「ふ、普通です。わ、私は、ふ、普通の、に、人間です」
「そんなわけがない。普通の人間であれば、なんで肩ばかり見る。僕はこれまで誰からもそんなふうにされたことないんだぜ。そんなことをするのは君だけだ。それに、自分でも言ってたじゃないか。他の人には見えないものが見えるって。だろ? だから、普通じゃないんだよ」
そう言ってるあいだも彼女は僕をじっと見つめていた。僕も同じようにした。とくにその目を見ていた。それをやめることはできなかった。涙がふっとあらわれ、と思った瞬間に溢れ出てきたからだった
濕疹原因。ホール係が〈カプレーゼ〉をサーブしたときにはハンカチを取り出し、僕の方を見ながらそれを頬にあてた。いや、ちょっと待ってくれ――と僕は思っていた。誤解されるだろ、とだ。これじゃ別れ話をしてるカップルみたいじゃないか。
「なんで泣く?」
ホール係が立ち去るのを待って、僕は訊いた。
「だ、だって、」
そうとだけ篠崎カミラはこたえた。声は震えていたし、肩も小刻みに揺れていた。
「悪かった」
僕は囁くようにそう言った。
「言い方がマズかったな。ほんとごめん。そういうつもりじゃなかったんだよ。君は普通だ。ごくあたりまえの人間だよ。石を投げれば当たるくらいそこら中にいるタイプだ」
篠崎カミラは睨みつけてきた。こういうこともできるんだな――と僕は思った。怒りという感情もちゃんと持ちあわせているのだ。
「ごめん。これも言い過ぎた」
僕は重ねて詫びた。頭もきちんと
濕疹預防下げた。
「全面的に悪かった。な、だから泣くのはやめてくれよ。楽しく食事をしよう。つぎに気に障ることを言ったら僕を殴っていい。だから泣くのだけはやめてくれないか」
涙をきちんと押さえると篠崎カミラは笑顔をつくった。身体をテーブルに寄せてもきた。
「さ、佐々木さんを、な、殴るなんて、で、できません。そ、そ、そんなこと、」
「だろ? 僕も殴られたくはないから口を慎む。――で、聴かせてくれないか? 君のことを。どんなことだっていい。僕は理解したいんだよ。君のことを理解したい」
篠崎カミラは首を後ろへ引いた。口は半開きになり、頬は真っ赤になった。ハンカチをくちゃくちゃにしてもいた。しばらくそうしていたけれど気づいたのだろう、恥ずかしそうに膝の上へ置いた。
「あっ、あっ、あの、うっ、う、うれしいです。そ、そんなふうに、お、お、仰って、く、くださるなんて」
「あ?」
僕は彼女を見つめた。こんなに喜ばせるようなこと言ったっけな――と考えていた。篠崎カミラはナイフとフォークを手にし、〈カプレーゼ〉を取り分けはじめた。すこしうつむき、トマトとチーズを小皿にのせていた。そうなると胸が強調された。谷間と黒いブラジャーが目に入ってきた。
「わ、私、こ、こ、子供の頃から、ふ、ふ、普通じゃないって、い、言われてたんです」
「ん? ああ、そうなのか」
僕は胸元から目をそらした。それから、ビールを勢いよく飲んだ。なに考えてんだよ、まったく――と思っていた。
「よ、よく、か、か、からかわれても、い
邊度做facial好、いました。わ、私は、ご、ごく、ふ、普通のことを、い、言ってる、つ、つもりだったんですけど、そ、それが、ま、まわりの人には、わ、わ、わからないみたいで」
取り分けたのを僕の前に置くと篠崎カミラはトマトを口にした。僕は彼女の唇を見ていた。オリーブオイルがついた唇をだ。ホール係が音もなくやってきて料理をサーブした。
「じ、じ、自分にとって、あ、あ、あたりまえの、こ、ことが、ほ、他の人には、ま、ま、まったく、わ、わからないなんて、り、り、理解できなかったんです。わ、私に、み、見えることが、ど、どうして、み、みんなに見えないのか、ふ、ふ、不思議でした。だ、だけど、じゅ、じゅ、十歳の頃に、あ、諦めました。じ、じ、自分と、お、同じように、こ、こ、この世界が、み、見えない人たちと、しゃ、しゃべることなんて、な、ないと、お、思うように、な、なったんです」
Posted at 2018/09/06 11:47:49 | |
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