
甘い食べ物が苦手なジム爺の家人は、特別な日にはアルコール飲料をくれる。
ヱビスビール党だが、ウイスキーならばシングルモルトのストレートに限ると拘る。
だが、竹林の香りが爽やかな「山崎」も入手困難、スモーキーな味わいの「ラフロイグ」や華やかさ随一の「マッカラン」もいつの間にか高級酒になってしまった一方で、持病を抱えた昨年からは1日のアルコール摂取量に制限がかかったことも手伝って少し事情が変わってきた。
還暦過ぎまで全く服薬の習慣生活をしたことがないジム爺は、薬と言えば年甲斐もなくはしゃぎ過ぎた結果の負傷に使う鎮痛剤か、不器用さが招く工作で受傷した手指に貼る絆創膏と初冬のインフルエンザワクチン接種にお世話になる程度であった。
それが今は3度の食時後と就寝前に、朝は5種類、1日7種類、9つの薬を飲み分けるという、本人は薬害を起こしやしないのかと少し気にする西洋医学にお世話にならなければ、体中の何処に何時襲ってくるかわからない激痛を抑制することができない病にある。
認知症でも患っていれば、介護ヘルパーさんがポケットのついた週刊カレンダーに朝昼晩夜に薬を分けて入れてくれないとカタカナで書かれた薬は紛らわしくて誤飲してしまうだろうことが容易に想像できる。
幸いまだそこまで老化は進行してはおらず服薬を間違ったり忘れたりすることはないので、服薬が生活の中心に見えるような壁掛けはご勘弁願うが、これだけの多種類の薬を必要量その都度各薬の袋からゴソゴソと取り出していると、無駄に時間がかかってしまって髪型と気の短いジム爺は無性にイライラしてくる。
鋏を駆使することが困難な激しい痛みが手指に出る時もあるので、薬包は必要量に予め切り分けているのだが、こうすると薬袋の底に集まって指が届かず、かといって袋を横向きにしてトントンと誘導しても出したい薬とその量がうまいことに出て来ないもので、結局は袋を逆さまにしてガサーッとデスク上にばら撒いて薬包を摘みあげることになってしまう。
そうすると首尾よくデスク上に全ての薬包が留まってくれればよいのだが、表裏別形で曲線も帯びた滑りやすい石油化学製品でできた薬包は厄介者で、僅かな運動エネルギーを与えただけで全く想像をし得ない挙動をしてデスクから滑り落ちたりする。
薬包が床に落ちてしまったりすると服薬如きでやれやれと情けない思いになるもので、挙句の果てには1gにも満たない軽量品を拾い上げるために、年寄り臭くヨイショと掛け声を発して腰を曲げてデスクの下に潜りこむ無様な姿を晒すこともしばしば起こるのである。
こんな所業を繰り返しているジム爺に家人が業を煮やしたのか、今年のバレンタインデーのプレゼントは画像の品物である。
何ともリアルなカプセルや薬瓶やシリンジと絆創膏を模したカルディで販売されている缶入りチョコレートである。主体である中身のチョコレートは、言わずもがな家人や訪問者が食べることになるのだと思うのである。
有難いのは外側の薬などの絵の描かれた青や緑のプリント缶である。
ジム爺が服薬している粒剤が入っている細長いスティック状の薬包は絆創膏の缶に整然と納まり、その他のカプセル剤や粒剤は口の広い丸缶に入って、非常に取り出しやすくなった。
毎食後と就寝前にパロディ感覚でチョコレートの菓子箱から薬を出して服薬できることは意外な程にストレスから解放してくれる。
バレンタインデーにまで薬を貰うとは想像しなかったが、頬が緩む2月14日であった。
Posted at 2022/02/15 08:10:43 | |
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