※このブログはとってもなげぇのでご注意ください()
ざっくり要約すると、
1. オイル粘度高いと高回転で油圧下がる
2. 右コーナーで油圧下がる
ということを書いてます。
以下本文です。
FA20はメタル(コンロッドベアリング)が摩耗している例がちょいちょいあるようですが、僕はそんなトラブルで高価なエンジンを壊したくないので、なぜメタルが摩耗するのかということを、しばらく考察してきました。
実際にこのエンジンがメタルの摩耗を引き起こす傾向が高いとしても、その真因はもちろんメーカーのエンジニアくらいにしかわからないことなのですが、考察の結果として、メタルの摩耗を引き起こす要因となりそうなこのエンジンの特徴を2つシェアさせていただこうと思います。
※ここで書く特徴がただちにエンジントラブルを招く、というようなことを言いたいわけではないです。
はじめに…
以降、私が測定した油圧について言及する箇所がありますが、そのすべては、メインギャラリー手前にセンサーを設置して測定した油圧です。
下の画像の赤丸のところです。
一般的にはオイルフィルター下に設置するサンドイッチブロックにて測定することが多いと思いますが、そこではありません。オイルフィルターを通って、さらにヘッド側への流路と分かれたあとの油圧ということになります。
EJ系ではメインギャラリーに給油したあとにヘッド側に給油しにいく仕組みになっていますが、FA20は上の画像の青矢印で示す通り、メインギャラリーとヘッドに並列で給油します。(なので厳密にいえば「メインギャラリー」という表現は正しくないかもしれませんね。)
なお黄色矢印は、オイルポンプでくみ上げられたオイルがオイルフィルターに至るまでの流路を示しています。
それでは特徴の説明に入ります。
1. オイル粘度が高い&高回転で回すという条件下での油圧低下
まず1つ目の特徴です。
FA20は、オイルの粘度が高いときに、高回転域で油圧が下がる傾向が見られます。
文字では表現しづらいので、動画を作りました。こちらです。
VIDEO
動画では、粘度グレードが0w-20、かつ油温が120℃以上という条件を満たした場合のみその油圧低下が見られなかったと書いていますが、
正味の粘度に関しては、実際には動粘度や粘度指数なども考慮する必要があるので、粘度グレードはあくまで目安となります。
しかしながら、メーカーが想定するよりも粘度が高いオイルを使う場合や、油温をエンジンの運用に見合わない温度に下げるとこうなるというわけです。
オイル粘度が高いときには油圧が全体的に高くなり、粘度が低いときは油圧は低くなる…となるのは当然ですが、着目すべきはエンジン回転数の上下に対する油圧の出かたです。
一般的には、油圧がレブリミットまで右肩上がりないしは中回転あたりから一定になると思われます。中回転域から高回転域にかけて下がってしまう動作は、少なくとも給油の観点では理想的ではないのではという不思議な感じがあります。
最近のエンジンは省燃費性能を追求するために低粘度エンジンオイルが使用されていますが、粘度が低いとオイルは潤滑部から流れ落ちやすくなりますので、低粘度オイルを使用するエンジンではその漏れを見越してオイルをたくさん流すべく、オイルポンプの吐出量が従来のエンジンよりも多い傾向があるようです。
スバルの水平対向エンジンに関して言えば、昔から他社のエンジンと比べるとたくさんのオイルを流す設計になっていたようですが、それに最近の低粘度オイル仕様が重なったことでとんでもない流量になっているとか。
参考までに、ターボ用のFA20(FA20DIT)の情報ですが、EJ25で既にクレイジーな流量だったのに、FA20DITはそれよりさらに25%も流量が多いという情報がありました。
Crazy specs for Subaru FA20!
FA20系のオイルポンプはパーツリスト上ではチェーンカバーと一体化しており独立していないため、FA20DITとFA20(=ノンターボのFA20DI)のオイルポンプが同じかどうかはわかりませんでしたが、おそらくFA20も同様に高流量を流すエンジンなのではとみています。ターボがないぶん要求される油量は減るとは思いますが。
こうした事情があり、最近の省燃費エンジンでは、オイルポンプにおいてキャビテーションの発生をある程度許容しているといった話があります。
キャビテーションが起こるとオイルポンプの2次側へオイルを十分に吐けなくなり、オイルギャラリー内の油圧が低下していきます。
キャビテーションの原因は、主にはオイルポンプの吸入抵抗が大きすぎることです。吸入抵抗を増大させる要因としては、高すぎるオイル粘度や、オイルストレーナーの管径が細かったり曲げが大きかったりすることが挙げられます。
FA20で高粘度かつ高回転で油圧が下がる現象が確認されたのも、キャビテーションの発生によるものであるという仮説は十分考えられると思います。
オイルストレーナーを純正より大径かつ真っ直ぐな形状のものに変えて吸入抵抗を抑えることで例の油圧低下が軽減されたのは、その裏付けとなるでしょう。
パーツレビュー:Killer B Mortorsport Ultimate FA20 BRZ/FR-S Oil Pickup
上記のパーツレビューにも記載しましたが、純正のオイルストレーナーは、高回転までエンジンを回す使い方をする観点からすると、吸入抵抗の観点でゆとりのない設計になっているようです。
しかしそれはおそらく、アイドリングや普段使いなど低回転で回す条件においては、内径をできる限り細くしたほうがオイルポンプを駆動するのに必要なエンジントルク(消費ガス量)が少なくて済むからではないかと思います。
上記した「最近の省燃費エンジンでは、オイルポンプにおいてキャビテーションの発生をある程度許容している」という話は、高回転での油圧確保と燃費性能を両立しようとした結果、やむなくそうなっているということであるように思います。
動画では、高回転で油圧を下げる可能性のある要因としてもう一つ、
「オイルポンプのリリーフバルブが圧力を逃がしている」
を挙げていましたが、オイルポンプが圧力を逃がすのはせいぜい余分な量を逃がす(高回転のほうが中回転よりも油圧が低くなるほどは逃がさない)程度のはずですので、今ではこれが原因となる可能性は低いと考えています。
動画でそれを挙げたのは、FA20のオイルポンプのサプライヤーさんが、高回転域で油圧を落とす特許をもっているのを見つけていたためでした。
2. 右コーナーでの油圧低下
サーキット走行において、右コーナーではヘアピンだろうが高速コーナーだろうが必ず油圧が1/3程度下がります。
エアロパーツなしで、DIREZZA ZⅢ 225サイズレベルのグリップのタイヤで走っていてもです。
こちらが参考動画です。
VIDEO
油温が120℃越えの状況で、まる1周ゆっくりとクーリングラップをした後に加速しながらコーナーを立ち上がっていく一部始終なのですが、動画の最後のほう、コーナーの立ち上がりでおおむね1/3くらい油圧が下がっているのが確認できます。
真ん中、ダッシュボードの上に映っているのが油圧計です。
画質がアレで、視聴環境によっては油圧計がよく見えないようですので、スクショを貼っておきます。
コーナー進入前、横Gがかかる前
コーナー進入後、横Gがかかった後
コーナー進入前にだいたい340kPaほど油圧がかかっていたのが、コーナー進入後には240kPaあたりまで下がっています。
このような現象が確認される際に真っ先に疑われることは、オイルパンのなかでオイルストレーナーが空吸いを起こしていることだと思いますが、私としてはそうではないと考えています。
理由は次の2つです。
1. 動画のように、オイルパンに十分なオイル量があり(あるはずで)、オイルパンバッフルがついているという条件で空吸いが起こるほど油面が下がる可能性は考えにくいため。
動画について補足すると、もちろんエンジンオイルは規定量がしっかり入っている状態で、オイル周りの仕様等は次の通りでした。
エンジンオイル油種:レプレイアードゼロ0w-30
オイルフィルター :スバル純正指定品
オイルクーラー :なし
オイルパンバッフル:あり(TOMEI)
油温 :120℃越え
2. 油圧が0にならないため。
もし空吸いを起こしているなら油圧が0になるのではないかと想像しますが、そこまで下がることはありません。
ちなみに動画の例の瞬間は、まだ横Gのかかりが甘いので、ガクガクと油圧計の針が動いていて油圧があらがっているのが見て取れるのですが(ディスプレイによっては見えないかもしれません)、アタックラップ中は針がそのように振れることはなく、1/3程度下がったところでピターっと貼り付くようになります。
じゃあ何が原因なのか?というと、はっきりとしたことは思い当たらないものの、油路のどこかに、例えば並列に給油しているヘッド(キャビンから見て左側ヘッド)のほうとかにオイルが偏っている可能性が考えられるかもしれません。
これを検証するのは難しいので確かなことはわかりませんが、オイルフィルターを外して目視することができる左側ヘッドとメインジャーナルのオイル分岐ポイントだけ見ても、各々の流路への分配量のバランスを制御するバルブなどは設けられていませんので、ジャーナル各所の油圧は横Gで変わってしまうと思われます。
なおこの油圧低下は左コーナーでは全く発生しません。謎です。
以上、2つの特徴でした。
以下は余談です。
1と2が重なる条件はそれだけ油圧低下も大きくなりますので、注意を払うといいと思います。スバルもさすがにそういう条件は想定してエンジンを設計していると思いますが。
エンジンを保護するためにオイルの粘度グレードを上げたうえ、さらにオイルクーラーでオイルを冷却するという手入れは、却ってエンジンによくない影響を及ぼす可能性があります。
特に、メタルとコンロッドジャーナルの隙間は非常に薄く、コンロッドジャーナルの直径を観覧車サイズとした場合、その隙間は蟻1匹程度しかないそうです。
これは私の想像になってしまいますが、そんな狭い隙間に流れるオイルは、油種の選定や油温管理は非常にシビアなのではないかと。粘度グレードを上げるのと、オイルクーラーを装着するのはどちらか一方のみを採用するくらいにしておくのがいいかもしれません。
また、オイルクーラーを設置する場合、その圧損によって、エンジンギャラリーに供給されるオイルの流量が少なくなることや油圧が低下することを考慮する必要があります。
特に、このエンジンの給油設計を考慮した設計になっていない、要するにオイル供給のボトルネックになるようなオイルクーラーには注意です。
オイルクーラーを取り付ける場合は、クーラーシステムの2次側(出口側)の油圧をbefore/afterで測定し、どれくらい油圧が下がったかチェックすることをオススメします。これについてはオイルフィルターを社外品に変えるときも同じです。
どれくらいの油圧低下ならセーフなのかはわかりませんが、数十%などあからさまに低下させるような代物は使うのを止めるべきでしょう。
参考までに、私が調べたところでは、非常に大雑把な、特定のエンジン型式に限った話ではない一般論としての話のなかでの言及ではありましたが、適正な設計のオイルクーラーによる油圧の低下は2~3%に留まるという情報がありました。
私がとある汎用の(=別の車種用に作られたものを流用して86BRZ用として販売している)オイルクーラーをテストしたときは、油圧のピークが出るエンジン回転数が下がり、最大で10%以上の油圧低下があったので即ポイとなりました。
これが実際のデータです。
ちなみに、これは油温が105℃のときの比較データですが、サーキット走行中など油温が130℃あたりになるような条件(オイルの流動性が高まる条件)であれば、このオイルクーラーによる圧損は相対的にもっと大きくなっている可能性がありそうでした。
なぜかというと、上記の105℃での実験結果を受けて、オイルクーラー内での摩擦損失を低減しようとして使用するオイルの粘度グレードを下げて再度実験してみたところ、予想に反してオイルクーラーによる油圧低下の度合いが数%大きくなる結果となったからです。
最後に、上記のような検証を自分でやりたいという方がもしかするといらっしゃるかもしれませんので、そういった方々向けに検証のやり方に関してアドバイスを残させていただきます。
エンジンの油圧は油温と横Gの大きさでだいぶ変わってしまうので、その2点をきっちり同じ条件にして測定する必要があります。逆にいうとその2点を抑えればデータのバラつきはほとんど出ません。
油温をモニターしながら、ダイナパックやローラーを使って or 滑走路みたいな長いストレートでロギングするとイイです。