MiniCar|IST MODELS タトラ613
投稿日 : 2012年06月15日
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タトラ(Tatra)というメーカーは日本ではほとんど馴染みがなく、初めてその名前を耳にしたという方も多いかもしれません。この会社はチェコ最大手の工業メーカーで、自動車はトラックから乗用車まで、さらに鉄道車両や航空機、軍用品まで幅広く手がけていました。
創業は1897年と古く、1920年のチェコスロバキア共和国(第一共和国)発足以降は、国を支える重要な位置づけの企業として生産活動を展開していました。
そんなタトラを代表する一台が「613」。1973年に発表されたこの車は、政府高官や共産党幹部らが愛用していた高級車であり、東欧諸国にも輸出されていました。
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1951年に乗用車の生産を政府の方針によって中止したタトラですが、1953に再び乗用車の生産を始め、「603」という大型のサルーンを開発しました。
この車は曲面を多用した前衛的でエレガントなボディスタイルが最大の特徴。ヘッドライトは3灯式で、中央のそれはステアリング操作に連動して照射角度を変えるという、今で言うAFS的な機能さえも有していました。
そして、「603」の後継として1973年に生産がスタートしたのが、今回ご紹介する「613」。スタイリングはやや大人しいものになり、ヘッドライトも一般的な丸型4灯に改められました。
しかし、このデザイン自体はイタリアのカロッツェリアに発注されたと言われ、東西冷戦という情勢下において共産圏に属するチェコスロバキアが西側の力も借りて自動車を作ったことは、歴史的に見ても注目すべきポイントです。
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高級サルーンとしては独特なハッチバック風のサイドビューを有する「タトラ613」。参考までにスリーサイズを紹介すると、フェイズⅠとなる1974年式で全長5,025mm×全幅1,800mm×全高1,440mm、ホイールベースは2,980mm。
これがモデル末期のフェイズⅢ、1987年のデータで見ると全長のみがフェイスリフトのために5,000mへと若干サイズダウンされています。
サイズ的には現代の身近な車種で言うと、トヨタ・クラウンマジェスタ(4,995mm×1,810mm×1,480mm、2,925mm)、その上で比較するとタトラはリアオーバーハングが短くホイールベースが長めなので、特にリアシートの住人には快適な空間が提供されていたのではないかと推測されます。
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この「タトラ613」、最大の特徴はエンジンであると言えるでしょう。
まず、レイアウトは大排気量車としては非常に珍しいリア・エンジン。しかもスペックは空冷のV型8気筒で、排気量はモデルライフを通じて3,495ccのものが搭載されていました。
駆動輪は後輪、つまり"RR方式"であり、組み合わされるミッションはこちらもモデルライフを通じて4速マニュアルのみとなっていました。
なお空冷エンジンの乗用車は、当時の共産圏では珍しくありませんでした。ソビエトのモスクビッチやラーダにも空冷の小排気量エンジンが搭載されていましたが、これはシベリアのような厳しい寒さの環境においても不凍液を必要としないので、維持管理やメンテナンス性能に重きを置いたためと言われています。
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「タトラ613」は旧チェコスロバキアが分離独立した1993年以降も生産され続け、1996年までの22年間という長いモデルライフを過ごしました。
そして後継モデルとしては「タトラ700」がリリースされたのですが、こちらは「613」のビッグマイナーチェンジ的な色合いが濃く、既に東西冷戦も終わって西側の車も自由に選べる時代となっている中では、商品の競争力はとても低いものでした。
結果的に「タトラ613」は22年間で1万1千台程度、後継の「タトラ700」に至っては僅か2年間という短いライフの中でごく少数が生産されて歴史の幕を閉じました。それは同時に、タトラ社の乗用車生産も終焉を迎えることであり、現在のタトラ社は大型トラックの生産が中心となっています。
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