「実質高速キング」の異名をほしいままにしていた、旧プロボックス/サクシード。ある程度のクルマ好きの間では、只者ではないことは知れ渡っていると思います。実際私も十年来、このクルマ2台を乗り継ぎ、40万キロ弱を走破しました。本当に良いパートナーとして、日本各地を巡りました。会社契約の仕事グルマなので、リース契約上の最低限のメンテナンスを受けているだけですが、殆ど故障と言える故障は無い、手のかからない相棒です。
18万キロ超を走破した自分的には2台目のプロボックス
昔の言い方でライトバンですので、まあ、驚くほど荷物も積めます。しかしそれだけではないんですね。荷車として鍛えられたシャシー、エンジン、足回り、そしてシートも含め、トヨタ内では屈指ともいえるドライバーズカーとして仕上がっていました。反面ネガな点もたっぷりあり、先般のビッグマイナーでそこを改善すれば最高のクルマになると期待していたのですが、欠点幾つか改善されど、美点ほぼ消失す、、、という大変残念な結果になりました。それを受けて、次の営業車はプロボックス以外にという決断をしました。このクルマを降りる前に、人生で一番距離を乗ったお気に入りのクルマでしたので、旧プロボックスの総括と、新プロボックスの問題点を指摘したいと思います。
そういえば、サスペンション関係のスペシャリスト、國政久郎さんの営業車を取り上げた本が2冊出版されているようですね。私も買おうと思ったのですが小遣い厳しく(笑)、未だ買えていません。書評をざっと読んでみると、①は旧プロボなどの美点を。②は新プロボになって美点が失われたって…という、私の感想と同じな展開か(苦笑)、國政さんの本を読めば必ず影響されてしまうので、これをUPするまでは、あえて読まないことにします。
これは岐阜県某所 清々しい景色と我らがプロボックス(笑)
多くのクルマ好き営業マンに愛されたドライバビリティ
それでは先ず、旧プロボックスの特筆すべき美点を3つ挙げます。
美点その①はシートです。私はこれを一番に挙げたい。(シートに関しては新プロボも大変良いデキです) サイズは欧州車のものと比べると小ぶりですが、それ以外は文句の付け所の無いデキです。設計は大変オーソドックスで奇をてらう部分はありません。特筆すべきはウレタン。厚みは潤沢、硬さ、反発力も十分ですし、部分的に痩せているところなく、みっちり、きっちり詰まっています。座面の後傾角は極端にはついていませんが、だらしなく沈み込みまず荷重をしっかり受け止めます。腰砕ける様な頼りなく変形する素振りを一切みせません。シートバックも含め、一部に圧力が集中することが無く、面でサポートしてくれます。表皮の素材も滑りすぎず、変にまとわりつかず、耐久性抜群。VWのベーシックシート(トレンドライン等につくもの)に近い雰囲気ですが、もう少し柔軟性、包まれ感あり、ちょこっとだけルノーテイストです(ちょこっとだけですが)。トヨタも、そのサプライヤーも、やればデキるんですよね。20万キロ走破した後でも、ヘタりというものを感じません。
ヘッドレスト一体型 見ての通りの餡子たっぷり、ぎっしり、本当に素直な仕立ての素晴らしいシート
美点その②は油圧パワステ。油圧アシストものとしては特に優れているとは思いませんが、平均的な日本車のEPSと比べると、圧倒的に乗りやすい。直進、旋回いずれも、妙な修正舵をあてる必要が無い。セルフアライニングトルクも適度。ナチュラルな反力があり、それを頼りに一発で舵が決まる。路面状況の伝達性も良好。高速域の重さはもう少し欲しいところですが、タイヤ幅からしても致し方ないでしょうか。
旧プロボックスのシンプルなインパネ なんとなく一昔前の欧州車チック 空調ダイヤル良し ナビを付けた場合の位置も良し ウレタンハンドルの太さ、径も適度
美点その③はアイシンの4速AT。これもただのトルコンATです。しかし今となっては貴重。変なショックは出ないし、かなりの速度域でも4速からのシフトダウンを受け付ける超タフなATです。上り下り等の状況に応じてシフトUP/DOWN、ホールドを行いますが、穏やかな制御です(笑) ルノー/PSA/シーメンスのAL4(DP0)ほどのドライバビリティはありませんが、信頼性はAL4の100倍くらいあり(笑)、もしこれがPSAの各車に積まれていたら、、、日本での売り上げは倍増で、ショップの修理収入は激減していたでしょうね(笑)
納得の荷室 積載量は文句なしだが、フルに積まない場合が多く、その際の荷物のズレ対策は何もない
旧プロボは、上に挙げた特筆すべき美点以外にも、軽い車重、タフで実直なエンジン、見切りの良い運転環境、基本アンダーステアで破綻の無いハンドリングなど、諸々相まって、正直言って実用上かなり高いアベレージスピードで走れる、速いクルマです。
165R13 6PR ブリヂストンV600 相変わらず耐摩耗性は高いですが、クッション性、排水性、転がり抵抗、ハンドリングといった旧来のLTタイヤが苦手としている部分も、それなりに改善している インドネシア製だが精度は中々良好 ただ、様々な面で限界は低い
脆弱な安全性能の旧プロボックス
反面BADな部分もそれなりに有ります。旧プロボは安全装備が貧弱及び、タフコンディションに対して驚く程脆弱です。エアバッグはフロント2つのみ。ESPも未装着。ABS/EBDも制御が粗い。荷物積載時のパワー感を考慮してか、スタート時スロットルがガバーって開くセッティングで、路面濡れていると簡単にホイルスピンします。スノー/アイスのトラクション性能も低く、少々の勾配でも登れなくなります。スタックすると抜け出すのは至難のワザです。
新プロボックスの受難
車体前半部のプラットフォームを一新するなどFMC並みの改良を受けた新プロボックス/サクシード フロントアンダースポイラーもリフト抑制に効果ありそうな形状
さて一方、新型プロボックス/サクシードですが、会社の同僚が営業車に使っているので度々乗る機会があります。さてどんな感じになったかと言いますと、、、はっきり言いまして、とても乗りにくくなりました。特に高速域。ロングドライブが不得意。反面、街中の使い勝手は上がったのですが。プラス面、マイナス面つらつらと以下に書いていきます。
リプレイスでBSのV600に交換したところ、電動パワステに起因すると思われる違和感が相当改善 しかし旧型の油圧には及ぶべくもない サイズは155R14 6PR
安全装備かなり充実
プラス面からいきますね。電動パワステにより、はっきり低速域では軽めのセッティングになりました。細い路地の切り返しや駐車時に効果を発揮します。シートですが、旧型より悪くなっている部分は無く、サポート感増した印象です。車体の剛性感が増しました。プラットフォームは車体前半が変わったようで、それに伴うのか、サスの動きもストローク感あり、乗り心地良くなりました。コーナリング時のロール感も自然で、懐の深さが増しました。静粛性も多少改善しています。安全装備についてはESP標準化(トヨタで言うところのVSC、TRC)に続き、トヨタセイフティセンスCも標準化され、エマージェンシーブレーキが装備されました。単眼カメラ+レーザーレーダー方式ということで、車線逸脱警報や先行車発進通知も備え、将来のACC標準化も期待させます。(サイド/カーテンエアバッグ未装着は非常に残念)燃費も良くなっていますね。
とにかく疲れるー!
マイナス面いきます。街中では使いやすい電動パワステですが反面、高速域、ワインディングでは全く頼りの無いモノ。センターは座らないし、反力も一定ではないため、真っ直ぐ走らせること、はみ出さずコーナーを曲がることを常に意識させられます。高速のロングドライブでは旧型の何倍も疲れます。CVTも一昔前どころか、ふた昔前の感じで、ラバーバンドフィール満載。実際のドライバビリティも酷く、車速を一定に保つのが困難で、再加速も非常にレスポンス悪し。タイヤも13インチ→14インチ化されましたが、165幅→155幅となり、流石にキャパ不足を露呈します。電動パワステの特性か、タイヤとの相性がシビアで、標準で履かされていた某国内メーカーのものは上記に挙げた悪癖を助長しているようです。ブリヂストンV600に交換したら、かなり改善されたのには驚きました。最後にインパネ周りですが、ユーザーの意見を取り入れたと言いますが、デザイン上大変散漫な印象で、取りあえず全て要望を叶えたらこうなったんだけどどう?というタタキ台のまま製品化されたという雰囲気。
拾い画像 新型のインパネ 見るからに煩雑なレイアウト センターの一等地に1ℓの紙パックを置けるように無理したため、空調系操作しにくく、売りだったテーブルもオフセット 携帯ホルダーも付いたが目隠しされているためこの位置にある必要なし はっきり言って改悪です プロの仕事とは思えません 強く改善を望みます
敢えて運転しにくく、遅くされた?
多くの人が旧プロボックスの美点に挙げていた要素が新型では軒並み失われました。トヨタさんどうしたのですか? 絶句するばかりです。いくらコストの安いパーツ(コラムアシストのEPSや汎用のCVT)をつかっているとはいえ、そこは天下のトヨタ。セッティング次第でもう少し何とかなった筈です。ココからは私の独断妄言ですが、旧プロボックスはドライバビリティ良すぎてあまりに速く、営業マンの飛ばしぶりも目に余ったため、国家権力やそれに準ずる機関から、「速く走れないようにせよ」というお達しがあったのでは(笑)。そう考えなければ納得できない劣化ぶりです。
新型は数字上は0-100の加速値も上がっているようですし、燃費も向上。安全装備も充実と、表向きはネガティブさ加減は微塵も感じません。しかし実際乗ってみると上記に挙げた感想です。運転のし易さ=操作した通りに、思った通りにクルマが動く。これが安全性には非常に大切だと私は感じます。プロボックスは営業車として、1日に数百キロ、年間何万キロも走破する車両も多いのです。運転しにくいクルマは疲労の蓄積、集中力の低下などを誘発します。また、自動ブレーキなども無いよりはあった方が良いですが、その前に前席だけでもサイド/カーテンエアバッグの装着が先ではないでしょうか。このジャンル、実質プロボックスとADの二択です。私は偶々会社が寛容で車種の選択ができましたが、有無を言わさずプロボックスがあてがわれる事例が多いと思います。そんな大多数のユーザーの安全を守っていただきたい。トヨタには名より実をとった車両開発を切に望みます。
新型発売時、多くのインプレ、試乗記を評論家の方々が書かれていましたが、まあ、本音を書けない事情があるでしょうが、概ね改良を賞賛する記事ばかりでした。今回は極端な意見かと思いますが、私が感じた印象を包み隠さず書きました。ご批判ありましたら是非コメントにお書きください。
秋の木漏れ日に佇む愛車 事故、大きな故障もなく、良き相棒でした 本当にありがとう!
そんな訳で、大好きだったプロボックスが整形手術されて戻ってきたら、人格まで別人になってしまったため、別のクルマに浮気しました(笑) それについてはもうすぐ納車になるので追々レポートしたいと思います。
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Posted at
2017/11/04 17:56:33