
前回の続きとなりますが、今回で最終回です。
今回も、導入済みの方は閲覧注意と致します。今回は残りの3番目の周波数特性 とオススメのDSP、オススメできないDSPをズバリ書いていきます。賛否両論あるとは思いますが、それも覚悟のうえで書き記していきます。
繰り返しで言いますが、CDフォーマットで聴く場合は、どのDSPを選んでも問題はありません。ハイレゾ再生ではスペックに左右され、同じサンプリングレートでも差が大きく出てしまうので、あくまでハイレゾ限定の話であることを御理解して下さい。
3.周波数特性 について
これが最重要項目となります。人の可聴域は、20Hz~20kHzというのは誰もが知っていることであり、加齢とともに高音が聞こえなくなることも事実。(
可聴周波数の調査 年齢別調査) CDフォーマットですら16kHz以上は必要無いと思う方も多いと思います。では何故、20kHzを超える再生領域があるツイーターが存在しているのか? 多くの方は、「20kHz以下の可聴域の音を余裕をもって鳴らすため」と考えているのでは、でもそれは付加価値にしかすぎません。真の目的は倍音再生のためです。楽器を弾いている方は知っていますよね。基音から1オクターブごとに出てくる音のことです。基音と倍音は密接な関係があり、基音の倍音成分をカットしてしまうと基音の波形が素に戻り、なまるのです。倍音は、人が聞こえなくてもスピーカーから出す必要があるのです。ハイレゾを生かすのも殺すのも、この倍音の扱い方次第ということです。ホームオーディオでは、後付けのスーパーツイーターの中で設定によって、人の可聴域を超えた周波数から100kHzまで再生できるものがあるほどです。
基音と倍音については、以下のサイトに詳しく記述されています。
ここで、 ”音の原理や「音色は基音と倍音によって決まる」ことがよく理解できる” の中で動画が紹介されています。まだ見てない方は必見です。
これを視聴して「ピアノでこんなことができるんだ!」と思うだけなく、音響工学という観点で再度見て下さい。みるべきポイントはここです。

鍵盤の動き方に注目。
これを、シンセサイザーや自動ピアノでなく生ピアノを使って、パソコン制御のソレノイドで弾くというのが斬新な試みとなっています。倍音成分も整数倍、奇数倍、偶数倍と刻々と変化しています。この倍音成分を抜いてしまうと、「人が話す音程を再現するピアノ」に成り下がってしまうでしょう。
倍音が基音の波形に与える影響力、倍音の存在が如何に重要であることが分かる動画となっています。
この仕組みは動画内でも解説されていますが、もう一度解説をすると、

少年のしゃべりを録音し、ピアノの鍵盤ごとの周波数で、どのタイミングで立ち上がり収束するかを解析し、MIDIシーケンサーでデータをまとめます。でも、MIDIを生ピアノに直結はできないので、別ソフトや専用デバイスを経由してピアノを弾いていると考えられます。鍵盤を叩く強さもある程度段階的にコントロールしているとか(MIDIシーケンサー画面で通常はパート別に音色を変えて打ち込みをして色分けをするのですが、この色分けでは別の意味を持っていそうです)、解析の段階で、どれくらいの音量レベルからデータを取るといった独自のノウハウもありそうですが、類いの動画の中で、これが一番クオリティの高い動画となっています。
でも、よく考えて下さい。紙やカーボンといった素材が前後するだけで人の声や動物の声も再現できるものがあるじゃないですか?!
そう、スピーカーですよね。
固定振動か可変振動の違いです。固定振動(固定波形)であっても、88WAY(88鍵)あれば、このくらいことは可能だということです。基音の波形が変わったら倍音成分も変わる。その逆で、その倍音成分を正確に再現できると固定波形であっても変化してしまうということです。
興味深い検証実験を見つけたので貼っておきます。元ソースは
こちら(pdfファイル)
編集時に誤ったのか、図8以降は逆位相となっていますが、そこはスルーで。
一通り見て、図7:スピーカ(ウーハのみ) が何故、矩形波(方形波)から正弦波になっているのか説明すると、まず倍音が出てないので基音の基本波形の正弦波が残ります。それで、なまる(鈍る)ことになるのですが、矩形波はダイレクト(倍音無しで)にスピーカーで再現することが、そもそも不可能なのです。時間軸0でスピーカーのコーンを前後させるなんて物理的に無理があります。
正弦波は自然界には存在しない音なので、楽曲中の波形でも正弦波が出てくることは皆無です。アナログシンセで、VCOでサイン波のままでキーボードソロ弾いてる曲なんて聞いたことも見たことも無いです。曲中の楽器の一音一音全てに倍音が付帯されているということです。
矩形波の倍音付加数の推移がこちらになります。
左上から左下 0から4つ
右上から右下 5から9つ
倍音は人が聴ける範囲を超えていても出さないと正確な波形にはなりません。
CDフォーマットの20kHzの正弦波でも、

DACを通ってスピーカーに出力された波形は、奇麗な正弦波に変わります。
低サンプリングで波形が崩れたため倍音が付くようになったのだが、その倍音が無いため基本波形が残って正弦波に戻るということですが、振幅の上下のバラつきさえも無くなります。一般的なツイーターでは慣性に負けてしまい一定振動となってしまうからです。
これは結果オーライにみえるかもしれませんが、元の20kHzの音が三角波・のこぎり波だったらどうでしょうか。サンプリングは曲線は苦手でも直線的な波形は得意としています。少ないサンプリング回数でも容易に再現できます。これも正弦波になってしまうのは、やはり問題ですよね。
話は戻り、DSPの周波数特性ですが、これは、動作サンプリングレート(内部演算レート)に影響されます。サンプリング周波数の半分が限界値となります。これをナイキスト周波数といいます。192kHz機だと96kHz、96kHz機だと48kHz、48kHz機だと24kHz、44.1kHz機だと22.05kHzとなり、これが上限となります。
何故、半分なのか、半分より上をサンプリングすると、どうなるのか説明します。

仮にナイキスト周波数の振幅の頂点で2回サンプリングしたとすると、波形は違っていても同じ周波数が再現できます。(1周期でみると最低2回のサンプリングが必要)しかし、これ以上の高い周波数を入れてサンプリングしてもサンプリングポイントは赤線上で間隔は変わらないので、ナイキスト周波数を超える周波数のデータ取りができません。また、折り返しという現象も発生します。この現象はエイリアシングといって、図解するとこうなります。

ざっくりと描いたのですが、更に高い周波数を入れてしまうと実際の波形と大きく誤差が生じてしまい、ナイキスト周波数にも満たない極端に低い周波数の波形が新たにできてしまうのです。これでは元の音源を濁すノイズや歪の元になってしまうのです。
このエイリアシングノイズを発生させないように(サンプリングした後から高域をカットをするとエイリアシングノイズは取り除くことが不可能になる)、サンプリングする前にLPFを使ってナイキスト周波数より高い周波数をカットします。
では、ナイキスト周波数ギリギリまでサンプリングすると、どうなるかCDフォーマットで正弦波22kHzをサンプリングしてみると。
もう少し拡大してみます。
まあ、まともな波形は作れません。最低でもナイキスト周波数の一割前後手前からカットするのが一般的です。
しかし、DSPではこのカットする割合が各メーカーごとにバラバラで、特に192kHz機においては極端すぎるほどの差が出ています。同じサンプリングレートの機種でも周波数特性に違いがあるため、この項目は見逃してはいけない重要項目なのです。
周波数特性の見かたですが、グラフがあると一目瞭然ですが全メーカー用意してるわけでもない。でも、この様な表記の場合は、
10Hz~44kHz(-3dB)
表示の周波数範囲内では出力の許容出力変動幅は1kHzを基準として-3dB以内に収まることを表しています。
こういった表記ではなく、10Hz~44kHz だけ書いてる場合は注意が必要です。フラットであるはずがなく、海外の本家のサイトでテクニカルシートを見るとグラフでは上限値が-10dB以上落ちていたなんてことはよくあることです。
スペックで動作サンプリングレート(内部演算レート)を公表していないメーカー・機種がありますが、周波数特性を見て逆算すると答えが見えてきます。
ARC AUDIO DSP8Univaersal (~24kHz) 48kHz機が濃厚
ARC AUDIO PS8 (~23.5kHz) 48kHz機が濃厚
μ-DIMENSION DSP-680AMP (~22kHz) 48kHz機が濃厚
FOCAL FSP-8 (~21kHz) 48kHz機が濃厚
Rockford DSR-1 (~20kHz) 44.1kHz機が濃厚
動作サンプリングレート(内部演算レート)についてですが、方向性が逆なメーカーも存在します。一般的にアンプ内蔵タイプよりも、アンプレスタイプの方がスペックが高いのですが、JL AUDIO ではアンプレスのTwK-88 Twk-D8 は48kHzとなっていて、アンプ内蔵タイプの方が96kHzとスペックが高くなっています。
さて、まずはオススメのDSPですが、96kHz機以上をオススメします。
大多数のハイレゾ音源が96kHz以下なので、ここをネイティブで聴けるメリットがあります。周波数特性も40kHz前後まであると、大半の車用ツイーターを余裕をもってカバーできるのです。ツイーターの性能を使い切ることができるのは大きなメリットとなります。
96kHz機は選択肢が多いのですが、192kHz機でオススメできるは、
BRAX DSP
ZAPCO HDSP-Z16V AD-8A
mosconi GLADEN DSP 8TO12 AEROSPACE
この3つのみ。
オススメできないDSPは44.1kHz機と…ここは非難が集中するかもしれませんが、これから導入したい方のためにメーカー名、機種名を挙げていきます。
ESX
XE6440-DSP XE4240-DSP QE80.8DSP QE80.6DSP QE804DSP X-DSP
GROUND ZERO
GZDSP4.80AMP GZDSP4.80A-PRO GZDSP6-8X GZDSP6-8XPRO
Hifonics
TRX6006DSP TRX5005DSP TRX4004DSP M8-DSP
低価格帯の192kHz機ですが、スペックは同一です。これら全ての心臓部がシーラスロジック社製の32bit/192kHzシングルコア8chプロセッサーとなっています。コスト重視で作られたのは明白です。致命的な問題があるのは周波数特性が、~20kHz(-3dB)となっています。シーラスロジックの技術屋は倍音の概念が無いのか、可聴域の数値だけ残して切り捨てています。1/4の48kHz機よりも周波数特性が狭いとか異常です。
ハイレゾを一般的な機材(20Hz~20kHz)のアンプ、イヤフォン、ヘッドフォン、スピーカーで聴くとCDフォーマットとの違いが判断できないといった事例がありますが、この理由は説明しなくても、ここまで読んで頂けたのなら分かりますよね。
ハイサンプリングの目的は、倍音を一つでも多く再生し基音の波形を崩さないようにするためです。サンプリング回数が増えて緻密化するのは副産物だと思って下さい。この副産物が良くても上が無いと台無しとなり崩れてしまうのです。
DSPを購入するあたって知識0の状態で、広告・宣伝「192kHzの音源にも対応!」の謳い文句を見たり聞いたりすると、「192kHzで再生できるのか!」と勘違いしたまま購入。実際には光デジタルで96kHzにダウンコンバートされ、更に内部処理で48kHzにダウンコンバートされたもので、想像してた音とは別物の音になってたということは実際にある話なので、スペックを理解し本質を見極めて選んでほしいと思ってます。
最後に、DSPのデメリットについて書きます。
「アナログ入力の音は過度の期待をしないこと!」
結論から言うと劣化します。アナログはアナログで処理するのが一番です。DSPに入ったアナログ信号は、AD変換された後にDA変換されます。例え、DSP内で無調整でスルーしても、入り口と出口が同じ波形になるわけがありません。ヘッドからの処理を加えるとDACを2回通ることにもなりますから。現実として、ノイズ・歪は増えるし音痩せもします。既に完成されたシステム構成で、ヘッドも高機能で、TA・EQ・位相といった調整も可能で、ハイレゾもある程度ネイティブ再生できるものであれば、粗が目立つことになります。逆にマツコネのように、トーンコントロール・前後左右のバランス調整しかないヘッドであれば、調整項目が増えることによるプラス面もあるので調整次第では、一定音量までなら劣化を幾分抑え込むことは可能です。マツコネでも、DSPを導入してトータルでシステムアップすると、アナログ入力でも純正状態よりは一応マシにはなります。
DSPを既に導入して、まだ一度もデジタル接続を試したことが無い方は試してみて下さい。きっと考え方が変わると思います。お金をかけない方法として、CDプレイヤー、BD/DVDプレイヤー(レコーダー)、ゲーム機等といったCDが再生できて光デジタル端子の付いている機材がひとつはあるはずです。それを電源延長ケーブルで車まで引っ張って、光デジタルケーブルで繋ぐだけです。ケーブルが揃っているのなら手間はかかるけどタダです。試せば、ビックリするほど別物に大化けしますよ。
追記
自分も買い替えを考えていて、色々と調べてみてきたんですが、一番の衝撃は、
DIATONE SOUND NAVI がWAV、FLACは44.1kHz/24bitへダウンサンプリング再生だったということ。全国各地のプロショップが推奨プランとして扱っている定番ものですが、これを何割のユーザーが把握してるのか……