「希美は音楽が大好きです。一方、みぞれは音楽なんて二の次のような言動をします。しかし新山先生に才能を見出され、音大進学を進められたのはみぞれだけでした。フルートとオーボエが向き合う状況に置かれ、希美の、みぞれに対する心を闇が支配します。音楽に対する姿勢、進路の事…二人はすれ違う一方で、”互いに素”の状態が続きます。」
”互いに素”とは、劇中で数学の先生の講義がありました。
「3と5のように最大公約数が1以外の共通した約数が無い関係、そのような2つの数字を”互いに素”というわけです」
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
二人の関係は交わることの無い「disjoint(互いに素)」でした。オーボエとフルートの掛け合いはどこか合わず、不協和音になっていました。
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私はここで解釈を終えてしまっていたのですが、そこには続きがあるというのです。
”互いに素”の性質を持つ数列に、フィボナッチ数列というものがあります。
フィボナッチ数列というのは、最初の2つは”1”で、3つ目からは前の2つを足した数(1+1="2")になります。次は(1+2="3"、2+3="5"、3+5="8")と続きます。
1,1,2,3,5,8,13,21,34…というように数が並びます。
下駄箱の番号にある数字(2,3,5,8)にフィボナッチ数列が示されていました。
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そして、フィボナッチ数列の隣同士は”互いに素”なのです。
劇中の絵本パートで、青い鳥=希美を示唆していた場面で、リズは「3つの木の実」を髪飾りにします。
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物語が進み、青い鳥=みぞれを示唆する場面では、髪飾りが「5つの木の実」に変化します。
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そういう事で、希美は「3」、みぞれは「5」を示し、3と5は”互いに素”=希美とみぞれの関係はdisjoint、交わりを持たない関係であるという事を示唆しています。
みぞれは”3匹のフグ(3=希美)”の世話をし、可愛がっていました。
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実は、フィボナッチ数列は別の特徴を持っています。それは、
数列が続くと”黄金比に収束する”というのです。
黄金比とは安定的で最も美しいとされる比率で、
1:(1+√5)/2、近似値1:1.618、8:13となります。
ピラミッドの高さと底辺の半分の比や、ミロのヴィーナスのプロポーション(頭からおへその長さと、おへそからつま先までの長さの比)など、美しいと思えるものは黄金比で構成されています。
フィボナッチ数の隣同士を限りなく割り算していくと、いずれ黄金比に収束します。
フィボナッチ数列の隣接項間の比
「しかし、みぞれのオーボエが覚醒。圧倒的な演奏力を見せつけられます。が、みぞれの方からの”大好きのハグ”を通して本当の心の内を知った希美は、「みぞれのソロ、完璧に支えるから 今はちょっと待ってて」と、みぞれに伝えます。二人が本当の意味で分かりあえた瞬間でした。」
要するに、紆余曲折を経てやっと二人は分かり合え(joint)、スタート地点に立つ事が出来たという事です。
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劇中、希美が「物語はハッピーエンドがいいよ」と言います。また、「リズが逃がした青い鳥って、リズに会いたくなったら また会いにくればいいと思うんだよね」とも言います。
山田尚子監督が考える”ハッピーエンド”とは、それぞれが自分の夢や目標を追って、一見”互いに素”のように交わることの無い別々の道を歩むように見えるかもしれないけれど、それが叶ったらまた戻って来て、最終的に二人の関係は”黄金比に収束する=美しい関係に収束する”という意味であると解釈できると思います。
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スタート地点から出発した二人は、通過点である吹奏楽コンクール関西大会第3楽章の掛け合いで素晴らしい演奏が出来ました。
そして二人は高校を卒業して別の大学へ進学していきますが、時が経ちそれぞれの夢を叶えた後に、二人はまた戻り、関係は黄金比にどんどん近づいていく=美しい関係になっていく…そういう歳を重ねていく二人の関係を示唆しているのだと思うのです。
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山田尚子監督はここまで計算して「リズと青い鳥」を制作していたという事になります。山田さんと京アニはスゲーと思いました。
「響け!ユーフォニアム」のシリーズ演出は山田尚子さんが担っています。
希美とみぞれだけでなく、久美子と麗奈、優子と夏紀、あすかと香織など、いくつもの二人の関係を描いています。
「誓いのフィナーレ」では麗奈が「久美子と離ればなれになってしまうのではないか」と不安な気持ちを吐露していました。しかし、二人はそれぞれ目標を持って夢を叶えるために途中離れることはあっても、いずれまた再会し、更に美しい関係になっていくような物語に仕上げて行ってくれるような気がしています。
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