられなくてすまなかったという気持ちと、全幅の信頼をおく後輩の手で綺麗にしてもらえて幸せだね、という気持ちで自然に涙がこぼれました。
平静を装って家に帰ったつもりが、嫁さんにはあっさり見破られてしまいました。
そして嫁さんは言いました。
今日はご飯を食べたら会社に戻らなくてもいいんでしょ?
大好きなビールを飲みながら、ゆっくり食事ができるね。
本当に久しぶりだね。とても贅沢なひとときだよね。嬉しいよね。
嫁さんは続けます。
ご飯食べ終わったら、夜桜を見に行こうよ。
私たちは久しぶりにゆったりと夕食のひとときを過ごし、ダウンを着込んで外に出ました。
懐中電灯片手に家からたった3分ほど、毎日の通勤路のすぐそばに、嫁さんが見つけたという満開の桜が咲いていました。
毎日クルマでそこを通っているはずなのに、気づきもしなかった。
自分の余裕のなさを恥じました。嫁さんにほんとうにすまないと思いました。
懐中電灯の明かりに浮き上がったものは、本当に見事な、心洗われるような夜桜でした。
私は嫁さんの肩を抱き、ただ寄り添ってひとときを過ごしました。
えもいわれぬ気持ちが心の底からこんこんと湧きあがり、少し涙がにじみました。
あぁ、これでよかったんだな・・・。
心の底から思えた瞬間でした。
後編へ続く。
Posted at 2014/04/06 16:49:27 | |
トラックバック(1) |
日記 | 暮らし/家族