あすか先輩が久美子に、
「黄前ちゃんはホント、”ユーフォっぽいね”」
と言います。
”ユーフォっぽい”とはどういう事なのか、考えてみたいと思います。
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田中あすか(3年生)は、北宇治吹奏楽部の副部長であり、低音のパートリーダーを務めています。担当楽器はユーフォニアムです。黄前久美子(1年生)の同じパート・楽器で直属の先輩にあたります。
あすかはユーフォニアム奏者の父・進藤正和と母・田中明美の間にできた一人っ子です。しかし2歳の時、両親が離婚しました。そして母親の明美に引き取られ育てられます。
あすかが小学1年のある日、父親からノートに書かれた楽譜と手紙、そしてユーフォニアムが送られてきました。


あすかは近くの楽器店の店員さんにユーフォニアムの吹き方を教えてもらった所、うまく吹けて楽しくなり、それ以来ずっとユーフォを吹いていました。
しかし母の明美は楽器を吹くことに反対で、ある日あすかと大喧嘩になり、成績が悪くなったらすぐやめるという条件で今日までユーフォニアムを吹いてきました。
また母は、父親とあすかを会わせるのを拒否し続け、高校3年生になった今も、あすかは一度も父親には会えていません。
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北宇治吹奏楽部の合宿中、早朝に一人ユーフォニアムを吹くあすかの姿がありました。
朝霧の中で吹く「響け!ユーフォニアム」の音色は、甘えたい父親への想いと、それができない寂しさが出ていました。久美子はそっとその姿を見ていましたが、瞬く間にその霧が晴れるとともにあすかの内面は見えなくなります。
きっとあすかは、ユーフォを吹き続ける事で父親にいつか繋がると信じていたと思います。朝霧は日の出時のわずかな時間にしか出ませんので、普段はそれを隠しているあすかの内側を久美子は偶然にも目撃したという演出と思います。
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北宇治は関西大会を突破し、全国大会へ進む事になりました。
しかし母・明美は学校に乗り込み、即刻あすかを吹奏楽部から辞めさせようとします。
顧問の滝先生により退部は阻止されたものの、あすかは部活に殆ど参加する事が出来なくなってしまいました。
ある日、あすかは久美子を家に呼びます。


大豪邸に住んでいるにも関わらず、あすかは西日が入る6畳間の一室に押し込められています。

風水では、西側の部屋の、特に窓がある部屋は凶相で、西日が運気を下げます。カーテンや家具で窓を塞いで西日を防ぐと良いと言われます。
タイツを脱ぐあすかは、被っている仮面を外して本音で話したいという意思表示をしていると思います。
自身の身の上を久美子に話します。あすかのかなり深い所まで知っている同級の香織には、おそらくこの事だけは話をしていないでしょう。
久美子に話しをしたあすかは「吹きたくなっちゃった」と、自分がいつも楽器を吹いている近くの河原に久美子を連れて行きます。
「黄前ちゃんはホント、ユーフォっぽいね」


ユーフォニアムという楽器は、普段は目立たなくあまり主張することが無い、吹いている人ですら低音なのか高音なのかよく分からない楽器です。
が、厚みを増やして「支える」ことが出来る、時には主旋律もこなせる「何でも屋」で、色々な立ち回りが出来る、目立たないけれど必要不可欠な楽器です。

久美子という人物は、普段あまり目立たなく、主張することも無く周りに流されがちです。ところが好奇心が強く、すぐ首を突っ込む所があります。
そして時々本音をポロっと言います。しかもその言葉が胸に刺さります。
そんな姿は周囲からはミステリアスに映り、猫被っているようでなんか引っかかります。“正体は何なのか?”、“その余裕そうな、何でも受け止めてくれるような感じはどこからくるのか?”…皮をペリペリと剥がしたくなります。

人間関係的な立ち位置や性格がユーフォニアムという楽器の立ち位置に似ていてるので、あすかは久美子の事を「ユーフォっぽい子」と表現したんだと思います。
そしてあすかは自分の事を「ユーフォっぽくない」と言います。
「ずっと好きな事を続けるために必死だった。周りの事なんかどうでもいい。一人で吹ければいい。」
誰かが困っていても決して関知せず、常に中立的立場で、誰かの為に支えるなんていう自分にとってプラスにならない、余計で無駄な事はしません。またそういう面倒な事に巻き込まれることを非常に嫌います。
そういう行いも全て、母親に縛られた生活環境に閉じ込められ、自分の身を守るために取っていた行動であると思います。
あすかは人の心が分からないというのではなく、切り捨てていました…他人だけでなく自分さえも。
常に中立の立場をとっていたあすかですが、“中立でいる”というのは実際難しく、ある意味超越していないと多方面から批判され、そこに存在できないと思います。勉強も出来、演奏も上手い、副部長、ドラムメジャーと何でもこなせる、そういうあすかだから可能だったと思います。
あすかは、父親から贈られた曲「響け!ユーフォニアム」を久美子に聴かせます。
一人っ子のあすかはいつも寂しく感じていて、久美子のような妹が欲しかったのではないかと思います。時に本音で語れるような相手を求めていたと思います。
“ユーフォっぽい久美子なら、自分の悩みや想いを受け止めてくれる”…もしかしたら父親の代わりみたいに捉えていたのかもしれません。久美子に甘えたかったのだろうと思います。
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ところが、あすかは全国大会出場を諦めようとします。そんなあすかを久美子は引き戻そうとします。
あすかに対し、がむしゃらに向かってくる久美子は駄々こねる子供そのもののようでした。そこには自身の想いを受け止めてくれそうな、あの姿は微塵もありませんでした。

しかし、
「先輩だって、ただの高校生なのに!」
という、久美子渾身の言霊が、あすかの心を響かせます。
特別な存在でいなくてもいい、子供のように駄々こねていい、父親に演奏を聴いてもらっていいと言われ、肩の荷が下りたと思います。
「後悔すると分かっている選択肢を自分から選ばないでください!」
「諦めるのは最後までいっぱい頑張ってからにしてください!」
画面からはみ出るくらい溢れる想いを、久美子はあすかにぶつけます。

そして…
あすかは自身の力で母親を説得し、事態の解決を図ることができました。
”ユーフォっぽい久美子”に救われた と言って良いと思います。
※みん友さんに記事を書くきっかけを頂きました。ありがとうございます。
※当ブログで引用している画像・その他データの権利は 武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 に帰属します。
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Posted at
2021/12/19 02:52:00