翌朝、「ホテル アビス」。
立体駐車場からの大胆な出庫シーンからスタート。

めずらしくこんな写真を撮ってみる。
気持ちのよい松山の朝。

ゆっくりしてたら、もうとっくに9時すぎ。
南へ向かって走り出す。
途中、あまりの海の美しさに思わず足をとめる。
国道378号線、通称「夕やけこやけライン」にのって、さらに南下。
【1】
第1の撮影地に到着。

せまい道を緊張しながら上ると、話にきいていた通りささやかながらありがたい駐車スペースがある。が、ほかには誰もいない。おかしい。ここは有名な撮影スポットではなかったか。
すると、坂の上に誰かが三脚を立てている。おもわず駆け出す。先客がいたのだ。そこには大橋巨泉によく似た人が、ずっしりイスに腰掛け鎮座しているのを見て、私は驚愕とも感動ともつかぬ思いを脳裏にめぐらしていた。
たくさん撮影者がいるのもアレだけど、誰もいないのはあまりにさびしすぎる場所だから。

ここで撮るのか!
「あと5分か10分でくるぞ」
おやっさんに急き立てられ、大慌てでセッティングする。

「その三脚はえらくヤワいな。2,3本もってるから貸すぞ?」
と、おやっさんに言われる。よほど頼りない三脚にみえるらしい。まあ実際頼りないんだが。
セッティングしてすぐに普通列車が。大あわてでシャッターを切る。

これにて画角ならびに撮影諸元を決定する。
そしてここからが本番。
おめあての列車がくるまで1時間、
下の写真のエビ茶色の折りたたみイスはじつは私ので、車に積んでいたのを広げ、ここでおやっさんとずっとしゃべりながら待っていた。

おやっさんは地元愛媛のひと。80歳だという。
本当にしゃべり好きで、私は列車を待つあいだ、すこしも退屈せずにすんだ。
カメラは「ペンタックス K-3」
おやっさんは棚田マニアである。
四駆の軽で日本全国136箇所の棚田をめぐった。
「和歌山で有名な棚田にあらぎ島というのあって」と話をむけると、さすがベテラン、「最近橋ができたところだろう」と旧知であるところを見せつけられた。うへ、よく知ってるなあ。
このおやっさん、ふたこと目には、
「棚田はいいぞ! 棚田撮れ、棚田」という。
そして、宇和島にある遊子水荷浦(ゆすみずがうら)の段畑をすすめられた。
地元の撮影スポットをきくと、石鎚山の名があがった。ここでまた、
「石鎚山は1,982メートル!」
伊予人二人目のセリフをきくのである。
やがて12時前になる。にわかに、「キィッ!」というかすかな音が山間にひびく。色めくふたり。しかしおやっさん、「国道を走る車のブレーキではないか」と疑う。まだ予定時間まで数分早いのだ。だが臨時列車なのである。「いや、レールが軋む音でした」私はべつに耳がいいほうでもない。直感である。あるいはスタンバイして悪いことはないという思いからだ。なにしろコレを撮りに和歌山からきたのだ!
直感は的中する。本当にきたのだ。
キタキタッ!
『
伊予灘ものがたり』

AF-S DX NIKKOR 18-105mm f/3.5-5.6G ED VR
34mm/マニュアル撮影(F8 1/500秒)/ISO200
おっしゃああ! 撮ったぞ!
これが撮りたくてここまできたんだ。
おやっさんにこれまでの礼をいって車に戻る。
と、そこへ地元のおばちゃんたちが軽自動車に乗り合わせてあらわれた。

さすがにここに長くとめていたら、地元の人にとって迷惑だったかもしれない。丁重に詫びるつもりでいたら、
「どこからきたの?和歌山から?まァそんな遠くから!」
と、ニコニコ笑いかけられて一瞬戸惑った。しかもひとりのおばちゃんがおりてきて、私の手をとらんばかりに、
「ここよ、ここ! みんなあそこで写真とりよる。プロも撮るよ!」
と、新たな撮影スポットを教えてくれる。
これにはびっくり仰天した。そうなのだ。ここの人は地元の人にとって何の変哲もないただの風景が、有名撮影スポットとして全国から熱い注目を浴び、われもわれもと人がドシドシあつまってくるのが自慢げで誇らしげでうれしくてしょうがないようなのだ。
おばちゃんのおすすめスポット。

うわ、たしかにここもイイ!
ああッ!中井精也先生の撮ったNikon D7200カタログの作例写真はここか!

でも、私はつぎにいかねばならんのです。
【2】
もはや説明不要。
日本でいちばん「幻想的」な鉄道駅。
ここにも来たかった。
『
約束はいらない』
まるで昔みたアニメのワンシーンのような、ふと涙がでてきそうなほど非現実的な世界を心ゆくまで写真におさめ、駅をあとにした。
国道沿いに食堂をみつけた。
海鮮丼をたのんだが、こういう昔ながらのドライブイン的なお店では味は期待できそうにないな。眺望はいいんですよ。景色は。2階だから。
混雑なためずいぶんまって、でてきたのがコレ。
『海鮮丼(鯛のあらの味噌汁とサラダ付き)』

おりょりょ、メッチャうまそうなんですけど。もしかして本気だしてる?
で、これがうまーいのだ。おもわず口元がほころぶ。とくにこのおみそ汁。鯛のあらがいい味だしてたまらん。この日気温は25℃を超えたが、なぜかあたたかいものを胃に入れたかった。
この先にあるどんぶり館というのをみんカラでみていく予定にしてたが、ここでも正解だったね。

伊予灘の海の幸うましかな。
【3】
第2の撮影地にむかう。
宇和島にいく途中のトンネルの出口。
みかん畑の農道が「蜀の桟道」のように山肌をはう。
またもや、せまい道だ。
泣きそうになりながらハンドルを操ると、そこに湘南ナンバーの「X-トレイル」が一台、そして一人の男が三脚を広げていた。
Canon EOS 7D MARKⅡ

四国をぐるっと時計まわりにまわってきた彼は、後で聞いた話しではあるが、鉄道車両をつくる有名な会社に勤めてるという。あの豪華列車「四季島」の建造にもかかわった。(←「ブログで書いていい?」ときくと「いいよ!」と諒解された)
仕事で列車つくってて、趣味で列車撮ってたら世話はない、と自らいう彼はよほど撮影の手練らしく、カメラのセッティングもそこそこに、
「予土線も撮ってよ! 予土線。いいよ。新幹線もはしってる!」
と、なんども予土線をすすめてきた。
前の撮影地では宇和島の棚田をすすめられ、ここでは予土線を推されているこの状況はなんなのだろうと思いながら、私は列車の通過を待った。
やがて、こういうのが撮れた。
『
五月の風~宇和海~』
彼とはそこで1時間ほどしゃべっていた。
彼は私の和歌山ナンバーにさかんに大ウケしていた。
四国まわってて初めて見たという。
しかもアルファロメオとはめずらしい。
彼のおかげでいい写真がとれた。厚く礼をいって帰ろうとしたとき、地元のみかん農家のトラックがやってきた。
さすがにこれはマズイのか。なにしろ農道に三脚をたてているのだ。するとここでも、
「どこから来た?和歌山?ほん遠くから!」
と顔を真っ黒に日焼けさせたオッチャンがトラックから顔をだし、ニコニコと相好をくずした。
わしも写真はやる! とオッチャンはいう。石鎚山の紅葉を撮りにいくのだそうだ。そう、石鎚山の標高をそらんじている伊予人3人目はこのひとである。
「たいした景色ではないが」
と、オッチャンはトラックの運転席から海に目をやる。
彼とわたしは急いでかぶりをふった。
ここはとても美しい景色です!
でなければ、男二人こんなところまでやってきたりはしない。
オッチャンは手をふり、トラックとともに去った。
伊予人は、海から吹くこの風のようにやさしい。
【4】
この日は「宇和パークホテル」に泊まる。
宇和島のホテルはどこも一杯で、ここだけかろうじて一室あいていた。

偶然ながらさきほどの撮影地に近い。旅の女神の差配か。
なんでこんな中途半端なところにホテルがあるのだろう。
それが疑問だった。
宇和島にいく途中に位置してるのだ。
やがてなぞは氷解する。玄関に「金剛杖はこれで洗ってください」の雑巾。
「お遍路か!」
とりあえずひとりで乾杯。
アサヒ スーパー ドゥラアアアーーィ!

さっきのにいちゃんをこの宿にさそったんだけど、かれ車中泊なんだよね。かれと呑みたかった。
朝食・夕食バイキングつきで7,000円。
お酒は別勘定だけどどんどん持ってきてくれるし、お料理は食べほーだいだし、こういうのもイイよね。

あさりのパスタ。右の白身魚フライのトマトソースみたいなのがうまかった。ふだんこういうのにありつけないから。バイキングにお造りもあったのがめずらしかった。このホテル、けっこういいんじゃない。(宇和島で泊まって名物の鯛めしを食べれなかったことだけは残念)
めまぐるしい一日だった。
最初の撮影地でおやっさんと出会い、次の撮影地で彼とあった。
ふしぎなことにそれ以上そこには誰も来ることなく、人が増えるでもなく、ずっとふたりであられもないことをしゃべって過ごし、
自分はほんとうに撮影をしたのか、あれはぜんぶ夢だったのではないか。
ぐるぐる頭のなかをめぐり、

・・・浅い眠りでまどろみつづけた。
special thanks to Mr.『ジャッロ♪』
(今回の撮影では、『ジャッロ♪』さんから貴重な情報とサジェッションをいただいた。大変ありがとうございました。)
次回ラスト。しまなみ海道に寄って帰ります。