みん友さんのブログで、『3年生の中川夏紀副部長(ユーフォニアム担当)は本当に実力でコンクールメンバーを勝ち取ったのか?』という切り口の記事がありました。
この点について、私なりに考えてみたいと思います。
尚、吹奏楽未経験者の私はコンクールメンバーがどのようなロジックで選定されるのかは知りません。正しい手法がどうか分かりませんが、こうなのではないかな?という事を書いてみたいと思います。
先ずは、
「全日本吹奏楽コンクール実施規定」という文書を見つけました。

これによると、
A部門の参加人数は55名以内で、課題曲の編成はスコアの指定通りという事のようです。
北宇治高校吹奏楽部の部員と担当楽器を一覧にします。
・名前の色は、青⇒3年生、赤⇒2年生、緑⇒1年生です。 ・名前の隣に担当楽器を記載しました。
・項目の”A”というのは、A部門コンクールメンバーの意味で、メンバーは1のフラグを立ててあります。
・公式設定で楽器経験者が判明している人は「経験」の欄に1のフラグを立ててあります。
・一番下は検算用合計で、3年生14人、2年生20人、1年生21人、合計55人という事を表しています。
・右の欄は、楽器パート毎の編成人数をカウントしています。
・紫色の「小計」の欄は、北宇治吹部の楽器パート人数を示しています。
編成を組む上で基本となる構成4声体を加味しなければいけないという事を知りました。
ソプラノ・アルト・テノール・バスの4声体に対して、どの楽器が当てはまるのかを確認します。
それぞれのグループがどの程度の割合で存在すれば良いのか、推奨編成例を元に計算しました。
北宇治の編成割合がどのくらい推奨編成に近いのか確認してみます。
(パーカスは除外しました)
これによると、Bグループ(テノール・-4.1%)から若干、Cグループ(アルト・+4.6%)パートに振っている事が分かります。 勿論、「リズと青い鳥」のスコア指定の影響もあると思います。
次に、
北宇治吹部は全部で80名いる中でコンクールメンバーから外された人をリストアップします。
上級生では、3年生の加部ちゃん、2年生の葉月とつばめちゃんが外されています。
トランペットの加部ちゃんについては、顎関節症を発症して楽器が吹けなくなってしまい、自身の判断で辞退したという経緯があります。
チューバの葉月ちゃんについては、強豪校から上手な後輩が入部したのと、スコアを見て低音の人数枠は十分という事で外されたのでしょう。
パーカスのつばめちゃんについては、「リズム感が無い」というパーカスとして致命的な設定をされてしまっています。スコアのパーカス枠も満たしているので外されたのでしょう。
ホルンの編成は自由曲「リズと青い鳥」のスコアを見ると4人で良いと思います。
これまでの事から、考えてみます。
自由曲「リズと青い鳥」は、オーボエとフルートの掛け合いが肝となる曲です。
滝先生は天才的オーボエ奏者みぞれに期待したと思います。従ってオーボエは1人で割り振ったと思われます。
フルートもソロの掛け合いを含めこの曲では重要ですので、結果的にフルート枠が多くなったのかもしれません。
割合が少ないBグループ(トロンボーン・ホルン・ユーフォニアム)について、
55人という枠の中でのやりくりで、スコア上最低限必要な人数を残して滝先生は高音グループに振った為、Bグループが少な目になったのではないかと思います。
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では、Bグループのメンバーをどうするか?という話になりますが、
ここで北宇治高校吹奏楽部の状況を見たいと思います。
今年の北宇治は、吉川優子部長と中川夏紀副部長を筆頭に、去年逃した「全国大会金賞」を目標にリベンジする事になりました。
滝先生は「自主性を重んじる方針」を打ち出しています。
精力的に活動する優子部長を影で支える夏紀副部長は、皆からの信頼も得ていました。
夏紀は高校から吹奏楽を始めました。1年次は前顧問によるグータラ部活のせいで殆ど練習をする機会が無かったと思われます。実質、真剣に楽器の練習を始める環境になったのが2年次からです。
更に、同じパートで楽器経験者の奏が入部する事により、ユーフォニアムパートの演奏レベルは 久美子>奏>夏紀 という構図になってしまいました。
病気でコンクールメンバー辞退を余儀なくされた加部ちゃん先輩も「経験者には絶対に追いつけないって やる気なくなったり」と話をしていたことがあります。楽器経験の浅い部員はそういう葛藤がある中でも夏紀は懸命に練習を続けていました。
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
オーディションが行われました。新入生の奏は(自分より下手な)夏紀副部長を差し置いてコンクールメンバーにはなれないと、わざと下手に吹くという行動に出ました。
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
奏らしからぬ下手な演奏を聞き、夏紀はオーディション中にも関わらず割って入ります。
滝先生はユーフォパートが抱える問題を察知し、夏紀の「副部長としてオーディションを中断すべき」という言葉を受け入れ、問題の解決を夏紀と久美子に委ねる事にしました。
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
そして、夏紀と久美子に説得された奏は、自分の実力をオーディションにぶつける事ができました。
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
全国大会を狙う北宇治は、完全実力主義を謳っています。しかし杓子定規に事を運んでも上手く行かない事は、去年のソロパート争いの一件で滝先生は理解しています。
部を牽引する夏紀副部長をオーディションで落とす事のリスクは極めて高いと判断したと思います。
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
エース級の上手さでは無いかもしれませんが、夏紀自身も懸命に練習を続けていましたのでコンクールに通用するレベルはあったと思いますし、その成長具合は滝先生も分かっていたと思います。
合宿中「リズと青い鳥」練習番号”K”で滝先生が「ここは奏者を一人にしましょう。黄前さんお願いします」というシーンがあります。
練習番号”K”は、この曲の見せ場であるオーボエソロがある箇所です。楽譜を確認すると、オーボエソロ中の低音はユーフォのみとなっています。
みそれのソロを支えられる技量を持つのは久美子しかいないという事で、この箇所のみ滝先生は絞ったと考えられますが、全員がエース級で無くてもこのような処置が出来る事を示していると思います。
楽器は、ただ吹くだけだったら機械でも出来ます。そこに想いを込める事で初めて”演奏”という形で表現できるようになり、良い音色となって響きます。
夏紀の部と部長を支える力は、多くの部員達の心理に大きく影響し、演奏のクオリティ確保に必要不可欠な事と思います。
Bグループ(トロンボーン・ホルン・ユーフォニアム)を見て、重要な役割を担っている夏紀と、1年生のトロンボーン経験者(葉加瀬みちる・布袋知美)を天秤にかけた結果と思います。
ユーフォパートに久美子と奏の演奏技術は北宇治にとって必要ですから、スコア上では2人のユーフォ枠を3人に広げたのだと思います。
トロンボーン・ホルンについてはアンサンブル楽器という事もあり、「リズと青い鳥」を演奏するのに必要な人数はきちんと確保されています。
結論として、
100%演奏能力でコンクールメンバーになったわけではありませんが、そこそこにコンクールに出場できるレベルである事を確認した上で、何より管理職としての部の牽引力・調整力+直向きに努力する姿勢+人柄、多方面で支えるという役割を担っている夏紀の力が北宇治のサウンドに影響する事を重要視し、滝先生はコンクールメンバーに選んだのではないかと思います。
良い演奏に必要なものは演奏技術だけでは無いと思うのです。
そういう意味で夏紀は「実力」でメンバーを勝ち取ったと言って良いと思うのです。
※20.08.26 練習番号Kの記事他を追記・各所修正
※20.08.25 作成
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