
直列6気筒に拘るBMWがV型エンジン、特にV8やV10を製造していたのには、直列6気筒とは異なる明確な理由と目的がありました。これは、主に高性能モデル、特に「M」モデルにおいて顕著です。
1. 高出力化と排気量の拡大
BMWがV型エンジンを製造していた最大の理由は、より大きな排気量と高出力を得るためです。
➀直列6気筒の限界
直列6気筒は構造が長くなるため、エンジンの搭載スペースに制約が生じます。特にボンネットの短いスポーツカーや、衝突安全基準が厳しくなるにつれて、この問題は無視できなくなりました。
②V型エンジンの利点
V型エンジンは、同じ気筒数でも直列型より全長を短くできます。これにより、より多くの気筒数(=より大きな排気量)を搭載し、高出力を実現することが可能になります。
2. 高回転化とレスポンスの追求
V型エンジン、特にMモデルに搭載されたV10は、F1の技術をフィードバックした究極の自然吸気エンジンでした。
➀M5(E60型)のV10エンジン
このエンジンは、当時のF1マシンに搭載されていたV10エンジンからインスピレーションを受けて開発されました。高回転・高出力に特化し、最高出力は507psに達しました。V10ならではの独特のサウンドと、モーターのように吹け上がる官能的なフィーリングは、多くのファンを魅了しました。

②M3(E92型)のV8エンジン
M3史上唯一のV8エンジンです。こちらも高回転型自然吸気エンジンとして開発され、高レスポンスと強烈なパワーを両立しました。直列6気筒では達成が難しかった圧倒的なパワーと加速力を、コンパクトなボディに詰め込むために採用されたのです。
3. ブランドイメージとフラッグシップモデル
V8やV10といった多気筒エンジンは、ブランドのフラッグシップモデルや高性能モデルにふさわしい「圧倒的なパワー」と「特別感」を演出する上で不可欠でした。
➀高級モデルへの搭載
7シリーズや5シリーズなどの上級モデルには、より静粛性が高く、余裕のある走りを実現するために、直列6気筒の上位グレードとしてV8エンジンが用意されていました。
②Mモデルの特別な存在感
V10エンジンを搭載したM5/M6は、「F1直系のエンジンを積んだ究極のスポーツセダン/クーペ」という、他のメーカーにはない唯一無二の存在感を確立しました。
近年、BMWのMモデルは再び直列6気筒に回帰しています。その理由は、以下の通りです。
➀環境規制の強化
排気ガス規制や燃費基準の厳格化に伴い、大排気量の自然吸気エンジンは不利になりました。

②ターボ技術の進化
ターボチャージャーの技術が飛躍的に向上したことで、直列6気筒でもV8やV10に匹敵する、あるいはそれ以上の高出力を得られるようになりました。
➂ダウンサイジング
エンジンをコンパクトにすることで、車体の軽量化や重量配分の最適化を図り、ハンドリング性能を向上させることができます。
このように、BMWは「走る歓び」を追求するため、その時代の技術や環境に合わせて最適なエンジンを選択してきました。V8やV10の製造は、直列6気筒の伝統から外れた一時的なものではなく、あくまでも「究極のパフォーマンス」を追求した結果だったと言えます。
Posted at 2025/09/29 20:14:17 | |
トラックバック(0)