
2011年の始めに新車購入したアウディA5スポーツバック(8T型、以下「A5SB」)が、先日満10年となる12カ月定期点検を受けました。
5年ほど前にクルマレビューにも簡単に書いていますが、この辺で今一度一つの区切りとして振りかえってみたいと思います。
思い返せば、購入のきっかけは車検を迎えたポロ(9N)の代替えでしたが、その時点で10年選手になろうとしていた156の後継としてゆくゆくはメインの座に…という考えもありました。
というよりも、子供の頃から好きだったセダンベースの5ドアハッチバック、しかもクーペ的に背が低くてA4セダンよりも均整の取れたスタイリングにいわゆる「一目惚れ」だったというべきかもしれません。
全体的にも装飾は控えめで流麗に映りますし、A4にはなかった「ガーネットレッドパールエフェクト」という赤メタリックのボディ色もまさに好みのど真ん中でした。
当時話題となったシングルフレームのグリルは目立ちすぎかとも思いましたが、某L車などのフォロワーがもはや一線も二線も踏み越えた今となってはむしろ大人しい部類ですね。
ともかく、いてもたってもいられずディーラーへ実車を見に行きました。
ですが、日本デビュー間もなかった当時は人気の高さに展示車を用意する余裕もなく、納車予定のクルマを眺めるしかありませんでした。試乗も同じパワー&ドライブトレインのA4アバントで「代用」してしまったのですが、これは大きな誤りだったことに後で気づきます。
商談ではダメもとでブラウンの内装色を頼んでみたら通ってしまい(標準は黒)、あとはパーキングアシストとB&Oサウンドシステムを注文してほぼ好みの仕様ができました。
さて、いざ納車後は家族一同用メインの座はこちらに移り、156からデミオ(DE)・147を経て現在のM3に至るもう一台は事実上私専用となりました。ちょうど娘が生まれるタイミングだったこともあり、始めのうちはチャイルドシート2台をくくりつけてよくあちこち出かけました。
背高系全盛の昨今ですが、この背低グルマを10年間大人子供2名ずつの実用に供して居住性・積載性・使い勝手ともに不満は全くありませんでした。
スライドドアとは対極の分厚く開口部の狭いリアドアからの乗降時も、しっかり教育したせいか家族全員注意して開閉するようになっています。
ベースのA4から削られた後席居住性も、身長180cmの私でもそれなりの距離を過ごせるだけのレベルはありますので、中学生となって165cmを越えた息子からもそうそう文句が出ることはなかろうと思われます。

そうして10年間で77000kmを後にしてきましたが、全体的なコンディションとしては贔屓目を極力排してもそれほど「くたびれた」感じは見受けられないように思います。
カーポート保管の賜か5年前に再コーティングしたボディは塗装や無塗装樹脂部品の色あせもなく、「お決まり」と思っていたサイドウインドウモールのめっき白濁もみられません。
強いていえばプラスチックのヘッドライトがやや濁ってきているかというところと、あとは給油口フタの落下防止ストラップが最近になって切れました。
内装も運転席の革表皮こそ多少のたるみや擦れがみられますが、パネルやスイッチなどは経年でべたつくような表面加工がないせいか、一見してわかる劣化はないように思います。
直したところといえば、表面の層が剥がれることがあるエンジンスタートボタンをリコールで交換されたことと、サンバイザーの固定フックが折れて交換した程度です。
元々の組み付け精度が高いのか、一昨年のドライブレコーダー交換で内張を脱着した際も微塵のズレも浮きもなくはまりましたし、他にも異音や振動など建て付けの悪化を窺わせる症状はありません。ただ、取り外し可能なリアゲートの2分割パーセルシェルフだけは不整路で時にガタガタ音を立てることがあります。
装備品の機能面に関しても特に大きな問題はありません。
よく輸入車の定番トラブルと言われる「窓落ち」についても、今どきのサッシュレスドアの例に漏れずドアを開けると窓が少し下がる作動頻度の高い仕様ながら、当面のところ全く無縁です。
MMI(インフォテインメントシステム)は点検入庫時に適宜更新を受けていますが(地図データは除く)、今も忘れた頃にブラックアウトすることがあります。せいぜい音楽が聴けない程度ですし、再起動で復帰するので気にはしていません。あとは、時々映りが悪くなったパーキングアシスト用リアカメラを交換した程度です。
余談ながら、音楽ソースの操作はまだしも、空調操作までタッチパネル化する最近の動向は甚だ疑問に思います。
走行機構の面では、始めの頃はエンジンオイル消費が問題でしたがその後は大過なく、最近になって一般消耗品以外に寿命を迎える部品がぼちぼち出てきたかというところです。
大きな修理項目を箇条書きにしてみます。なお、整備は一貫してディーラーで受けてきました。
(2014/1 : 23000km) ピストン交換・ECU更新(オイル消費過多対策、保証内)
(2016/2 : 41000km) 補機ベルト交換
(2017/1 : 47000km) タイミングチェーンカバーガスケット交換(オイル滲み)
(2020/3 : 71000km) Sトロニックメカトロユニット交換(偶数・後退ギア使用不可)
(2020/10 : 75000km) ウォーターポンプ交換(水漏れ)
距離が伸びていないせいもあるかと思いますが、目立つのは保証のピストン交換と昨年のSトロニックという「超大物」くらいでしょうか。
直噴エンジンということで煤貯留のためかここ1~2年ほど冬場に始動不良となることがありましたが、プラグ交換で治まっています。
大まかな調子としても、特に変わった印象はありません。
エンジンは元々低回転重視型なのでレスポンスを四の五のいわなければ今でもパワーに不足はありませんが、アイドル振動が若干気になってきた程度です。マウントがそれなりに劣化してきたのかもしれませんが、それでもスナッチまでに至らないのは縦置きの長所ですね。
Sトロニックも修理後は新車時の滑らかな変速を取りもどしていますし、ステアリングやブレーキ(パッドとローターは一度換えました)も目立って気になるところはありません。
街乗りでは5~6km/L台・高速巡航だと10km/Lを越える燃費についても、特に変化はありません。
ボディの剛性感は変わらず高いのですが、サスペンションは一度ダンパー・アッパーマウントを交換したものの他のブッシュはそれなりに劣化していると思われます。
スタビリティは変わらず盤石ですし、ステアリングインフォメーションは元々そんなに多くはなかったこともあり操縦性に変わった感じは受けませんが、乗り心地については突き上げが目立ってきた感があります。大入力はボディまでに減衰されるどころか跳ね返すような「生硬い」感じで、お世辞にも落ちついているとは言いがたくなっています。
156ではブッシュ(アーム)交換でめざましい改善をみましたが、前後マルチリンクとあっては部品代だけでも大変なことになりそうですし、とてもそこまでのエネルギーは注ぎ込めないというのが正直なところです。
大まかにはこんな感じです。
面白みのないエンジン・見切りの悪さと車両感覚のつかみづらさを除けば気に入ってはいますが、乗り続ける理由が「代わりがなくなってきたから」という消極的なものに年々変わってきたように思います。
時々現行アウディ車(A4以下)を代車で貸していただくのですが、クルマとしてはますます無味乾燥になった感を受けます。かといって、別に乗ったXEやジュリアなども心を奪われるというより「悪くはない」というのが正直なところだったのですが。
主な原因としては、機構的にはEPS化やトランスミッションの度を越したハイギアード化、他にはあざとさを増したデザインや操作性が犠牲となったエアコンなどの「ハイテク化」のように思います。
自分が頻繁に乗らないとはいえ「ドライバーの意向を無視するようなクルマに大枚をはたくのはバカバカしい」という気持ちは抜けきらないので、薄いとはいえ今のクルマよりはまだ味が感じられるこのA5SBには(これから手間はかかるでしょうが)当分乗り続けることになると思います。