
信じられないニュースが飛び込んできました。去る10月26日に開催された政府の税制調査会で「走行距離課税」なるものが議論されました。
根拠としては、「2007年度には約4.2兆円だったが、15年後の2022年度には約3.2兆円の見込みとなり、約24%も減少し、今後、さらに減るのは確実」という主張であります。
既に、多くの専門家等が異を唱えるコメントを残していますが、筆者としては、経済的な見地から、「走行距離課税」の前提条件・根拠があまりにも不明確で、自動車保有者・利用者には受け入れる余地のない主張であることを、今回のシリーズ(「走行距離課税の経済学」で、コメントさせて頂きますの、興味がございましたらご高覧頂ければ幸甚です。
1. そもそも「自動車の税金」って何?
1)複雑なる自動車の課税制度の簡素化は、従来から議論されていました。自動車の課税体系を台本無しに語れる人がほぼ皆無ではないかと危惧します。それほど複雑・怪奇な税体系となっています。
課税制度の簡素化に関する議論が進まなかった理由として、簡素化する契機を悪用され、政府が増税してしまう可能性があるという懸念と、今後、さらに普及するのであろう電気自動車に関する税制・税収と支援策とが、その相関関係を含めて充分に議論・把握されていなかったことなどがあるのではないのでしょうか?
もっとも、政府は一方的に増税してきたという訳でもなく、エコカー減税、グリーン化特例、自動税種別割の恒久減税、電気自動車購入に対する補助金等の減税・消費者負担の軽減を進めてきたこと事実であります。ただし、両手で歓迎できるというほどの内容でもありません。
一方、2050年カーボンゼロという世界的な使命に押されて、電気自動車(EV)には、過度な補助金とグリーン化特例およびエコカー減税(環境割、重量税および自動車税の非課税及び減免)が一方的に適用してきた政策の失敗のツケが早くも露見されてしまったという情けない背景があります。
もっとも早く露見されてしまったことは、政府には好都合であり、増税のキッカケを掴んだということかも知れません。(政府は、政策の失敗を何ら顧みることなく、その代償を国民に即押し付ける実に気楽な商売です!)
政府(総務省)の自動車税制の定義は、以下の「車体課税」という狭い範囲で捉えられており、私たち消費者の納税の範囲とは大きく異なっております。
(表1)車体課税の範囲(出所:「説明資料(令和4年10月26日)」総務省)
まずは、消費者の目線から見た自動車課税というものを整理してみる必要があります。
2) 消費者の立場で見た納税の範囲
一方、現在、私たち消費者が納めている自動車関係の諸税は、以下の通りと考えられます。黄色のラインマーカー部分の赤字の税目が、政府(というより総務省)が説明していないものとなります。まさに自動車を購入したら廃車になるまで(まさに、ゆりかごから墓場まで、しゃぶり付かれる)税とともに生きる宿命を負わされています。
総務省と言えば、地方自治体の管轄となりますが、地方税(道府県民税・市町村税)だけに的を絞った議論だけで、地方税の税収が減ったから、地方税を増税しなければならないというのは、あまりにも木を見て森を見ず、縦割り行政の弊害を、ストレートに押し付けてくるのは如何なものでしょうか?
(表2)
繰り返しになりますが、政府は、消費者の目線に立つことなく、自動車税の範囲を「車体課税」と狭い範囲で捉え、ここでの税収が減ったから増税が必要である議論は、あまりにも短絡的過ぎます。
自動車は、もはや3種の神器でもなく、多くの人にとっての生活必需品となっており、移動・輸送手段としての自動車があるからこそ、自動車産業は、備品・素材、販売・整備、物流・交通、金融等と幅広い関連分野を持つ産業として日本の経済や雇用に貢献し、潤滑油としての役割を担い、日本の基幹産業であることに間違いありません。
さらに、日本の自動車は、世界的にみても、品質が高くても低価格であるという、(欧米諸国に達成できなかった)相反する2面性を達成してきた上、自動車メーカーの経営効率も極めて高く世界を代表する有数企業としての地位を築き上げ、その結果、莫大なる法人税を日本政府・地方自治体に納付していることを忘れてはなりません。
(次回に続く)
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Posted at 2022/12/20 15:18:22 | |
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