
R30の操作系の中で必ずと言って良い程にマイナス点として上げられるのがステアフィールだと思います。個人的にも全く不満が無い訳ではありませんが、直進時の不安定感はもう少し何とかならないものかと常々感じておりました。ハンドルをセンターで保持していても前輪が勝手にあっちこっち向いているようなあの感覚です。ステアリングダンパーを装備していた車種も過去に存在していた辺りからも分かるように、センターの座りの悪さはかねてからの課題であったようです。
これを解決するのに一番の近道がラック&ピニオン化となる訳ですが、それには同年代で同じL型エンジンを搭載しているF30レパードのステアリング関係を総移植してしまうのが最も現実的と言えそうです。これは旧車ミーティングでオーナーさんに許可を得て撮影したF30レパードのラック&ピニオンです。しかし、よくよく調べてみると部品の入手が想像以上に困難で色々な意味で難易度が高い流用法である事が判明しました。実は全く現実的ではありませんでしたね(苦笑)
そうなると、現状のリサーキュレーティング・ボール式での改良法を考えなくてはなりません。まず、直進時に見られるあの落ち着きの無さの原因はステアリングシャフトとギアボックスの間に取り付けられたラバーカップリングの撓みによるものが1点。そしてギアボックス自体の剛性が根本的に不足しているという2点が上げられます。これらはR30のデビュー時から言われているものですが、セドリッククラスの車両に採用されているサイズの大きいギアボックスに交換する事で剛性感が得られようです。
R30のパワステ用ギアボックスはIPRB48B型という物で、430セドリックに採用されているIPRB56L型は2ランク上のサイズになります。この間にはIPRB52B(L)型が存在し、ケンメリやジャパン等に使用されています。型式にある数字はウォームシャフト(スタブシャフト)とセクターシャフトの軸間距離になりますので、数字が大きい機種は部品が大型化されている事が分かります。頭文字のIPはインテグラル型パワーステアリング、RBはリサーキュレーティング・ボール式を意味します。また、最終桁のアルファベットは製造元の識別記号で、Lが日産吉原工場又は厚木自動車部品製、Bが日本パワーステアリング製、萱場工業製、Jが自動車機器製となります。
一方、R30の重ステはVRB56L型というバリアブルレシオのギアボックスで、セドリッククラスの物を使用しています。ことぶき号はこの重ステですが、確かにパワステに比べて修正舵を当てる必要が少ない上に剛性感が高いというのは以前から気になっていました。
それなら430セドリックに搭載されているパワステのIPRB56L型を流用すれば良いじゃないかと言う事になる訳なんですが、ハウジングの固定穴がR30の位置とは全く異なる為にそのままでは取り付けが出来ないんです。
そこで登場するのがS130フェアレディZ用のIPRB56L型です。これはR30と取り付け穴の位置が同じとの情報があり、流用するには最適と言えそうです。当時の自動車雑誌でもこの方法でギアボックスをスワップしていたようですね。
ここで1つの疑問が湧きます。仮にS130用を取り付けようとした場合、ギアボックス側のスタブシャフトとステアリングシャフトの中心は揃うのでしょうか?前述の通り、型式の中にある数字はウォームシャフト(スタブシャフト)とセクターシャフトの軸間距離です。単純計算で両者の間には56-48=8mmの相違がありますので、スタブシャフトをステアリングシャフトと揃えた場合にはセクターシャフトは助手席側に8mm偏位します。逆に、セクターシャフトを現状の位置に揃えた場合にはウォームシャフトが運転席側に8mm偏位します。ギアボックスのハウジングがどのような幾何学的配置になっているのかは分かりませんが、ステアリングリンケージのジオメトリーの観点からセクターシャフトの位置を変化させるとは考え難いと思われます。そうしないとピットマンアームの角度がズレてしまいますからね。
どのギアボックスでもセクターシャフトの位置が同一と仮定した場合、8mm偏位するスタブシャフトの位置に適応させる必要が出てきます。それにはステアリングシャフトを8mm運転席側に移動させなければなりません。ステアリングコラム取り付け方法の関係から、そのまま並行移動させる事は不可能です。これには手前側のボルト2本とバルクヘッド貫通部分のインシュレーターを一旦緩めて、ステアリングシャフトの先端を8mm分だけ振る格好にするしかありません。現状でラバーカップリングの接合部分が一直線であれば、8mm振った時には若干の曲がりが生じます。これはラバーカップリングの撓みでカバーする事になりますが、ユニバーサルジョイントが入る隙間があれば是非とも入れ替えてみたいですね。
これはバルクヘッド側から前方のラバーカップリングを見た画像ですが、すぐ隣にブレーキの配管が走行しています。フードレッジとの隙間も2cm弱程度といったところでしょうか。この状態で8mm移動させたらブレーキの配管には確実に干渉します。
そこで重ステの ことぶき号の物を見てみると、ステアリングシャフト自体が全く違うじゃありませんか!ギアボックスに油圧系の機構が存在しないので、その分だけステアリングシャフトが長くマスターバックよりも前方まで伸びています。そして、フードレッジにはプレスで逃げが設けられていてラバーカップリングが干渉しないようになっています。どうやらVRB56L型もセクターシャフトの位置に変更は無く、スタブシャフトが運転席側に8mm偏位しているようです。それに合わせてステアリングシャフトも取り付けられているので、この位置関係のままでラバーカップリングをパワステ車と同じ位置に持って行った場合にはフードレッジと干渉します。重ステ車のこのような配置には意味があるんですね。
そうなるとパワステ車と重ステ車ではステアリングシャフトが別物という事になります。でも部品カタログではステアリングシャフトは共通となってますよね?
GTのEX系に採用されているテレスコピック機構付きの物と区別されているだけなんです。
パワステ車はラバーカップリングの固定ボルトのみが違いますよ的な書き方です。まさか、あのステアリングシャフトは伸縮するんですかね?!
R30のボディがパワステと重ステのどちらを基準にして造られているのかが不明ですが、軸間距離の異なる2種類のギアボックスを搭載する都合上からどちらかが基準から外れる事になります。重ステ車を基準としていればパワステ車はステアリングシャフトを助手席側に振っている事になりますし、パワステ車を基準としていれば重ステ車は運転席側に振っている事になります。若しくはそれを見越して両者の中間を取っている可能性もありますね。いずれにせよ、ステアリングシャフトの取り付け角度でスタブシャフトとの位置ズレを解消しているという所までは突き止められました。
これらから、R30のパワステ車にS130用のギアボックスを流用しようとした場合には確実にステアリングシャフトと左右方向のズレが生じます。更に上下方向のズレやスタブシャフトの長さ、スプライン歯数の違い等、流用の障害となるファクターも未だ数多く存在します。油圧の配管も位置や取り付け方法が違うので、そのまま使用できるかどうかも分かりません。加えて、ラバーカップリングの接合部が一直線では無さそうなのでリジット化は危険が伴う事も同時に判明しました。チルト機構が使えなくなる云々の前に、左右方向の曲がりも吸収しているのでストレスの逃げ場が無くなってしまいます。
R30は何故あそこまで剛性不足感が否めない小型のステアリングギアボックスを採用したのでしょうか?2サイズ上のギアボックスを採用している430セドリックと言えども2000ccベースの車体です。軽量化が理由としても疑問符を消し去るまでの説得力はありません。また、ギア比は重ステが19.0〜22.5(バリアブル)、パワステが16.4と結構な減速比率です。ロックtoロックの値も重ステは4.3回転、パワステが3.4回転との事から、意図的にダルな設定とする事で唐突な挙動を抑えようとしたと考えれば納得がいく部分もあります。しかし、市販車をベースにレース参戦していた事を考えると謎は深まるばかりです。
同じ日産車からの部品流用で、リサーキュレーティング・ボール式を踏襲したままステアリングの剛性感を得ようとした時にも課題は山積みですね。そして、この注意書の真意とは?
何故こうなったのか今や誰にも分からない・・・。重ステとパワステが混在するが故に、関連する部品にも謎が多いステアリングギアボックスでした。
Posted at 2022/10/24 17:10:41 | |
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