(2022/10/07 最下部に追記あり)
新型GR86/BRZのエンジン、FA24がブローしたという話がちょいちょいとSNS上に出てきているように思います。
ショップやDIY屋さんがオイルパンを開けてみたところ、オイルストレーナーのフィルターに液体ガスケットの欠片が詰まっている個体があるようで。
その情報から、
「液体ガスケットの欠片がオイルストレーナーのフィルターに詰まっていることがブローの原因である」
とする見立てが注目されているようです。
ただ私はその見立てを懐疑的にみていて、それに対して思うこと、共有したいことを書きたいと思います。
FA24オイルストレーナーに見られる工夫
まず、液ガスの欠片がオイルストレーナーのフィルターに絡まっている状態というのは、初代86BRZに搭載されているFA20でも一部では噂になる程度には知られていることでした。
特に北米では、A~B型のバルブスプリングのリコール作業後にエンジンブローが起こった事例が知られていて、オーナーサイドにおいては、
「不慣れなエンジニアが液ガスをうまく塗れずに組立て作業を行ったことで、大量の液ガスの欠片がストレーナーのフィルターに絡まってエンジンブローを起こした」
という見立てに一定のコンセンサスがあったようです。
ブローしたエンジンについていたオイルストレーナーに、ひじきのような液ガスがたくさんついている写真も出回っていました。
(日本ではあまりそう言った話が出てこなかったのは、全国のディーラーの整備士の方々が丁寧に作業されたからだと思います。)
訴訟大国という地域柄、ブローしたオーナーによるディーラーに対する訴訟もチラついていたので、メーカーとしてもそういったトラブルがあったことは把握しているだろうと思います。
実例として把握していなくても、少なくとも潜在的なリスクとして、組立ての環境によっては「液ガス詰まり」が起こりうることは当然予見しているのではないかと。
で、FA24のオイルストレーナーの構造ですが、すでに何人かの方が言及している通り、フィルターは1面ではなく多面構造になっています。

(上の画像は、YoutubeチャンネルのBTR Jastinに投稿されている「
Q&A From The GR86 RTV Silicone and Oil Pickup Issues」よりキャプチャさせていただきました。)
FA20も含め、エンジンから取り外されたオイルストレーナーの状態を写した写真は何枚も見てきましたが、側面のフィルターまで覆ってしまうほど液ガスの欠片が出ることはないと思います。
万が一それだけ多くの液ガスがあった場合でも、そのほとんどはフィルターに絡めず、初回のエンジンオイル交換時にドレンホールから排出されるかと。
そのうえでオイルの流れを考慮すれば、液ガスが詰まるのは上面の1面のみになるはずで、そうであれば側面のフィルター部分からオイルが吸えますね。
というわけで、個人的には、FA24のオイルストレーナーの構造をみて
「FA20を踏まえて改善されているのは明らか…だよな」
「ある程度詰まってもエンジンに問題が起こらないように設計しているだろうな」
という風に感じました。
もしエンジンブローを起こすとしたら、ワンメイクの認定部品としてオイルパンバッフルプレートが追加されたことから推測するに、オイル空吸いからのメタル摩耗ではないでしょうかね。
もしガスケットが悪さをするなら、どんな現象が確認できるか?
問題にならないと思うとはいっても、フィルター上面に液ガスが存在している状態は、オイルポンプに吸い込まれていくオイルの流れを阻むものではあるので、そこでいくらか圧力損失が発生しているはずだとは思います。
それは非常に小さいかもしれませんし、逆かもしれません。実際に検証してみないとわかりませんね。
もし詰まった液ガスが問題になるレベルであれば、それは主に高回転域で大きな油圧低下として現れるはずです。
なぜかというと、オイルポンプの吸入抵抗が高くなりすぎるとキャビテーションが発生し、オイルポンプの回転数の上昇に反して油圧が下がっていくからです。
実際にその検証をしてみたい場合は、一般的な油圧計だけでもやれます。
手順はおおまかに下記①~④でしょうかね。
①エンジンオイルを抜く。検証にあたって過不足のない量のガスケットの欠片を用意し、それをドレンホールからオイルパンに投入する(入れすぎると側面のフィルターまで詰まってブローするので、量は要検討)。そしてエンジンオイルを戻す。
②3↑速ホールドで低回転からレブリミットまで回し、各回転数の油圧をログする。
⑤エンジンオイル を抜いてオイルパンを外し、オイルストレーナーその他を清掃してガスケットの欠片を除去する。
④エンジンオイルを戻し、もう一度、油圧を測定する。
これで②と④の油圧データを比較すれば、液ガス詰まりの影響がどんなもんか確認できるでしょう。
もし下図(実例ではなく、あくまで想像したイメージ図です)のような結果になったら、吸入抵抗が大きくなりすぎている可能性を疑っていいと思います。
つまり、②の油圧に、④の油圧と比較して下記のような特徴がみられる場合です。
・全体的に油圧が低い
・油圧のピークが出る回転数が低い
・高回転まで回すにつれて油圧が下がっていく
測定にあたっては、以下3点を守れば、バラツキの少ない綺麗なデータが取れるだろうと思います。
(というか、少なくともこれが揃っていないと意味のある検証にならないと思います。)
・同じエンジンオイルを使う
・各回とも、油温を揃えて測定する
・横Gがかからない状況で測定する
油温に対する油圧の変動は意外と大きいので、油温は1℃単位で揃えます。無論、暖気して作動温度まで暖めます。
また、油圧センサーの設置場所によって変わるかとは思いますが、油圧は横Gがちょっとでもかかると変動してしまうので、横Gの排除はきっちりやらないと意味のあるデータが取れないでしょう。
①でガスケットの欠片を投入する量を見誤った場合、多すぎれば本当にブローする可能性もありますし、逆に足りないと検証になりません。
実行される場合は自己責任でお願いします。
まあそこまでやったとしても、結局、エンジンが要求するオイル流量や油圧はメーカーのエンジニア以外には分かりえないので、どんな結果が出たところで自己満にしかならないんですけどね。。。(それを言っちゃ~おしめぇよ)
2022/10/07追記:
BTR JustinがGR86のエンジンオイルの分析結果を共有してくれました。
以下に要約しておきます。
・分析したオイルはオートクロスと大型サーキットを走ったもの(何度もレブリミットに当てたととも)
・そのオイルを採取したあとにオイルパンを開けたら例の液ガスがあった
・オイル分析結果としては悪い摩耗の兆候はなかった
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2022/09/06 22:13:35