
最初の盆栽の画像だけを見て、その樹種を当てられるだろうか?
これはタイトルどおり、
アケビの盆栽である。
サイズはいわゆる「中品」でも小さいほうで、樹高が44cm(鉢の上面からの高さ)
この位のサイズがちょうどいい。60cmサイズになると、もう大きくて、重くて、移動も厄介になる。それは自分が年齢を重ねるほど実感するようになった。
アケビは薄紫色の実がなる。縦に裂けて開いた実の画像を見たことがあるかと思われる。中の実は甘くて、食用になるが、種も多くて食べる部分は少ない。
アケビには
「三つ葉アケビ」と「五つ葉アケビ」がある。
1つの葉の柄の先に3枚、または5枚の小葉が付く違いがある。
私のこのアケビ盆栽は「五つ葉アケビ」である。
「五つ葉アケビ」の実は大きいが、薄紫色にしかならない。
「三つ葉アケビ」の実は綺麗な紫色で、秋の展示会にはよく映える。
しかし、「三つ葉アケビ」の花は小さく、濃い(暗い)紫色なのに対して、
「五つ葉アケビ」の花はピンクと白のツートンカラー。
雌花がピンクで、雄花が白色。特に私の「五つ葉アケビ」の花は大きくて、匂いもよく、花でも観賞価値があると言える。
「五つ葉アケビ」の花の拡大。

↑ツルに大量のアブラムシが発生してる!
アケビはツル植物なので、盆栽でも、自生のものでも、
太幹の木は無い。
稀にそこそこの「太さ」があったとしても、棒状に直線的で理想の盆栽の姿からは、程遠いものしかない。
だから、最初の画像のような
「盆栽らしい」整った姿をしたアケビは珍しいと思う。
実際、私のアケビ盆栽の幹は十分な太さもあると言える。
このアケビ盆栽は1992年に購入してる。1.5万~2万円の値段だったはず。
つまり、
このアケビ盆栽は手元に来てから33年になる。愛車は30年目だけど。
アケビ盆栽の整姿直前の姿は以下。

↑既に支柱を背負ってる。この時点での枝の針金は昨年暮れにかけたもの。
今回のアケビ盆栽の整姿では、懸案の
「幹の補正」も行った。
このアケビ盆栽は上部で前方へ倒れ過ぎてるというか、まるでお辞儀するような姿勢になってる。
盆栽は横から見ると、どれも少し「前かがみ」に作られてる。そのほうが「奥行き感」が得られるから。
それでも、あまりに前に倒れてるのは、みっともない。が、その幹の補正は、ちょっと厄介。枝の修正のように「針金かけ」では、太い幹の修正は出来ないから。
幹の補正=幹の引き起こしには、前の画像のような支柱を使った。本来なら、もっとしっかりとした鉄棒が理想だが、適当な長さのものが無くて、以前からあった園芸用の支柱を切って使った。
下方(下半身)の2個所で支柱を固定するのに、リリース可能な結束バンドを使った。
そして幹を引き起こすポイントにも結束バンドを巻き、そのバンドを針金で引っ張るようにした。幹に直接、針金をかけて引っ張ったりすると、食い込んで傷になってしまうから。通常はゴム板などを幹に巻いてから針金で引っ張る。

↑当初は引っばるのも結束バンドを利用したが、強い力が加わると、ロックが簡単に外れてしまうので、セオリーどおりに針金を使った。また針金の輪っかの途中に別の針金を差し込んで回して「捻り」を加えることで、さらに引っ張りを調節した。
幹の引っ張るポイントのすぐ上には、
サバになってる部分がある。

↑サバというのも盆栽用語?で、幹の木質部の芯が枯れて露出してる事を言う。傷が巻かずにこうなってしまった。幹の半分は生きてるので問題はないし、幹の太りにより徐々に埋まってくることを期待するが、これより上で引っ張ると、このサバの部分から折れてしまう可能性があるので、意識的にこれより下側にバンドを巻き、作用点とすることにした。
側面から見た、
幹の修正前後

↑上部の幹が少しではあるが、引き起こされてるのがわかるだろうか。
この幹起こしの他にも、枝に針金をかけて整姿をしてる。
この後、植え替えによって、
植え付け角度でも少し起こすつもり。
今回より以前のアケビ盆栽の整姿の記事は
こちらと
こちら。
この後、
植え替えを行った。
盆栽は限られた鉢の中の土に根を張るので、やがて根が充満し、さらには用土の粒子が崩壊して、水の通りが悪くなるので、定期的に鉢から抜いて、根を整理して、新しい用土で植え替える必要がある。
植え替えの適期は春の芽吹きの前である。
特に雑木類(落葉樹)は葉が無い状態の時に植え替えて、植え替え後に暖かくなって、芽が吹いてくるのが理想。切った根の回復や新たな発根にはある程度の温度が必要だが、地上部の新芽が展開して、葉が開く頃には多くの水分が必要なので、その時に根を切るには最悪のタイミングと言える。
アケビはその芽吹きがとても早くて、2月の終わり頃にはもう葉が展開してくる。だから、それまでに植え替えたい。
今回の2025年の植え替えは2月16日だった。
このアケビ盆栽の前回の植え替えは2019年なので、
丸6年間も植え替えていないことになる。
モミジや山桜の盆栽では2年が限度。根が回りきり、水の通りが悪くなって、植え替えざるを得ないのだが、このアケビの盆栽は鉢も大きめで深さもあり、水の通りも悪くなくて、つい、さぼってしまった。
しかも、その
前回の2019年の植え替えは投稿してなかったようだ。
その前回の2019年の植え替えで、
前方へ出る太根の切除という大手術をやってる。
手前へ出る太根は、その下の太根を跨いで出てる。
この太根を切除して、下にある太根で「根張り」を作ることにした。下に座となる根の広がりがあるから。
元から切除し、癒合剤(カットパスター)を塗ったが、結局は傷口が癒合することは無かった。

↑アケビの枝は折れやすく、根も下手に切除すると、その元のほうまで枯れ込む可能性がある。
これよりさらに前の
2012の植え替えの記事は
こちら。
今回の2025年の植え替えで、まず鉢から抜くと、根が充満してる。

↑鉢の周囲の内側をカマで切って、張り付いた根を剥がしてから、幹を掴んで、引き起こすようにして抜く。簡単には抜けてくれない。
底から見ると、
この後、根をさばいて行くが、その前に、抜いた鉢を洗い、底穴にネットを敷くなどの準備をしておく。

↑ネットは1.5mmのアルミ線でしっかりと固定する。このネットが後からズレたりすると、土が漏れ出て、植え替えのやり直しになる。
さらに、
樹を固定する1mmのアルミ線も底穴から通して出しておく。
被覆鉄線がいいと思うが、私はホームセンターでも売ってる、盆栽用の着色アルミ線を使用してる。ただ、切れやすいので要注意。
さらに、鉢底に
「ゴロ土」と呼ぶ、荒い粒子の用土を敷いておく。

↑私は赤玉土、桐生砂、富士砂を同量ずつ混ぜた5mm以上の粒子の用土を使ってる。
底には水が溜まりやすいので、通常の用土よりも荒いものを敷いておく必要がある。
この後、やっと根を捌いて行く。
土表面に出た「根張り」となる周辺は傷付けないよう、先が曲がったピンセットで慎重にほじる。
それが済むと、底や側面は2本爪の熊手で大胆に掻いて行く。
底には横に伸びる太根があって、これを元から切除した。
底面は以下のように根を処理した。

↑
盆栽の底根は極力切り詰めるのが鉄則。しかし、アケビの太根は切除しても癒合したり、脇から小根が発生することが少なく、上のほうまで枯れ込む危険性もある。
大きな傷口には
トップジンMペーストという殺菌癒合剤を塗っておく。
この癒合剤は桜などのバラ科の植物の根を切った時も、これを塗ることで「根頭がん腫病」の予防になる。
根を整理した後の正面
根を整理した後の背面
根を整理した後の左側面
根を整理した後の右側面
鉢に用土を入れる。この時、中央をうず高く敷いておく。

↑用土は赤玉土7、桐生砂1、日向砂1、川砂1の比率で、2mm~5mmの粒子になるよう、フルイにかけてある。これに竹炭を混ぜてる。
園芸や野菜の用土とは異なり、
盆栽の用土はミジン(微塵)と呼ばれる1mm未満の粉状のものは振るって捨てるのが鉄則。必ず粒状の用土を使う。
この後、樹を据える。根の底面の凹部分が空洞にならないよう、うず高く盛った用土を押しつぶすように、少し回転させながら、しっかりと据え付ける。

↑この樹の据え付けは、
上下、左右、回転と3次元的に見極める必要があり、少し離れた位置から慎重に確認する。必要に応じて用土を足して、上下位置を調節したりする。
今回は樹の植え付け角度を、従来より少し起こすように心がけた。
樹の据え付けがOKになったら、
針金で樹を固定する。

↑針金はプライヤー(やっとこ)で引っ張っては捻じるようにする。ただ捻じるだけだと、すぐに切れる。切れてしまうと厄介なことになる。
またアルミ線が直接、根に当たらないように黒いチューブを被せてる。
この後、用土を足しながら、箸で突いて、空洞が出来ないように粒子を詰めて行く。

↑箸で突き込んだ後、
鉢の側面を両手で叩いて、振動を加えることで、用土を落ち着かせる。
用土を小さなシュロホウキでならして、平坦にしておく。
十分に潅水してから、小根が露出した部分などに、
刻んだ水苔を敷いておく。
表面に化粧砂を敷く。
硬質赤玉土と富士砂を1:1で混ぜた1mm~2mmの粒子の用土を敷く。

↑化粧砂は不要という考えもあるが、これを敷いておかないと、荒い粒子の用土のままだと、土表面がいつまでも落ち着かない。表面が常に乾いてるように見えて、水やりの頻度が多くなり、水のやり過ぎという事にもなり得る。
また化粧砂の赤玉土は濡れてる時と乾いてる時の色の違いが顕著なので、乾き具合もよくかわる。
なお
「焼赤玉土」というのは使わない。あれは土では無い。セラミック玉みたいなもの。あるいはレンガ玉か。経験的に根の生育も良くない。濡れてるか乾いてるかでの色の変化も少なく、乾き具合もわかり辛い。
今回の植え替えで切除した根の塊は以下。
植え替えが完了したアケビ盆栽の正面の姿は以下。

↑植え替え後は
HB-101の1000倍液を潅水しておく。これで根の傷の修復、再生が早くなる傾向がある。
また今回の植え替えで、側面から見た幹の角度の変化は以下。

↑支柱で幹を引き起こして、さらに植え付け角度でも少し起こした。
この支柱は今年一杯はこのままにするつもり。
あるいは、植え替え後の根が十分に張って、安定したら、もう少し、引き起こすかもしれない。
細い支柱が少し曲がって来たようにも思える。樹の側から見ても、一度に無理して引っ張るより、現在の状態に慣れてから、もう一段、幹を起こすほうがいい。
また植え替え前(左)は、やたら高く植えられていたが、これは底根の充満で持ち上がった事もあると思う。あまりに高くても、みっともない。
植え替え後の管理は、なるべく
寒風に当てないようにする。灌水時は枝や幹にも水をかけて、少しでも潤いを与えるように。つまり、頭から水をかける。理想を言えば、日に何度か、霧水を吹くとか。
凍てつくような日は、出来れば室内にでも取り込んだほうがいい。植え替え後に用土が凍結すると、せっかく向きや位置決めして固定したのに、樹が持ち上がってしまうから。
そして、
なるべく陽に当て、特に鉢を温めることで、発根を促進させる。が、鉢土が乾き過ぎるのもよくない。せっかく発根した新根が痛むから。
アケビは前述のとおり、芽吹きが早く、2月末には新芽が展開して葉が開き、ツルも伸びてくる。
樹勢をつけたい部分のツルは伸ばし放題にする。
今回の幹起こしも、その部分の細胞が増殖して(太って)、はじめて型が付く。その為には、
曲げた箇所から上のツルは伸ばしたほうがいいと思われる。
そしてその
春先の新芽、新葉に、やたらアブラムシが発生する。
初期のうちは、指で潰すようにするのだが、やがてそれだけでは対応しきれず、農薬散布することになる。
ところが、これまで使って来た
アクテリック乳剤が無くなってしまった。

2017年に製造中止になったらしい。この薬剤は即効性があり、自分のこれまでの使用例から薬害が発生しない農薬だったのだが。
スミチオン乳剤なんかは薬害が発生しやすい。特に新芽、新葉の頃は、どんな農薬でも薬害が出やすい。春に出たばかりの芽や葉が茶色く変色したり、枯れてしまうと大きな被害になる。一枝まるごと枯れたり、樹全体が枯れてしまう事もある。
過去の経験から、この薬剤なら大丈夫というものが無くなると困る。それがアクテリック乳剤だったのだ。
手元には使用期限が2019年11月のアクテリック乳剤がある。
期限を過ぎると、効果が無くなって来るのと、あまりに古い薬剤は変質して、やはり薬害が出る危険性もある。それを
昨年2024年の春に、このアケビ盆栽のアブラムシに使った。アブラムシは退治出来たが、
案の定、薬害が出た!と思った。新葉が茶色くなり、やがて枯れてボロボロと落ちて行った。最悪だ。
幸い、後から新たな芽が吹いて来てくれた。これがもし、今年のように植え替えで根を切って、樹勢が落ちてると、2度芽は吹かなかったかもしれない。
ところが、その
2番芽も茶色くなって来た。これは直接新芽、新葉に薬剤がかかったわけでは無いので、薬害とは考えにくい。
どうも、
500ppmの次亜塩素酸水の原液散布が原因かもしれない。
以前から、山桜の盆栽の葉の斑点細菌病の対策として、冬季に石灰硫黄合剤の8倍液を散布していて、ついでに全ての盆栽にも散布していた。これも強いアルカリ性なので、冬季の葉が無い時期しか散布出来ない。(松柏などは、晴天の日などに散布して、早く乾くようにすれば問題は無い) 冬季に石灰硫黄合剤を散布するのは盆栽管理で普通によくする事。
ところが、盆栽愛好家には必須アイテムの
石灰硫黄合剤の手頃な容量の販売が無くなってしまった。これで硫化水素を発生させて、自殺などに使う方法がネットで流れて、業務用の10Lや18L以外の家庭用の500lmが販売自粛になってしまったらしい。
それで、代わりに、親の介護の消毒に使っていた次亜塩素酸水を散布するようになったのだが、病害への効果はあったものの、どうも残留するみたい。肌などについても、すぐに中和されると書かれていて、実際、アルコールで消毒すると、皮膚が赤くなるが、次亜塩素酸水ではそのような事もなかったのだが。
盆栽の葉が無い時期に散布しても、後方の雨戸にかかったものが残留し、葉が出てきてから、雨などがかかると、雨戸に近い葉が茶色くなったりしていた。
同様に、葉の無い状態の枝などに残留したものが、潅水や雨で、芽吹いた新葉にかかり、薬害を発生したのではないかと思える。
枯れてしまった新葉の後から吹いた、2度目の新芽の葉が同様に変色するなど、そこまで残留してるのかと驚いた。
葉の無い時に散布したら、葉が出る前に、残留したものを洗い流す措置が必要なのかもしれない。
結局、
昨年2024年の春、2番芽が枯れてしまった
後ろ枝1本が丸ごと枯れてしまったのだ。
それで、今回の整姿前の赤丸の空間を埋めるように、
植え替え前に針金をかけて、別の後ろ枝を矢印方向に移動させて、正面から枝先が見えるように修正をした。

↑上の赤丸印の部分が枯れた枝の跡
赤丸空間を埋めるように、後ろ枝が見えるようにした。
↑鉢土の全面に刻んだ水苔を敷き詰めた。
植え替え後の乾燥防止と保温、そして日中の潅水が出来ない時の対策として。
水苔自体は強い酸性である。それで予め、水で何回も絞って、さらに何日も水にさらしてから、刻んである。
根が張ってきたら、表面の水苔は取ったほうがいいが、昼間に灌水出来ない場合は、乾燥対策にもなる。