
お迎え時にツイッターの方で紹介し、ここでも紹介しようと思っていたら、いつの間にか1年が過ぎてしまいました…
ラジカセ好きなら一度は(?)思う疑問「海外製のラジカセってどんなのがあるの?」。日本で最も名の知れているのは、HipHop界隈で人気の高いアメリカのラソニック。それ以外は…?となるとほとんど知られていないのが現状で、そんな時にとあるブログの記事で出会ったのがこの機種でした。デザインが好みだった上、ロシア製という響きに強く惹かれましたが、お国柄前述の1台以外は国内に出回っていないだろうと思い、でもとりあえずはヤフオクにアラート登録しておき1年が過ぎました。そしてその事も忘れかけていた去年の2月、なんと別の1台が出品されたのです! しかも箱付きの完品で。 …入札者は私以外に無く、そのままお迎えと相成りました。
そんな不思議な縁でやってきたこの子、いざ対面してみると日本とロシアの考え方の違いを随所に感じる機種でした。珍品という事で長くなりますがご了承ください。

元箱。この時点で既にただ者じゃありません。
「магнитофон каццетный стереофоничский (マグニートフォン カセットニー ステレオフォニーチェスキー)」というのは「カセットテープステレオ」という意味。ラジカセとは言いましたが、ラジオ無しのテープレコーダーなのです。
そして愛称の「ВЕСНА(ヴェスナ)」は「春」。冬の長いロシアらしさを感じるネーミングです。

本体と付属品一式。左のコードは外部入出力用のケーブルで、端子はよくある赤白ではなく4ピンの特殊な物。電源コードは出品者の方がサービスでつけてくれました。こちらは汎用品がそのまま使えます。
当然ながら200V仕様なのですが、100Vでも問題なく動きました。電池駆動にも対応しており、単1電池8本で動きます。

無骨さを漂わせつつも均整の取れたデザイン。特にカセット挿入口の窓と位置を揃えて配置された針式のレベルメーターが印象的。ただしプラパーツの質感や加工精度は低いです。前述のブログでは"80年代のソ連市民憧れの…"と紹介されており、当時はこれでも高級品だったのかも知れません。
時期によってマイナーチェンジされていたらしく、ブログで見たのはスピーカー枠が丸い1型。それ以降の型がこれと同じ角張ったスピーカー枠です。色はこの黄色の他白、黒、赤、茶色等複数あり、日本で80年代に流行ったファッションラジカセを彷彿とさせます。

天面の各種スイッチ。カセットを操作するボタンは絵文字表記。ツマミは左から低音/高音調整、左右スピーカーバランス、音量。その上の小さいボタンは左からカセットのノーマル/ハイポジ切替、録音レベル調整の手動/自動切替、ノイズリダクション (ドルビーとは違い、純粋にテープのヒスノイズのみをカットする物)、音場が拡がるステレオワイド、電池残量チェックと、80年代辺りの日本製ラジカセに匹敵する機能が備わっています。

カセット挿入口付近とスピーカー枠のアップ。レベルメーターの下に2つ並んだツマミは録音レベル調整のボリューム。スピーカー枠は一見2ウェイ式に見えるデザインですが、ツイーターに見える部分はダミーで、ただ穴が開いているだけ。左側の方は内蔵マイクがセットされています。

背面。中央には型番及び定格電圧と、日本製に当てはめると"裏蓋を開けないでください"的な注意書きらしき文章が。電源コード接続部上の縦長部分には管ヒューズが入っており、抜くと電源が入らなくなります。なぜこんな所に…?

付属のミュージックテープと生テープ。自国のバンドではなくTHE MOODY BLUESというイングランド出身のロックバンドです。一応、ロシアの大手レーベルから出された物のようでした。試聴用に市販のミュージックテープがそのまま入っているのは珍しいですね。
生テープの方はハーフの材質こそ悪いものの、肝心のテープはそこまで酷い物には見えなかったので使えそう。初のロシア製カセットテープ、どんな音質なのか気になります。

取扱説明書。なんと書いてあるのかさっぱりです。

上記のページをキリル文字変換とGoogle翻訳を駆使して意訳してみたもの。これで機能の全貌が解明できました。GOSTというのはロシア独自の製品規格だそう。

末尾の保証書らしきページ。スタンプされた年月日から、1991年の11月頃に製造されたものと判明。この子はソ連崩壊の直前に生まれたようです。
日本ではバブルラジカセが幅を利かせていたこの頃。両者の差を思うと感じるものがあります。
入手当時、油切れなのかメカの動きが渋くなっており分解したのですが、他所有の日本製ラジカセとは一線を画す構造になっていました。

驚いたのが各部へのアクセスのしやすさ。ボディーは中央を境に3つに分かれ、スピーカー以外の基板やメカは全てこの中央にまとめて付けられています。更に基板間の配線は全てコネクター接続のため、目当ての箇所のみを簡単に取り外す事ができます。他所有の機種は基盤が入り組んだ配置になっていたり、配線がはんだ付けで接続されている事が少なくないのでとても助かりましたね。
ただし、ネジは全てマイナス頭。電子部品も内製なのか、見た事のない形状の物ばかりでした。

スピーカーを拝見。まるでヘッドホンのスピーカーをそのまま大きくしたような、スパイラル形状のエッジです。奥行きも小さめ。

注油後は調子が戻ったカセットメカ。こちらも他所有の機種と比べるとありえないほどシンプル。それでいてヘッド周りや回転機構部はしっかりした作りになっており、質実剛健さを伺わせます。オートリバース式ではないのにフライホイールが2つありますが、片方はメカの振動を打ち消し、回転ムラを抑えるためだけの物。さらに速度調整可能なDCサーボモーター、電磁式のフルオートストップ機構
(ただし反応がかなり鈍い) と、何気に高級なメカニズム。

この異常なほどの整備性の良さに加えて、なんとカセットメカの分解図と回路図まで付属。(当然全てキリル文字ですが…) とどめに、前述した背面の注意書きらしき文章を翻訳して出てきたのが"分解する際は必ず電源コードを抜いてください"
同クラスで比較した場合、基板の配置もメカの構造も複雑で自己修理が難しくなりがちな日本製に対し、最初からオーナー自らが修理する事を前提にして設計されているこの機種。日本とロシアの考え方の違いを強く感じましたね。

という事で使えるようになったのでテープをかけてみましたが、再生中スピーカーから常に「ブー」というノイズが発生。後になって一部電解コンデンサーの不良や、断線しているトランジスターが見つかった為それらを交換したところ、完全には消えませんでしたが小さくなりました。
音質は高音が非常に透き通った感じで響く独特な物。その反面低音は調整ツマミを最大近くにしてもあまり効かないため、低音成分の多い曲は苦手。スピーカーの構造のせいなのでしょうか? レベルメーターの振れ方もゆっくりで、賑やかめな曲だと針が追いつかなくなる事もしばしば。逆に健気さを感じて可愛くもありますが。
前述の高音寄りの音質のおかげで、ボーカル曲やトランペット主体のジャズが特に冴え、ステレオワイドをONにする事で曲によってはより表現力が上がります。そして海外製だけあり、日本語の歌をかけると雰囲気が違って聴こえますね。
まさか、コレクション初の海外製ラジカセがロシアになるとは思いませんでした。名前に違わず、まさに春風のごとく爽やかな歌声と音色を聞かせるこの子、これからも大切にしていきたいです。

実は後日談があり、お迎えした次の月に知人からいらなくなったレコードを数枚頂いたのですが、その中にソ連時代に製作されたアニメ映画のサントラ盤が混ざっていました。まさか、君が引き寄せたの…?(笑)
~~余談~~

入れ替わりに手放したシャープQT-77。地元のリサイクルショップで見つけてから約9年間所有。デザインがお気に入りでした。今は別のオーナーの下で元気にしている事でしょう。
サンヨーがU4"ユーフォ―"で一世を風靡していた頃、シャープはQT"キューティー"で対抗していたのです。

そして、去年9月に電源回路のトラブルを起こし入院中だった、同じくシャープの電子の歌姫…もといキーボード付きラジカセ「メロディーサーチャー」も、今年初めに無事退院。昔憧れてお迎えした機種なので、直って良かったです。
すっかり暖かくなり、冬場の寒さでまともに動かせなかったラジカセ達もようやく楽しめるようになりました。だいぶご無沙汰してしまっているテープ作りも進めていかないと…