【前日の行程】
新穂高ロープウェイ
↓
西穂山荘
【本日の予定】
西穂山荘
↓
独 標
↓
(西穂高岳)
* * *
翌朝、きれいに晴れ渡る。

きのうの雨が嘘みたいに天気が回復する。

やはりオレには、旅の女神が微笑んでくれている。

日の出とともに、向かいの峰々が赤く染まりだす。
ああ、モルゲンロート!
しかも乗鞍岳じゃないか!

おれの強運を寿ぐかのようなモルゲンロート。
こんな場所でのこんな絶景。
めったとお目にかかれない。
さあ、天候が回復したらこっちのもんだ!
いそがしくなってきたゾ!
朝食をいただきましょう。
ちなみに朝食の時間は5時半です。

しかもなんかメッチャ凝ってる!
山小屋の朝メシなんて、ご飯に味噌汁にベーコンエッグ出しときゃいいのに!(←偏見)
あれですか。ホスピタリティとか気にするようになったんでしょうか。さいきんの山小屋は。
部屋にもどると、北アルプスにデジタル一眼レフカメラを持って上がってきた狂気の男が私以外にもう一人いたので、写真撮らせてもらう。
おっ、EOS Rですな!新型ミラーレスの。
やっぱ、ミラーレス売れてるんだなー。

(↑オーナーの横顔でも一枚と思ったら、いきなり着替えだしたので、はからずもセクシーショットになってしまったが勘弁願いたい。ちなみにレンズはF4通し。F2.8通しが欲しいが、高いし重いし持って登れん!とは当人の弁。うんうん、わかるわかる!プロでもないのに山にF2.8通し持ってきたら狂気通り越してるわ!)
さて、もう6時だな!
そろそろおれも出発しないと。

で、なんでこんなにグズグズしてるのかと言いますと、
トイレ待ってるんです。
順番のことではなく。
尾籠(びろう)な話で申し訳ないが。
出し切ってしまわないと、出発できないじゃないですか。
だって、山に公衆トイレなんてないですよね!?
ていうか、みなさんどうしてんだろ?
オムツでもしてんのかなあ。
宇宙飛行士やMS(モビルスーツ)乗りみたいに。

いい加減、見切りをつけて出発しました!【6:17分】
ちょっと上がって、ふりかえる。【6:30】
ちょっと山小屋を離れただけなのに、なにこの寂寥感。
心細くてやばい。

しかも行く手を阻むは、この鬼のような岩場。
北アルプス・穂高の容赦のない洗礼は、ここからはじまる。

岩場を上がりきると、にわかに眺望がひらける。
ああ!あれが西穂高岳。そして独標。

・・・この時点で正直言いますと、
(ああ、西穂はやめとこう。
独標まで行って帰ろう)
と思いました。
直感で、おのれの力量を眼前に広がる山のスケールとで正しく差し引きしたつもりです。
根性だとか見栄だとか、そういうの一切勘定に入れずに。
いまのオレにはちょっとこれは・・・。
有名な丸山が見えてきました。
ここまでなら比較的ラクなんですよ。

稜線の両側にハイマツが生い茂る。
話ではきいてましたが、本当にそうだ。

朝のまばゆい光のなかで、稜線にそって
ただひとすじの登山道が浮かび上がる。

登ってはふりかえる。
とうとうこんなところまで来てしまった。
本当にいいのだろうか?
おれはここに来ていいのだろうか?
ここに至ってそんな思いが、脳裏をよぎる。

信じられないくらいの急斜面に
えんえんとつづくガレ場。
青天とはうらはらに、
初心者にたいする穂高のおもてなしは、
これほどにかと思うほど、情けも容赦もない。

上高地を見下ろす。
昨年の夏にはあそこにオレはいたんだよな。

夢にまでみた稜線歩きの絶景が広がる。

仕事の憂さも
世間の煩わしさも
ネットの嘘も
テレビのノイズも
忘れることはできないが
消し去ることはできないが
ぜんぶまとめて
地平線の向こうまで放り投げたように
遠くまで。
いま厳乎としてあるのは、
”いま自分はここにいる”
という意識。
うすい大気のなかで自己を保ちうる
たったひとつだけの真実。

(↑向かって左手には笠ヶ岳が雄大にそびえたつ)
独標が目の前で威容を誇る。
目の前と言っても初心者にとって、その道のりははてしなく遠い。
いくつかの難所が待ち受けているからだ。

(↑目の前をゆく親子(母子)にご留意ねがいたい。後でふたたび出てきます)
このあとは写真はありません。
当然です。
写真撮ってるヨユーなんてないから、難所っていうんです。
でもそれだと面白くもないので、
上の写真の連続写真でちょっと説明。

①足場がせまく、左手笠ヶ岳方向は奈落の底です。足を滑らせば一巻の終わり。こわい。
②ここからは見えませんが、岩場が行く手を塞ぎ、手で岩場をつかんで登り下りします。このとき、ゆきずりの上級者から、「登山用ポールはしまったほうがいいよ。あぶないから」とアドバイスをもらいます。ありがたいです。ポール使うことしか考えてなかったので。視野狭窄に陥ってて。ここでは使わないという発想ができなかった。
③最後の難所。かなり急な岩場です。両手で岩をつかみ、這いずるようにちょっとづつ片足で足場を保持しつつ上がっていく。はためから見たらきっとぶざまな姿にちがいない。ゆるいカーブをえがいてるため、気分的にはもしここで足を踏み外し滑落したら、はるか上高地までズルズルすべっていきそうで、マジこわいです。テレビの「イッテQ」でイモトアヤコが「だいじょうぶ、こわくない」とか自己暗示をかけて高所にいどむシーン(たしかシンガポール)が思い出されました。あんな感じです。下見たら恐怖で登れなくなりそうで、あまり下見てないです。本気でこわいです。
そしてようやく、独標に!

『くぅ~ッ!母ちゃん、こわかったよ~!』

ハッ!いかいかん。
ちゃんとした写真とらないと。
じゃ、ポーズ決めてもう一枚。(めずらしく人にたのんで撮ってもらった。前述のポールしまったほうがいいよの女性。アベック登山だった)

(※帽子(キャップ)かぶってましたけど、風が強いのでとばされないようしまいました)
青空がスゴイ。宇宙まで届きそうな蒼穹がひろがる。
そこで、
~今回の旅の忘れ物~
②サングラス(行きが雨だったので車につい忘れてきた)
ということで、
③車にサンシェードするのも忘れてきた。いまごろ車内はアツアツだろうな。
こんなところにまで、デジタル一眼レフカメラを持ってきた男の狂気のさまを、みなさまとくとごらんいただきたい。
(でも、けっこう一眼レフカメラ、持ってきてる人いました)
で、ここから先の西穂高岳はこんな風景。

(↑しかもこのとき、目の前の岩峰を西穂と勘違いしてる。ちがい・・ますよね?)
ムリムリ、
ムリムリ!!
行けるわけないでしょー!!
根性なくていいです。
臆病者となじられてもかまわない。
コレ、絶対ヤバイから!

サメの歯のような峻嶮な岩場の連続。
初心者が足を踏み入れていい場所じゃない。

(↑左手にあるのをジャンダルムと思って撮っている。向こうの峰ですよね?)
登ってきた方向を一枚。
で、さっきから無性に不安なんだけど、
どうやって下りたらいいんだろ?
本気で下り方がわからん。
山ってどうやって下りるの?

ここでさっきの親子が登場する。
行きが同じだった母子。
息子くんは中一くらい。お母さんは50代かあるいはおれとおなじくらい。
お母さんは山の上級者らしく、息子に、「右手でしっかりつかんで。そっちじゃない!コッチ!」と行きも英才教育だった。息子くんは反抗期なのかあまり聞いてなかったようだけど。むしろ他人のおれのほうが熱心にきいていた。この親子について行けば、無事帰れるかもしれない!
もう、見栄も体裁もありません。
生きて帰れば御の字なのです。
「帰り、あとをついていっていいですか?初心者なんで、勉強させてください!お願いします!」
(※マジでこう言いました)
すると、お母さん、
「お母さん、ちょっと先に下見してくるからハルオ、ちょっとそこにいなさい。また戻ってくるから」
といってスルスル下りていきました。
母強し。
息子のためにいったん下りてまだ戻るとか。
ていうか息子の名前、いい名前だな!

で、このあとがまたすごいのだ。
山を下りながらお母さんは息子のハルオにみっちり英才教育をほどこす。
ハルオ君は反抗期なので、ちょっとうわの空。
それをすこし離れた場所でフムフムと熱心に聞いているオレ。
右手・左手で岩をしっかりつかむ。
片方の足で足場を確保。浮き石はないか確認する。
こうすればまず滑落することはない。
これを三点確保という。
ネットでしらべたときでてきた言葉だが、実際見ると聞くとでは大ちがい。まさに目からウロコ。なるほど!こうやるのかー!

安全なところまで下りると、しぜんと親子と距離をあける。
あまりお母さんとしゃべりすぎると(けっこうしゃべってた)、
ハルオ君が、
(お母さんがよその男としゃべってる)
とイヤがるだろうから。
おれも変なところで気をまわす性分である。
つと、ふりかえる。
ああ、独標よ、そして西穂高岳!
さらばだ!

(↑まだ西穂高岳と勘違いしている)
ふたたび上高地をながめる。

昨年の今頃、あそこにオレいたんだよな。

思い返してみれば、上高地から穂高連峰を見上げたとき、
(あんなところを歩くヤツいるのか!?)
と半信半疑だったが、
(2019年8月 上高地にて 拙撮)
そう思ってたのが、いつしか、
(もしかしたら自分もあそこに行けるかもしれない)
と一歩踏み込んだ瞬間、
頭の中でなにかパアーッと幾筋もの光が射し込んだ感じがして、
(え、行くよ?行っちゃうよ!?)
という、自分のなかにある「無限の可能性(笑」ってヤツをほんの少しでも手のひらでナデナデできたような気がして、このときのえもいわれぬ快感、なんとも言えないような気持ちはちょっと言葉にできない。
あと、そもそも穂高というワードを知ったのが、さらにこれよりさかのぼること一年前。
『立山黒部アルペンルート』の立山駅で朝の4時にケーブルカーを待ってたとき。
このとき一緒にならんでいた登山に来た京都の男が、
「穂高の稜線歩きは絶景」
と、ずっと耳元でささやくんですよね(笑
これがキッカケだった。
(2018年8月 立山駅にて、拙撮。黄色の服がそのひと。私は勝手に「ホダカ氏」と命名した)
オレほんとうにここに来たよ!ホダカ氏!
・・・ホダカ氏も、まさか自分の一言で旅の行きずりの男の運命をひそかに変えてるとは思うまい。
こうして山を下りつつある穂高ですが、
まァ、おれのやったことなんて、北アルプスあるいは穂高を大海原にたとえるなら、その波打ち際でチャプチャプ水遊びしている子どもがオレであり、まあそのていどなんですよね。今回の登山って。
『Lonely Planet 』

(↑中央が焼岳。上高地の風景でおなじみ。そのはるかむこう、乗鞍岳である)
山小屋に無事戻ってきました。
このとき、天気がいいので今からの登山客が多く、いわゆる「登り渋滞」になってました。
うわっ、山小屋もにぎわってるなあ!

ほんと、昨日まであんなに雨だったのに。このいい天気!

さて、山小屋名物のラーメンでも食べてから帰るとしますか。
これが楽しみだった!

しょうゆか味噌かで、今回思い切って味噌をえらんでみた。
味噌ラーメンなんて食べるの、「サッポロ一番 味噌ラーメン」以来じゃねえか?
『西穂ラーメン 』
なんか、ほんとに「サッポロ一番 味噌ラーメン」みたいだった(笑
まあ、それはそれとして、
生まれて初めて、
「気圧が低いので半生状態」
ってのを経験してちょっと感動。
(ん?コレ生やんけ!?)
と思わず、あたりをキョロキョロしてしまうが、
(あッ、そうか!)
とすぐに自分のいる場所を再確認した。
1泊二日も滞在してると、けっこう自分がどういった環境にいるか忘れがちになるんです。
山小屋から1時間半かけてまた登山道。
新穂高ロープウェイへ。
うおッ!きのうとぜんぜんちがうな!
たくさん人がいて、満員御礼!

昨日は悪天候で絶景がおがめなかったので、きょうは腕によりをかけて一枚撮らせていただきますよ。
『新穂高ロープウェイ ~盛夏~ 』
久しぶりに夏らしい一枚が撮れた!
写真を撮り終えたあと、なにげなくふりかえる。
展望台からの風景は有名だが、問題はその背後。
その光景に私は度肝を抜かれる。
エエッ!ここから穂高連峰が一望できるのかよ!
知らんかった!うわ、これはスゴイ!

真ん中のコブみたいなのが独標で、

西穂高岳。やっぱ遠いよな。独標からみえたのはただの岩峰だよね。

オレはさっきまであそこにいたんだ!
ロープウェイから山小屋まで見えるのにはビックリ。
見えてたのか。

あと、槍ヶ岳が見えたのにはちょっと感動。
(なんかちいさくとがってるヤツ)

上級者はただ単に、「ヤリ」とよぶ。
(前回ブログの)石田純一氏も、「ああ、ヤリはやったよ。夏だけどね」と軽く言ってのけたあたりはちょっとカッコよかった。
こうしてロープウェイで山を下り、焦げるようにアツい下界に戻ります。

岐阜・高山市のビジネスホテルに一夜の宿をもとめる。
高山市市街地から離れた郊外にあるのだが、
しかしまァ、へんてこな場所にホテル建てたもんだ!
『ルートイン グランティア飛騨高山 』

ここを選んだのは、夕食バイキングだったこと。
一泊2食、朝夕バイキングつきで10,500円。
はからずも山小屋とまったくおなじ宿泊料。
べつに安い高いはなく、どちらも満足。

(↑ローストビーフが売りらしい。かといって食べ放題ではなく、ひとり一皿までときたもんだ。世知辛い。大井川鉄道のホテルを見習うがよかろう。焼きたてステーキ食べ放題だったんだぞ!)
地酒を現地にて味わうのが無類の楽しみ。
『天領』をチョイス。うまいわ。

(↑カレーは別腹。毎回言ってるから今回からタグに付け加えた)
* * *
翌朝。朝から露天風呂に入る。
ここの露天風呂は緑あざやかでちょっとヨカッタ。

さて、朝食をいただいたら、今回の旅も終わりです。

今年の夏も、いい旅ができました。

ごらんなっていただいたみなさまには感謝。
みなさまのお盆だより、たのしく拝見させていただきました。
みなさま、暑さにも負けずあちこち行かれたようですねー。
ありがとうございました。
またお会いしましょう。
* * *
【自分用メモ】
名神高速・伊吹SAからほんとうに伊吹山がみえる。
みえるが、誰も気に留めるようすもないので、自分用立ち寄りスポットに追加しとく。
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Posted at
2020/08/22 19:04:12