2019年12月30日
業界の実情も経済も全く知らないおっさんの、単なる「感想」と「妄想」である。
トヨタがついに販売チャンネルを廃止するというニュースが出てからしばらく経つが今更ながら感想。
自分は若い頃、そもそも販売チャンネルとは何のためにあるのか理解できなかった。ユーザーからすれば一つの店舗で全ての車種が買えるほうがいいに決まっている。が、考えてみればクルマのような大きな商品を店頭に並べるのは物理的に限界があるし、営業は多くの商品知識を習得する必要があるし、整備についても同様である。逆に言えば、それだけ一つのメーカーの生産する車種が多い(多かった)ということであり、このような状況ではやはりチャンネルごとに車種が限定されている方がメーカー、ディーラーそしてユーザーにとっても合理的である。
また販売チャンネルには同メーカー系ディーラー同士の棲み分けという意味もある。
自動車業界が日本の基幹産業として発展の一途を辿っていた時代、メーカーにとって販売台数向上のために販売店を増やすことは経済の理論上当然である。
自動車は単価が高いうえ整備体制もメーカーの信頼に直結する重要な要素だけに、一定程度信頼性のある有力資本でなければ簡単にディーラーになれるものでもなかったそうだが、小売業経営者においても一定程度「儲かる」商売であり、ディーラーの数は増える一方だった。そうなれば当然競争が激しくなり、商機が減り価格競争で利益は削られることになるのだが、これを少しでも緩和するのが「棲み分け」である。
自らの商機が限定されると同時に一定程度確保されるという「棲み分け」というものは、あらゆる業界にとって正に必要悪である(そもそも「悪」でも何でもないかもしれないが)。ただそれには「バランス」が非常に重要であり、それを確立するにはそれなりの労力が必要だ。自動車販売の場合、一般的に車種毎の価格帯、いわゆる「車格」によって有力資本と弱小資本のバランスをとっていたそうである。高級車は「トヨタ店」、大衆車は「カローラ店」、ホンダであれば「クリオ店」「ベルノ店」といった具合である。
高級車であれば一般的には顧客も富裕層ということになり、数は売れずともクルマ一台分の利益率は高く、また整備やその他のサービスまで一括して受けることも多くビジネスとしては当然効率的である。大衆車は利益率が低く数を売らなければならない上、サービスを可能な限り自分でやってなんとかカネを節約しようとする我々下級国民が相手であり、ディーラーからすればまさに労多くしてなんとやらである。クルマのディーラーの営業が他の小売業に比べて明らかに客を見ていると感じることが多いのも、この歳になれば納得できる。
これについては完全に業界側の論理ではあるが、ユーザーにとっては結果としてチャンネルが一つのブランドになっていたということもある。これは序列思考が強い保守的なユーザーにとってはそれなりに意味があったと言えるだろう。
ディーラーにとってクラウンやカローラといった「名前」だけで一定数売れることが決まっている(いた)車種は、言うまでもなく最も重要な商品でありこの車名が正に看板となっていた。日本で最も売れていたクルマの販売店名が「カローラ店」なのだから、どんなにクルマに無知なユーザーでも判る名前にするという戦略は、他のメーカーにはないトヨタの凄さだろう。逆にクラウンなどの高級車ユーザーは、このような大衆と同列に扱われることがない上、車種に特化した付加価値の高いサービスを受けることもできたのだから、やはり販売チャンネルはユーザーにとってもメリットがあったのである。実際「みんカラ」を見ていると、数年ごとに新車を購入することも、実車を見ずに新車を契約することも、車検からオイル交換、洗車まで全てディーラーに任せることも極々当然という人が相当数存在するということを、今更ながら実感する。
もう一つ若い頃理解できなかったことが、中身が同じクルマを名前と外見を変えて3つ作るというトヨタのやり方である。ユーザーにとっては微妙な違いとは言え選択肢が増えるのはいいことだと言えるのだが、これもディーラーの論理で考えてみれば極々簡単なことだった。売れている車種は当然どのチャンネルのディーラーにとっても欲しいワケだが、ブランド、棲み分けということを考えるとその意味ではっきり差別化しなければならない、ということである。が、それも既に過去のことであり今となっては売れているミニバンのアルヴェル、ノアボクくらいのものとなった。
メーカーにとっては、市場が縮小しクルマ全体が売れなくなったとき最も重要なのはコストカットであり、車種を減らすことはその大きな要素である。が、チャンネルを維持するには一定の車種が必要であり、チャンネルごとに僅かに差別化するというやり方もすらもコストカットの対象となった。
ディーラーにとっては扱える商品の幅が広いほど売上的に安定するのは当然であり、クルマ自体が売れなくなってきた今、チャンネルに縛られず売れるクルマを売りたいということになるのもまた当然である。となれば違うチャンネルで同じ車種が販売されるようになり、チャンネルの意味はなくなる。トヨタ以外のメーカーはとっくに行っていたことだが、やはりディーラー数が格段に多いトヨタだけがこれまで存続し、そして今それも終わりを迎えるということである。
また現在は軽自動車がその比率を大幅に伸ばしており、トヨタの場合今後はチャンネルどころかこれまでのメーカーの垣根を超えて行かなければならないかもしれない状況である。
ディーラー的には利益率が低い軽しか売れないとなれば経営的にいいことではないものの、それでも売れないよりはマシということにはなる(個々のディーラーの経営状況にもよるが)。基本的に軽を扱っていなかったトヨタディーラーも10年ほど前から扱えるようにはなり、今後はもっと全面的に軽を売りたいというディーラーからの要望も強くなるだろう。今のところはダイハツとの関係で全面的に軽を売れないトヨタが小型車である新型「ヤリス」に力を入れるのはこのためではないかとも思う。そう考えると軽という存在そのものをなんとかしようと動いてくることも充分に考えられる。トヨタの完全子会社となった「ダイハツ」の名前が消えることも、そう遠くない将来なのかもしれない。
このような状態が長く続けば「儲からない」商売ということになり、今後ディーラーは減少するだろうし、2025年問題で経営者がどんどん退場していく中、後継者不足で事業をたたむディーラーも多くなるかもしれない。更に10年もすれば日本市場は崩壊し、ディーラーの数は激減するだろう。これ自体は経済の論理であり、メーカーにとっても粛々と対応していくだけのことではある。
仮にディーラーが激減するとどうなるだろうか。
新車販売はインターネットに移行するということも考えられる。実物を見ないと選べないというユーザーもまだまだ多いだろうが、試乗車などを手配するシステムが整備されればユーザーとしてはそれほど悪くないとも思う。ただこれだと何度もディーラーを回ってライバル車種を見比べるという作業はできなくなるかもしれない。これについてはクルマ好きにとっては明らかにデメリットだが、悲しいことに衰退する市場の宿命であることは日本の電気製品で既に学習している。ということは現在の家電量販店のように、複数メーカーのクルマが同じ店舗に並ぶということもあるのかもしれない。だとすれば逆にユーザーにとってはメリットとも言える。
ただ、問題は整備である。
現在はディーラーが整備を担っている部分が相当あると思われる。仮にこれがなくなれば町工場やカー用品店などがそれを担うようになるのかもしれないが、専門的知識、情報が必要な部分の対応については不安があるかもしれない。ソフトウェアの不具合などは、ユーザーが訴える症状から現場の整備で判断できるというものではまずないだろう。今後はこのような難しいトラブルが更に増える可能性もある。この辺りは自動運転技術なども含め10年後には何らかの新たな対応が必要となるのかもしれない(これはディーラーでも同じだが)。
個人的には、元々ディーラーの整備には不満が多かった。
自分は若い頃中古車ばかり数台乗り継いだが、最も長かったのは最終的に20年、20万kmほど乗り続けたホンダ車で、このとき「ディーラーは当てにならない」ということをはっきり実感したものである。
最もひどかったのはエアコンの暖房が壊れた時で、何も相談なくエアコンの操作部ユニットを交換され3万円程支払ったものの、原因は別にあったため治っていなかったというものである。その後別なディーラーを尋ねたが原因が判らないということでしばらく放置するハメになったが、たまたま別なトラブルで旅先のディーラーを尋ねた時についでに相談した所、暖房用のサーモスタットが固着しているようだとの診断を受け、その後地元の町工場で修理してもらうことができた。ディーラーであればメーカーが主体となって故障のデータを集約し整備時にそれを利用することが可能だろうと思っていたのだが、どうやらそういうことは無く結局は整備士個人の腕次第ということのようである。おそらくディーラーの整備というものは、日本車はなかなか壊れないということもあり通常のメンテナンスや部品の交換などはキッチリ行うものの、壊れた時、不調の時などの対応能力はあまり高くないということになるだろう。おそらく10年程の間に考えられる一般的なトラブルについてのマニュアルなどは存在するのだろうが、そのマニュアル通りの整備しかできないものと思っていた方が間違いない。ただこれは昔のハナシであり最近のことは正直よく判らないが、むしろメカニズム的により複雑となりいざトラブルになった場合の対応の幅は更に狭まっているということもあるかもしれない。
もちろん、ディーラーより町工場の方が優れているということを言いたいワケでもない。たまたま信頼できる町工場というものを知っているから言えるだけであり、当然信頼できない町工場もゴマンとあるだろう。それも全ては整備士の腕、工場の誠実さ次第であり、それは彼らの仕事に対する誇りであって、「信用」というものはそういうものである。そういう工場であれば、オイル交換一つをとっても自分でもできるが代金を払ってそこに任せたいと思うだろう。ディーラーにしても元々町工場だったという場合もあるようなので整備にこだわりのある社長もいるのかもしれないが、そんな社長も今では相当高齢となっているハズであり、全てが組織の論理に支配された今の日本で中心となっている50代40代には、そのような人間は相当希少である。
最後にディーラーの不思議の中でも最も気になっていたことをもう一つ。
あらゆる小売業が年中無休になったにも関わらず、盆と正月、ゴールデンウイークは相当期間休業することである。これは少なくともバブル時代から超デフレの現在まで変わらず、ディーラーは殿様商売だと感じていたのだが、まともな理由があるとすれば言うまでもなく経済の論理、つまりこの期間は商売にならないから、ということになるだろう。
確かに年末年始はまとまった期間銀行が開いていないので、頭金の支払いもローンの手続きもできず、結果として新車の契約はできない。が、盆はそうではないし、最近は盆正月だからと言って親戚行事に忙しいということもなく、若者は遊び歩く方が多いハズだ。ましてゴールデンウイークはクルマ選びでディーラーを回ったりするには絶好の機会である。
サービスについても、盆正月は交通量が増えまた普段あまり運転をしない人も大量に運転をする時期であり、明らかに事故や故障が多くなる(自分の経験談でもあり、保険の営業から聞いたハナシでもある)。また忙しくて放置していたクルマの不調も、洗車やオイル交換すらもまとまった休みの方が工場に出しやすいハズである。
となればどうしてもその理由が判らないのだが、これだけ横並びに長期間全てのディーラーが一斉に休業するというのは他の小売業には見られず、おそらくメーカー、というか業界主導で徹底されているということには間違いないだろう。
よくよく考えてみると、メーカーの生産ラインは季節労働者が支えており、彼らにとって盆正月は重要な休暇であるため、工場は停止となる。工場がまとまって停止する機会は生産設備のメンテナンスにとっても重要であり、受発注システム等関連設備も同時にメンテナンスを行うのが効率的ということになる。となればディーラーは発注や在庫確認等が行えない、だから全面休業、ということになるようだ。この説明であれば充分に納得がいく。
ただこれだとあくまで新車販売、それも契約段階で影響を受けるだけで、展示、試乗、整備は関係ない(整備については部品の調達の問題はあるかもしれないが)。ということはやはりディーラーにとっては新車販売が売上の柱であるということになり、サービスはそれほど重要ではないということになる。
売上的に大きかった高額なオーディオやアルミホイールが以前より売れなくなり、メンテナンスパックや追加保証などを執拗に勧めてくるようになったとは言え、盆正月、GW、通常の定休日もキッチリ休めるということは、やはり日本で自動車業界は小売業においても頂点にあることは、これまでもそして現段階でもまだ揺るぎないようである。
確かにこの30年ほどの間ディーラーの閉店といえば、30年前に異常に大量出店したニッサンとマツダ以外あまり目にしたことがない。あれ程の不祥事で売上を落としているはずのミツビシですらそうだ。
逆に新規出店も同様にほとんど見られず、ディーラー業界のシステムは極めて盤石で安定していたと言って間違いないだろう。
そもそもディーラーにはくだらないサービスが多いのも明らかである。新車購入時の店長からの手紙など論外だ(何かのサービス券でも入っているのかと思った)。
カタログなどはかつてに比べだいぶ安っぽくなった部分もあるものの、まだまだディーラーは華やかさを前面に出した演出がその大部分を占めていると言ってもいいだろう。自動車業界がどれほど日本経済を引っ張ってきたかということを正に顕しているのである。
が、いよいよトヨタが動き出したということは、それもあと10年程のことかもしれない。
Posted at 2019/12/30 02:12:58 | |
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