会社帰り、妻の買い物に付き合い、いつもとは別の駅で降りた。
学生時代にはよく来た街も、社会人になるとあまり来なくなってしまう。
久しぶりに来ると、そこかしこの建物やお店はガラリと変わっている。
ここも昔は東急ハンズだったなぁ・・・そんな昔を思い出しながら、妻の買い物が終わるのを待っている。
買い物も終わり、夕食とする。
たまの外食も悪くない。
特に食べたいものが無いので、ふらふらと歩きながらどこか美味しそうなお店は無いか探してみる。
あぁ、あの角のゲームセンターは今は雑貨屋になったんだ。
あそこのパソコンショップは無くなったんだな。
アレ、あそこの自転車屋はまだあるんだ。
社会人になって十数年、そりゃぁ街並みも変わるはずだ・・・。
「ねぇ、あそこのビルに行ってみようか?」
妻が言ったのは、この街に古くからあるショッピングビルだ。
それほど大きなビルではないが、地下にはちょっとしたレストラン街もある。
学生の頃、バイト先の友達に連れられて美味しいお好み焼きを食べた思い出がある。
「いいよ。」
その高いビル・・・と言ってもたかだか4階建てのビルなのだが・・・は今も変わらず残っている。
ビルの入り口のフロア案内でレストラン街のお店に目を通す。
『アレ?!』
私は広島風お好み焼き屋と書かれたお店に目が留まった。
『まさか・・・』
私が訪れたのは、かれこれ十数年も前の話。
『まだ、残っているのか?』
私は迷うことなく、地下の階段を降りていった。
人の記憶と言うのは曖昧なものだ。
お店に来ても、かつて自分が来たお店だったのか、ハッキリとは思い出せない。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「お好きな席へどうぞ。」
席に座って、店内を見渡す。
学生時代に訪れたその店は、確かにこんな感じだった気がする。
しかし、そんな昔に訪れた店が、こんなにも目まぐるしく変わる街で、今もそのまま残っているというのは、正直、信じ難かった。
ふと、お店の中の中央の鉄板に目が留まった。
そうだ、確かにこんなだった。
「お冷をどうぞ」
お水を持ってきてくれた店員の女性は、私の母より少し若いぐらいの年配の女性だった。
私は思い切って聞いてみた。
「このお店って、結構、昔から在りますよね?」
「ハイ、24年続いております。」
「やっぱり!」僕は思わず大きな声をだしてしまった。
二言三言、その店員さんと言葉を交わした後、メニューに目を通した。
僕はスペシャルにそばを入れたものを。
妻はそれに更にトッピングしたものを注文した。
そして、普段はあまり飲まないのだが、この日はなんだか嬉しくて生ビールを頼んだ。
僕は古い友人に会ったみたいに、急に嬉しくなってしまった。
少しすると、お店のご主人が僕達が頼んだのを鉄板の上で焼き始める。
ご主人は、私の父と同じぐらいか、下手したらそれ以上の年配の方である。
「しまった!ダブルにすれば良かったな。」
「なぁに、ダブルって?」
「ダブルっていうのは、お好み焼きを焼くときの生地で使う玉子を二つにしてもらうことなんだよ。」
そんなことを教えてくれたのは、学生時代、僕をここへ初めて連れ来てくれた広島出身の友達だ。
思い返してみると、あの時も友人が言われるがまま、スペシャルにそばを入れて注文した記憶がある。
ようやく、頼んだお好み焼きが出てきた。
一口箸をつけてみる。
『うん、美味しい!』
『ああ、この味だ』十数年前に食べたお好み焼きは正にこの味だ。
僕は昔のことを思い出しながら、その美味しいお好み焼きをほおばった。
少しすると、別のお客がやってきて、再び、店のご主人が焼き始める。
ああ、あの人はああして24年、いろんな人のお好み焼きを焼いてきたんだなぁ・・・。
そんなことを考えていると、なんだか感慨深いものがある。
食事を終え、会計へ。
先ほどの年配の女性が対応してくれる。
支払いは携帯電話によるiDを使った。
今でこそ、当たり前のような支払方法だが、あの当時は携帯電話すらろくに無かった。
「とても美味しかったです。計算してみたら僕がここに来たのって、もう1○年前なんですよ。でも、あの頃と味もお店も変わってなくって本当、良かったです。これからも頑張ってください!」
「そうですか。ありがとうございます。また、是非いらしてください。」
気づけば、お店のご主人もすぐ側に居て、笑顔で僕を見送ってくれた。
僕はそのお二人にお辞儀をし、お店を後にした。
外に出ると、昔は無かった大きな駅ビルの照明がなんだか綺麗だった。
Posted at 2011/09/30 10:57:19 | |
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