
前回の
番外編でも軽く触れましたが、ジェネレーターが大きすぎる気がするのでマルチステージハイブリッド向けに再計算してみようと思います。
おことわり
これらの内容には非公開情報を仮定して求めている箇所がいくつもあります。
実際には異なる可能性があるためご注意ください。
計算式も忘れないように書いておきます。
プラネタリーギア比 ρ = 0.3846
トルクの分配は
Tg = (ρ / (1 + ρ)) * Te = 0.2778 * Te
Tr = (1 / (1 + ρ)) * Te = 0.7222 * Te
回転数の関係式は
ρ * ng + nr = (1 + ρ) * ne
ジェネレーター回転数
マルチステージハイブリッドの説明会で話されてた、従来のトランスミッションは最高出力を 120km/h 以上でしか出せなかったが今回は 60km/h で出せるようになった。というセリフから紐解いてみます。
その時 LC500h でしたので諸元表は以下のとおりです。
エンジン出力: 220kW / 6,600rpm
エンジントルク: 356N・m / 5,100rpm
モーター出力: 132kW / 4,202rpm以上
モータートルク: 300N・m / 0-4,202rpm
減速比: 3.357
ギア比: 3.538 / 1.888 / 1.000 / 0.650
タイヤサイズ: 275/35R21 (外周は 2.280m)
まず時速 60km/h のときトランスミッションの回転数は 60 * 1000 / 60 / 2.280 * 3.357 = 1,472rpm です。
このときギアは1速ですので、リングギアは 1472 * 3.538 = 5208rpm です。
エンジンは最高出力の 6,600rpm で回っているので、回転数の関係式を用いると
ρ * ng + nr = (1 + ρ) * ne より
0.3846 * ng + 5208 = 1.3846 * 6600
0.3846 * ng = 3930
ng = 10,219rpm となります。
つまり、マルチステージハイブリッドのジェネレーターの最大回転数は概ね 10,000rpm であることがわかります。
マルチステージハイブリッドのシステムトルクとその速度
ジェネレーターの最大回転数が分かったところで、システムトルクの出る速度はいくつなんでしょうか。計算してみましょう。
ここから22クラウン 3.5L モデルを参考に考えてみます。
なお、22クラウンは LC500h と比べても減速比までは全く同じでした。唯一タイヤサイズが小さくなっているだけです。タイヤサイズだけ小さいということは、LC500h よりも加速寄りの調整になっているということです。(車体も軽いし加速寄り、そりゃ LC500h よりも22クラウンの方が早いわけです💦)
まずトルク配分です。
エンジンから最大トルクが出力されているとすると以下の配分になります。
Tg = 0.2778 * Te = 98.9N・m
Tr = 0.7222 * Te = 257.1N・m
つまりジェネレーターに 98.9N・m が分配され、回転数は 10,000rpm ですので発電量は 104kW となります。
マルチステージハイブリッドのシステム出力は 264kW ですので、バッテリー供給は最大 44kW と推測できます。発電量とバッテリー供給を合わせると 132kW のモーターはフル稼働できています。
ちなみに22クラウンのタイヤサイズは 225/45R18 です。(外周は 2.073m)
トランスミッションの回転数を速度に変換する式は...
速度km/h = 回転数 / 3.357 * 2.073 * 60 / 1000 = 0.03705 * 回転数
となります。
さて、最大トルクが出る 5,100rpm でエンジンが回り、ジェネレーターは 10,000rpm で回ってるとします。回転数の関係式を用いると...
ρ * ng + nr = (1 + ρ) * ne より
0.3846 *10000 + nr = 1.3846 * 5100
nr = 3215rpm となります。モーターの最大トルク発生回転数は諸元表より 4,202rpm 以下ですので、モーターも最大トルクを出すことができています。
これを各ギアで求めると以下の速度になります。
1速のとき、3215 / 3.538 * 0.03705 = 34km/h
2速のとき、3215 / 1.888 * 0.03705 = 63km/h
3速のとき、3215 / 1.000 * 0.03705 = 119km/h
4速のとき、3215 / 0.650 * 0.03705 = 183km/h
トルクは発進時に一番出したいので、34km/h あたりが一番分かりやすいかもしれません。その時のシステムトルクは、分割された 257.1N・m とモーターを組み合わせると約 557N・m 相当になります。
マルチステージハイブリッドの出力特性
さて次に出力について考えてみます。
LC500h だと 60km/h で最高出力でしたが、22クラウンではいくつでしょうか?計算してみましょう。
ρ * ng + nr = (1 + ρ) * ne より
0.3846 * 10000 + nr = 1.3846 * 6600
nr = 5292rpm となりますので...
1速のとき、5292 / 3.538 * 0.03705 = 55km/h となります。つまり 55km/h 以上で最高出力を出すことができます。
次にトランスミッションの理論上効率100%になる速度を求めてみます。
マルチステージハイブリッドに1年半乗った感覚としては、高速道路は常に1,000rpmちょっとで巡航できていますので、1,100rpm として試算してみます。
回転数の関係式 ρ * ng + nr = (1 + ρ) * ne より、ジェネレーターが 0rpm になる速度を求めると
nr = 1.3846 * 1100 = 1523rpm になります。
これを各ギアで求めると以下の速度になります。
1速のとき、1523 / 3.538 * 0.03705 = 16km/h
2速のとき、1523 / 1.888 * 0.03705 = 30km/h
3速のとき、1523 / 1.000 * 0.03705 = 56km/h
4速のとき、1523 / 0.650 * 0.03705 = 87km/h
これを見ると、メーター読みで概ね 60km/h や 95km/h 付近で走行するのが最も効率のいい速度域のようです。22クラウンのセッティング、完全に日本に合わせていますね!
ちなみに LC500h / LS500h のタイヤサイズは 245/50R19 や 275/35R21 ですので、外周は 2.280 になります。
トランスミッションの出力回転数を速度に変換するのは
速度 km/h = 回転数 / 3.357 * 2.280 * 60 / 1000 = 0.04075 になります。
22クラウンと同じように各ギアで求めると以下の速度になります。
1速のとき、1523 / 3.538 * 0.04075 = 18km/h
2速のとき、1523 / 1.888 * 0.04075 = 33km/h
3速のとき、1523 / 1.000 * 0.04075 = 62km/h
4速のとき、1523 / 0.650 * 0.04075 = 95km/h
まとめ
マルチステージハイブリッドでは低速時のトルクが 1.5 倍になっている以外にも、トランスミッションの効率が理論上100%になる点が4箇所に増えることで、全域に渡って燃費向上を図っているのも特徴です。特にオーバードライブのギア(4速、0.650)を追加することで、THS II が弱い高速域の燃費向上を目指したみたいですね。
THS II と比べて低速時の加速が上昇したのに、トランスミッション効率が上がって燃費も向上しているのは嬉しいなと思っています(だからマルチステージハイブリッドが気になって乗ってる)。