
日産が「NISMO」をブランド戦略の中心に据え、日産全体の価値を底上げしようとしています。目指すは、トヨタの「GR」やBMWの「M」のような、ブランドの象徴としての確立です。
2025年12月16日、日産と日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)は、NISMOブランドを軸とした新たな価値向上策を発表しました。そこにあるのは、単なるスポーツモデルの強化ではありません。経営再建計画「Re:Nissan」の中核に、あえて『走り』と『情熱』を据えるという、日産の明確な意思表示です。
1. Re:Nissanが求めた「感情に訴える軸」
「NISMOを経営再建の切り札にする」という戦略は、決して万能薬ではありませんが、極めて理にかなっています。近年の日産において、「Re:Nissan」という再生の旗印と「ブランド力」をここまで真っ向から結びつけた例はなく、その本気度は過去最高と言えるでしょう。
現在、日産が直面している最大の課題は「何のためのブランドなのか」というアイデンティティの欠如です。効率化による企業体力の回復は可能でも、それだけでは顧客の心を動かすことはできません。
そこで打ち出されたのが「ハートビートモデル」という概念です。これは台数や利益以上に「感情を動かす力」を最優先した象徴車を指します。日産のDNA(技術、走り、挑戦)を一目で伝え、全ラインナップのハブ(中心)となってブランドの『鼓動』を外に発信する存在です。

R35 GT-R NISMO
2. なぜ今、NISMOが「精神的支柱」なのか?
経営再建フェーズにある日産は、全方位での台数競争が難しく、EVシフトの中で個性が埋没しやすいというリスクを抱えています。だからこそ、数ではなく『象徴』で語られるメーカーへと脱皮する必要があります。
NISMOは、GT-RやフェアレディZ、そしてSUPER GTなどのモータースポーツを通じて築き上げた、世界的な「性能の象徴」です。量産車ブランドが揺らぐ今、これほど貴重な資産はありません。

日産GT-R NISMO GT500
また、NISMOは「高単価・高付加価値」であり、熱狂的なファンがその価値を認めるプレミアムビジネスが成立します。現在のフェーズでは、薄利多売よりも「ブランド価値で稼ぐ」モデルへの転換が合理的です。トヨタがGRで成功を収めたように、日産も「レース直系のチューニング」という自社の強みを、経営の武器として再定義しようとしています。

WRCで活躍しているGRヤリス
3. 「特別枠」から「ブランドの柱」への決断
今回の発表における最大の転換点は、NISMOを一部の愛好家向けの「特別枠」に留めないという決断です。
NMCは、現在グローバルで5車種展開しているNISMOロードカーを倍増させ、2028年までに出荷台数を現在の約10万台から1.5倍へと引き上げる目標を掲げました。さらに海外販売比率も現在の40%から60%へ高める計画です。
これは、NISMOを「限られたファンのための称号」から、「日産ブランドを支える量的な柱」へと昇華させることを意味します。頂点としての高性能を維持しつつ、収益構造をも支える「稼げるブランド」への変貌です。

日産のNISMOラインナップ
4. モータースポーツを「開発」の場へ
日産は「Road to track, track to road」という理念を改めて掲げ、レースで培った技術を市販車へダイレクトに反映させる姿勢を鮮明にしました。
象徴的なのは、NISMOロードカーのプロトタイプを実戦投入し、過酷なレースの現場で熟成させた後に市販化するという手法です。短期的な効率を重視する経営判断とは相反する、時間とコストを要するプロセスですが、あえてこの道を選びました。
「日産は何者なのか」を再定義するためには、モータースポーツを単なる広告宣伝ではなく、ブランドを創り上げる「開発そのもの」と捉え直す必要があったのです。
5. 日産再生の象徴としてのNISMO
さらに、R32〜R34型「スカイラインGT-R」を中心としたレストア・レストモッド事業の拡大も注視すべき点です。世界の自動車レストア市場は2029年までに約45億ドル規模へ成長すると予測されており、過去の名車を正規の技術で蘇らせることは、ブランドの信頼性と物語性を強化する強力な手段となります。

R33、R34 GT-R
電動化や自動運転が進む時代だからこそ、クルマを選ぶ理由は合理性だけでは足りません。「感情価値」こそが最終的な差別化要因になります。
もちろん、ラインナップ拡大による希少性の希薄化というリスクは伴いますが、ピラミッドの頂点となる象徴的モデルと、裾野を支えるロードカー群の両立ができれば、NISMOは「走りの象徴」から「日産再生の象徴」へと進化するでしょう。
「Re:Nissan」の成否は、コスト削減の先にある「ワクワク感」をどれだけ具現化できるかにかかっています。過去・現在・未来を一本の線でつなぐこのNISMO戦略こそが、日産が目指すべき真の再生への道と言えるのではないでしょうか。
Posted at 2026/01/26 18:22:54 | |
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