
本日はあまり語られる事の無い、911系カレラ系のマニュアル・トランスミッション(以下MT)の過去そして現在について、書き綴って行こうと思います。とかくネット上では
リアル体験に基づかない伝聞が流布することがあり、そこに一石を投じると言ったらおこがましいですが、皆さまの判断に一助となれば幸いかと思います。まず、ポルシェのMTの歴史から振り返ってみようと思います。
かつて、オートマチックトランスミッションがまだ一般的ではなかった時代、スティックシフト(いわゆるM)Tが唯一選択できるトランスミッションでした。ポルシェ911が誕生した1963年、初代911(901から商標登録の兼ね合いで911に改名)にも当然MTが搭載れていました。当時のトランスミッションはポルシェ自社製の「901」トランスミッションで4速が主流だった時代に
5速を採用していました。シフトパターンは独特で、いわゆる
ドッグレッグ型のシフトパターンを採用、1速が左下、2速、3速が横並びになるレイアウトでした。この配置はサーキット走行の際に、頻回に使用する2速⇔3速を容易にするのが目的のレイアウトでした。クラッチプレートは乾式のシングルプレートを採用、操作性に優れ、当時のポルシェの強みだった
軽量設計にも貢献していました。しかしながら、
耐久性や
シフトフィールに難があり、後に「915」トランスミッションに変更となります。ちなみに1967年にはセミオートマチックトランスミッションとなる
スポルトマチックが登場しており、当時のポルシェの
先進性が伺えます。
さて、「901」トランスミッションの後継となる「915」トランスミッションですが、1972年に、2.4Lエンジン搭載モデルの911から採用されることになります。このトランスミッションは1986年まで14年間の長きに渡り使用されることになりますが、主な特徴としては
信頼性と耐久性の向上を目的に設計されました。主に5速仕様(初期の一部モデルは4速仕様)、シフトパターンは従来のドッグレッグパターンを採用するものと、現在のHパターンを使用するものと、モデルによって分かれます。より大きなトルクに対応するため、ギアセットが強化され、「901」トランスミッションよりも耐久性に優れました。また、ポルシェ独自の「ドッグトゥースガタシンクロナイザー」を採用、この事によりクラッチの耐摩耗性も向上。初期モデルは操作性が重く、一部の「901」ユーザーからは不評でしたが、年次改良でフィーリングも改善しています。この頃までのトランスミッションがいわゆる
ポルシェシンクロと呼ばれる
繊細なトランスミッションで、1987年以降は空冷モデルの終了まで採用されることになる「G50」トランスミッションへと移行します。
ここからは実体験を伴ったインプレを交えて考察したいと思います。930世代から投入されたG50トランスミッションですが、964シリーズまで採用され、以降も改良版が搭載されることになります。私は1993年式の964カレラを所有していましたが、一般的に評価が高いG50トランスミッションは
正直あまり好みではありませんでした。クラッチはべらぼうに重く、それでいてシフトストロークは長く、スポーツカーのトランスミッションにしては
あまりにも冗長な印象。
ポルシェシンクロのようなナーバスさとは無縁で、アイドリングスタートもまったく不要という点で信頼性は高いのですが、如何せんシフトフィールは
むにゅむにゅしていてイマイチ。節度感も無く、とにかく
テンポの悪いシフト感覚でした。油圧式クラッチが初めて採用され、シンクロメッシュも採用しているため、ダウンシフト時の回転合わせなどは多少ズボラでも問題ありません。915世代までの「熱したナイフでバターをかき混ぜるようなシフトフィール」ではありませんが、996以降のかっちりしたシフトフィールからすると「なんじゃこりゃ」という感覚です。ちなみに993は従来の5速から6速へと多段化が進みましたが、G50/20と、型式は一緒です。
996については私は3台経験していますが、カレラはゲトラグ製のG96型トランスミッション、ターボやGT3は高出力に対応したG96/88と呼ばれる6速トランスミッションが採用となります。これまでポルシェは自社製のトランスミッションを搭載してきましたが、水冷化に伴う効率化の一環として、OEMが採用されることになります。
ポルシェのMT=ゲトラグというイメージが強いワケですが実は歴史はそれほど古く無いのがお分かりいただけるかと思います。私はカレラ系、GT3系両方体験しましたが、一言で言ってどちらも
硬いトランスミッション、もっと言うと
渋いトランスミッションで、特に冷感時の低速ギアはかなりの
抵抗感があります。ストロークはショートシフターを入れれば改善しますが、G50ほどではないにせよ、現代の水準からするとかなり
冗長な印象を受けると思います。耐久性は抜群に良く、私は996GT3でかなりサーキットも通いましたが、まったく壊れそうな雰囲気はありませんでした。カレラ系もしかり。997のトランスミッションもこのG96の派生であることを考えると如何にこのトランスミッションの
完成度が高かったかお分かりいただけると思います。
そして997の世代になり、ついに日本製のトランスミッションが搭載されることになります。トヨタの完全子会社のアイシンAI製の6速トランスミッションはG96の基本設計をそのままにより耐久性、操作性などを煮詰めた同社
会心のトランスミッションです。私はこれまで数多くのマニュアル車を所有して来ましたが、シフトフィーリングの良さは
随一です。私が所有していた997にはオプションのショートシフターを付けていたため、シフトストロークが15%ほど短くなり、手首の返しでコクッ、コクッと小気味良くシフトが決まる感じは
最高でした。ゲトラグ製の6MTがもてはやされがちですが、個人的にはこのアイシン製6MTの方が
断然フィーリングは良かったと記憶しています。抵抗感がまったくなく、シフトの曖昧さもありません。難を言えば、クラッチが重いため、渋滞路では脚が攣りそうになることくらいでしょうか。この辺はさらにリファインされた991のZF製7速の方が上だと思います。アイシン製6MTはPDK投入との兼ね合いで、997.1の一世代のみで終わってしまったのが、個人的には
非常に残念です。
そして991世代になると、7速PDKがベースの、世界初となるZF製7速MTが採用となります。全ギアに
トリプルシンクロメッシュが奢られ、耐久性、操作性ともに大幅に改良されました。とは言え、ベースがPDK=専用設計ではないということで、出た当初はあまり良い評判は聞きませんでした。スポーツカーにオーバードライブの7速目は不要だの、シンクロメッシュのフィーリングがイマイチだと散々な言われようでしたが、991.2でだいぶ改良されました。991は前期、後期ともに乗った事がありますが、997ほどではないにせよ、クラッチも軽く操作性は極めて良いです。また、この世代からどういうわけかG○○というナンバリングが無くなってしまいました。もしかしたらあるのかもしれませんが、私が調べて範囲では見つからなかったので、どなたかご存知の方がいらっしゃったらご教示ください。そして、992.1ですが、明らかにシフトフィール、ストロークともに改善しています。クラッチは軽く、カレラTのショートシフターはストローク、節度感ともに申し分ありません。同じ7速ですが、991に搭載された初期と比べると大幅にリファインされているように感じられます。
最新の992.2カレラTは世の中の「6速推しの声」に呼応する形で敢えてオーバードライブギアを外し(一説によるとギアは残したままシフトゲートのみ入らなくしてある)、ギア比は変えずにそのままZF製7速PDKベースのマニュアルトランスミッションを踏襲しています。まあこれはこれで
マーケティング的には意味があると思いますが、それでなくとも遮音材などを省いた関係で車内が騒々しいカレラTなので、ギア比を変えるならともかく、変えないのであれば敢えて7速ギアを外す必要があったのか少々疑問です。1時間以内の走行であればエンジンレブの高まりに伴う刺激的なサウンドも良い塩梅ですが、長距離を移動する際にはやはり
オーバードライブギアが有って悪い事は無いと個人的には思います。実際、高速クルージングで7速を使うと音も静かですし、燃費も改善しますからね~。ぶっちゃけ、年次改良を重ねた7MTはかなりの完成度だと思います。あと、ダウンシフト時のオートブリッピング機能(任意で解除可能)は
悶絶モノの出来栄えです♪唯一デメリットと言えるのはGT3の6MTと比べ重量が17kg重い事でしょうか?
いかがでしたでしょうか?ポルシェのマニュアルトランスミッションがいつまで作られるか分かりませんが、世代を問わず
乗れるうちに乗っておけ!というのが私の考えです^^。
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Posted at
2024/11/19 17:36:20