
自分なんかは家族もいて最近ますます車に乗る時間が短くなってきてしまっているので、サスペンションセッティングを体で覚えるなんてのはなかなか効率が悪い。理論を知って、それを試す時間として実地を積むことで時間を短縮したい人は他にもいるはず。
特に、ダンパーの減衰調整なんかは比較的弄りやすい車両パラメータなのでまずはダンパーセッティングを試してみるのだが、ダンパーセッティングって何に気をつけて進めればいいかがわからない。それに、ちょっとググってみてもダンパーの過渡状態を詳しくわかりやすく解説した読み物がなかなか見つからず苦労した。
そういう事もあって、ちょっと試しに計算してみたというのが本記事の背景です。まず手始めに、直進中の車両の減速時のピッチング量と荷重変動について計算しました。
ダンパーは、動いていなければ何もしないただの棒なので、ロール/ピッチ量とかステア特性の大部分を決めるのはダンパーではなくスプリングです。そんな中でダンパーの減衰力が変わると何がどう変わるのかを知りたかったので計算しました。最初に断っておくのは、答え合わせをしていないのでこの計算が合っている保証がないということです。
計算する中で、決めなければいけないパラメータやモデル化の要件があったので、決めました。だいたいZC32Sスイフトっぽいパラメータを意識しています。
今回の計算は、簡単のため下記の単純化をしています。
- ピッチングセンターの高さと、サスペンションのアッパーマウントの高さは一致していることにする
- ピッチングしても実効ホイールベースは変わらないことにする → サスペンションの反力はすべてピッチング軸回りのトルクになる
- フロントとリアが対称 → 重心の位置は車両中央で、フロントとリアのスプリングレートと減衰力は同じ
- 減衰力は突然0.8Gになり、4秒後に突然0Gに戻る
他のパラメータについては計算シートのスクリーンショットを見てください
検算を兼ねて、計算結果を検証します。減衰比50%にて、それぞれの特性が妥当っぽい数字になっているかチェック。
- ブレーキング開始から0.33秒ぐらいでピッチングは最大になる
- ストローク量はブレーキング定常状態で15mmぐらい
- 荷重移動量はブレーキング定常状態でだいたい240kgf = 車重の24%、一輪辺り120kgf
まあ、たぶんそれっぽい値でしょう。
それから、肝心の考察
- ピッチング量と荷重移動量はオーバーシュートしたあと収束する → 荷重移動量は減衰振動する
- 減速を開始した直後から荷重移動が徐々に大きくなる
- ピッチングの変化と荷重移動には位相差があり、ピッチングよりも荷重移動のほうが先に始まる → ピッチング量 = 荷重移動量ではないし、ピッチング変化が終わるより先に荷重移動は終わる
- 荷重移動はオーバーシュートするので、オーバーシュートの最大値のタイミング、ブレーキを踏んで0.33秒ぐらいのタイミングが一番フロント荷重が大きくなる瞬間 → コーナー進入でのブレーキ2度踏みとか、コーナー途中の左足ブレーキはこの美味しい瞬間を利用する「減速が目的ではないブレーキの使い方」なのかもしれない
- ダンパーを固くすると姿勢の変化はゆっくりになるが、荷重移動は早くなるっぽい → 減衰比を40%から60%に増やしてみると、荷重移動量のピークタイミングは0.26秒から0.23秒に減りました。ピッチングのピークタイミングは0.33秒から0.34秒に延びた。
> 「荷重移動量は減衰振動する」
最初の考察からは、ダンパーセッティングの悩みどころが見えてきます。細かな路面の凹凸にホイールを追従させる目的では基本的にダンパーは柔らかいほうが良さそうですが、一方でサスをバタつかせない、つまり荷重変動を抑える上ではダンパーは硬めのほうが良さそうです。ダンパーが柔らかくてバタバタ荷重変動されると、Gの限界値もビヨンビヨン変化するので恐ろしげ。この両極の間でいいバランスを取るのが直進運動時のダンパーセッティングの肝になりそう。直進運動時には減衰力の前後バランスとかはほぼ関係ないです。
> 「ダンパーを固くすると姿勢の変化はゆっくりになるが、荷重移動は早くなるっぽい」
最後の考察とかはけっこう重要だと思います。少なくとも今回の計算結果からは、「減衰を高めてゆっくり姿勢変化するようにしたら荷重移動もゆっくりになる」とは言えないです。たぶんむしろ逆です。足回り(ダンパー)を固めると車がキビキビした動きになるのは、荷重移動が速くなるからかもしれません。
計算の結果分かったことは、当たり前のことが多いです。当たり前のことではあるものの、頭の中で描くだけだと当たり前を忘れがちなので、自分で数式を理解しながらグラフを描いたのは意味があったと思います。
今回の計算結果でわかることと、わからないこと、断定できないことがあります。考察のところとかは多少の推察・仮説も含まれるので、この仮説検証は今後の計算ネタになると思います。
今後やってみたいこと
- ブレーキの入力をリアリスティックに(減速力が連続的に変化するときや、ブレーキ残しをしたときのシミュレーション)
- 重心位置やフロントとリアのバネレート/減衰力の違いを考慮したシミュレーション
- ロール(コーナリング)の際の過渡特性シミュレーション
今回の計算シートは閲覧限定でこちらに公開しています。(そのうちリンク切れするかもですが...)
https://docs.google.com/spreadsheets/d/11hATiRnOB7Q5C-3o4a9w8-_f6UhorJsscsPqZgY0Z9M/edit?usp=sharing
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Posted at
2020/07/06 20:40:01