
BMWのMT車で最大トルクが550Nmに設定されている理由には、いくつかの要因が複合的に絡んでいます。
主な理由は以下の通りです。
1. トランスミッションのトルク耐量
最も直接的な理由として、マニュアルトランスミッション(MT)自体のトルク耐量が挙げられます。550Nmというトルクは、BMWが採用しているMT(例えばZF製の6速MTなど)が、信頼性、耐久性、そしてコストとのバランスを考慮して設計された許容トルクの範囲内であると考えられます。
これ以上のトルクを許容するためには、より大型で頑丈なギアやクラッチ、シャフトなどが必要となり、トランスミッション自体の重量増加、コスト上昇、そしてシフトフィールの悪化につながる可能性があります。BMWは、高トルクを扱いながらも、ドライバビリティや信頼性を確保するための最適なバランスを追求していると言えます。
2. ドライバビリティと操作性の確保
大トルクのエンジンにMTを組み合わせる場合、クラッチやシフト操作に大きな負荷がかかります。
➀クラッチの重さ
大トルクを伝えるためには、より強力なクラッチが必要になります。その結果、クラッチペダルが非常に重くなり、日常的な運転での快適性が損なわれる可能性があります。
②シフトフィールの悪化
トランスミッション内部の各部品にかかる負荷が大きくなると、シフト操作が重くなったり、スムーズさが失われたりすることがあります。
➂扱いにくさ
大トルクのMT車は、ドライバーの繊細なクラッチワークやシフトチェンジが求められます。特に低速域では、急激なトルクの立ち上がりをコントロールするのが難しくなり、ギクシャクした走りになりがちです。
BMWは、Mモデルなどのスポーツカーにおいても、単に速さだけでなく、「駆けぬける歓び」というブランド哲学に基づき、ドライバーがコントロールしやすい、気持ちの良いドライビングフィールを重視しています。そのため、無制限にトルクを増やすのではなく、MTとの組み合わせで最大限に性能を発揮しつつも、扱いやすさを維持できる範囲でトルクを設定していると考えられます。
3. 車両ラインナップ全体での役割分担
BMWは、同じモデルでもMTとAT(多くはMモデルで採用されているDCTやトルクコンバーター式AT)の両方を設定することがあります。ATは一般的にMTよりも大トルクを許容できる構造になっており、例えばBMW M3/M4コンペティションのATモデルは、MTモデルよりも高いトルク(650Nm)を発生させます。
このように、BMWはMT車を「ドライバーが積極的に操る楽しさ」を追求するモデル、AT車を「圧倒的なパフォーマンスと快適性を両立する」モデルとして位置づけ、それぞれの役割を明確にしていると考えられます。これにより、MT車の持つ独特の魅力を維持しつつ、より高出力・高トルクを求めるユーザーにはATモデルという選択肢を提供しています。
BMWのMT車の最大トルクが550Nmに設定されているのは、単なるコスト重視やエンジンの限界ではなく、トランスミッション自体の物理的な許容トルクと、ドライバビリティ、快適性、そして車両ラインナップ全体での役割分担といった複数の要因を総合的に考慮した結果であると言えます。
複数の要因を総合的に考えて、「駆け抜ける歓び」を重視しているBMWですが、需要の低下が著しいのか、MTを廃止する方向のようです。残念です。
Posted at 2025/09/23 11:37:16 | |
トラックバック(0)