車と記憶

北海道。ある雪の日、男は一台の車を待っていた。
残り少なくなった同期で飯を食いに行くのである。
男が住んでいたのは札幌駅から地下鉄で数駅行ったところだ。
近くに大学もあるので飯を食うにも困らず、駅も近いので車を所有する必要もなかった。

それにしても、この雪はいつまで降るんや。。。
そんなことを考えていると、遠くの方から見知った車がやってきた。
あいつが運転する黒のインテグラ、かなり背が低い。
男は車にそれほど興味を持っていなかったので、それ以上の事を考えなかった。

軽く挨拶して助手席に乗り込む。
後部座席に女が一人乗っていた。
もうひとりの同期だ。
入社時に10人いた同期も今はこの3人になってしまっている。

あいつが車を出した。
普通の道を走るように、氷で光る道を走る。

赤信号。ブレーキ。
当然滑っている。
ただ、乗ってて不思議に怖くない。

気にした風もなく、あいつは自然な感じでシフトチェンジしていた。

飯を食いながらそれぞれのことを話した。
どうやらあいつも辞めるらしい。
男も関西に戻るつもりだと言った。
女も遠くないうちに辞めるらしい。

帰りも、あいつのインテグラは地面スレスレを走っていた。
男は車を降りた後、走り去るインテグラのテールを見つめ、カッコイイやんけとつぶやいた。

翌月あいつは仕事を辞め、男も地元に帰った。
数ヶ月後、女から自分も辞めたというのと、あいつが就職したと連絡してきた。

車好きだったあいつは、車関係の仕事をすると思っていたが、一番想像のつかなかった郵便局員らしい。
あいつは性格はいいヤツだ。
男があった中でも3本の指に入る。
ただ、車が好きすぎたのか女が寄りつかなかった。
今頃結婚とかしてるのだろうか。

北海道に行った時は、また3人で飯に行きたい。

雪道で前を走るインテグラのテールを見ながら、男は思った。