近代の社会病理を社会の加速に求めるドイツの著名な社会学者イェーナ大学ハルトムート・ローザ教授の著作。私は隠居した身なので時間に追われる生活からは抜け出したが、現役時代は世の中のテンポがどんどん速くなっている事を感じていた。このような社会の加速に息苦しさを感じている人も多いのではなかろうか。実際、近年のうつ病の増加はこの加速に一因があるとも言われている。
社会の加速は、技術的加速→社会変動の加速→生活テンポの加速と言った加速の循環によって強化されてきた。技術的加速によって時間が短縮されても、余った時間は他の事に費やされて時間が不足する。そして、さらに加速する技術が求められていく。
社会の加速は大昔から進んではいるのだが、産業革命の頃からより顕著になっている。蒸気機関の発達により、ものすごいスピードで生産が拡大し、移動・輸送が高速化され、社会構造の大きな変動をもたらした。家電製品の登場:掃除機や洗濯機、電子レンジなどによって家事の時間が大幅に短縮されるはずが、奇妙なことに家事に費やされる時間は微増している。それは、掃除や洗濯の回数が増えたり、凝った料理を作ったりと量や品質向上に転化されているからである。
コミュニケーションの加速にはさらに驚かされる。私のたった40年程の現役生活に於いてもしかり、入社した頃の書類・図面のやり取りは郵便であったが、ほどなくFAXで補完されるようになり、インターネットによって電子メールで送受信できるようになった。コミュニケーションについては、速いと言うより世界同時性まで得られており、フレックスやテレワークと言った働き方の変動を加速しているのである。今後AIの発達によってさらに社会変動は加速されるであろうが、孫の世代ではどのように変貌しているであろうか。
とっても分厚くて難解な本なので本書を簡潔に要約する術は持ち合わせておらず、感じたことを記しただけだが、色々と考えさせられる本であった。
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2023/07/18 17:11:00