
松本市における
屈指の
銘店といわれる
「そば処 浅田」
かつて松本市に住んでいた頃は歩いて5分の場所だったにもかかわらず訪れる機会がなかなか作れませんでした。
中信(長野県中部)を去ることが決まりその日まであと3週間となった日、遅ればせながらチャンスがやってきました。
「前評判のある店は心してかかれ」との言葉もありますが、この店は
随一との声もかかる店、これは楽しみです。

12時過ぎ、ちょうど一台分駐車場が空いており待つことなく入店。

木製のテーブルとイスが並ぶ心地よい広さの店内。

品書きはいたって
シンプル、この日は幸い限定の十割も残っていました。
二八の「ざるそば」と「十割」を注文。
蕎麦汁がやってきましたた。
恒例の蕎麦汁の
味見
香りを試した瞬間に上質な節をふんだんに使っていることが分かりました。
一口、汁を口に含むと期待通り節系の香りが鮮烈に鼻腔に広がり、
これまた甘さを控えた「かえし」との相性もOK。
節の薫製臭までもかすかに感ずる程ぜいたくに使ってます。
これは期待出来そう♪
二八の「ざる」が来ました。
薄い緑がかった星の少ない滑らかな細切りの蕎麦は「翁」系の証、そうこの主人も高橋名人のお弟子さん。数本口に含むと、これが実に滑らかそして「翁」系のプリプリとした弾力のある食感、蕎麦の香りの鮮烈さ、するっと咽を滑る通りの良さ、すべてに満足する出来!

さて蕎麦汁に合わせてみると
絶妙な相性、「きりっと」しまった蕎麦には甘味を殺した蕎麦汁に実に合っています。
蕎麦が蕎麦汁の味を見事に展開する一方でそのダシとかえしの醸し出す味の広がりは小気味よく歯頚に伝わる蕎麦の感触と融合し、一体となって咽頭から食道に入りすっきり胃に収まっていきます。
文句なく美味い蕎麦!!
蕎麦も蕎麦汁も美味くその相性も抜群に良い。またワサビ、ネギの薬味が巧みに味を引き立てます。辛味大根もしかり、上品な蕎麦汁に華を添えています。

二八が終わるのを見計らって
「十割」が来ました。
見かけは二八とほとんど変わらりませんがよく見ると表面にわずかにざらつきがあります。一口箸にとって含むと二八よりも明らかに蕎麦の香りが強い、歯ごたえは二八よりやや劣るがざっくりとしたのど越しは二八にない豪快さ!

バランスの二八に対し蕎麦そのものの野趣あふれる特性が生き生きと存在感を主張する十割、二種類とも持てる特徴を十二分に発揮していました。両方を食べて違いを楽しむのも面白い。
ゆで汁もとろとろ系、蕎麦汁を延ばしていただくも良し、香り高く滋味にあふれているためそれだけでも十分に美味い。
噂通りの銘店、選び抜いた素材を上品に仕上げていました。
ふと、
ある店が思い浮かびました。
3種類の蕎麦を打ち分けそれぞれの蕎麦が
独自の持ち味を誇るそば打ちの巧み
「井川城」
二八と十割そして大名(更級系)がそれぞれの個性を
「これでもか!」と主張し蕎麦の奥深さを物語る匠の御座す店。これは記憶が確かな内に食べ比べなければなりません。

十数分で住宅街に静に佇む「井川城」に到着。
十割、二八、更級、そして温玉そばを注文。
先ず出てきた蕎麦汁は辛口、ダシの香りは「浅田」に及びません。かえしの醤油香もやや強め。香りに反して甘味は良く抑えてあり、口に含んでからやや遅れてうま味とともに広がります。
「十割」が来ました。
細切りで星が目立つ灰色のやや色の濃い麺。塩を一つまみまぶして蕎麦のみを口に含んでみます、
「おっ、蕎麦の香りが強い」
その芳醇さは「浅田」を
越えます。コシは浅田よりやや弱いが決して悪くない、その証拠にざっくりとした重厚なのどごしはこちらが上。
なめらかさが前景に立つ上品な物腰の浅田に比較しこちらの麺は野趣にあふれ気取らない素朴さがあります。そう「
寿々喜」に近い印象。

次に一番粉のみの
「大名そば」
このプリプリとした歯ごたえとほのかに感ずる甘味はもはや私にとって「更級系」の
標準です。
過日訪れたある店の更級は歯ごたえもなく甘さも曖昧。3種類の蕎麦が出てきましたが色が違う以外に個性を感ずることが出来ませんでした。厳しい言い方をすれば全てが凡庸。

最後は
「二八」
十割と比較すると蕎麦の香りは鮮烈とはいえませんが十分過ぎるほど、さらに更級のような弾力性のある歯ごたえが特徴でのど越しは滑らかになる。
「浅田」が素材を究め上品で洗練された美味しさならば、井川城は飾らない直球勝負の旨さ。それぞれに一線を越えた技術があり、方向性は違えど食べて満足感を得られることに何ら違いはありません。
「温玉そば」
「かけ」にしても蕎麦の歯ごたえはかわりません。薄味の汁にからんで蕎麦の香りとほどよいコシが良い心地。温玉をくずして
半熟の黄身を蕎麦に絡めると味に
奥行きが出ます。
三つ葉の苦さと
柚子皮の香りも脇を巧みに固めてくれます。
洗練された蕎麦に
気取らない蕎麦、性質は違えども
① 蕎麦が旨く
② 蕎麦汁が美味しく
③ 両者の相性が抜群ならば
完成形としての「蕎麦」という食べ物は
十分な満足感を食べた者に感じさせてくれます。
さらに本当に上手く打たれた蕎麦は十割であろうと二八であろうと一番粉であろうと挽きぐるみであろうと、持てる旨味を十分にアピールします。こちらが意識せずとも打たれた蕎麦自身が雄弁に物語ります。従って見た目が違っても味に差異がない蕎麦は、蕎麦が本来持っているpotentialを引き出し切れていないのでしょう。
こうして
至高の蕎麦屋を二軒食べ歩く幸せな体験をすることができました♪
帰り道、どこかで見たことのある
TT
赤の外装に
黄色のレザーはやはり知人のクルマ
Two shotをパチリ!

美味しかった蕎麦を思いつつ晩酌は
「夜明け前」(長野)と「賀茂金秀」(広島)ともに純米吟醸
「夜明け前」は華やかな酸味が特徴
「賀茂金秀」はさらっとした上品な飲み口ながら次第にコクが広がる不思議な酒
(日本酒研究会広島担当 談)
いずれも
「そば前」にもってこいですが、
「そば後」として自宅でいただきました^^;
さて、来週は北へお引っ越し。
信州蕎麦紀行も今までの中南信(長野県中部~南部)から東北信(北部~頭部)に場所を移す予定です。
しばらくアップが滞るかもしれませんが、お許しをm(_ _)m
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Posted at
2008/03/19 18:03:08