996GT3 Club Sports 後期型、996 GT3RSと所有していましたが、唯一初代となる前期型のみ996GT3だけは所有したことがありません。これを買えば996GT3三兄弟フルコンプになります。という点はまあさておき、このGT1ルックのフロントマスクと、スパルタンな内装(グローブボックスすらない)、そして張り巡らされたロールケージが心の琴線に触れます。余計な電子デバイスは一切なく、正に己の腕一本で乗りこなすカタルシスがそこにはあります。パワーこそ360㎰に過ぎませんが、これぞRRというトラクションの掛かり方と、伝説のメッツガーエンジンの組み合わせは今のクルマには望めないモノです。
たとえば、単純に速さだけに焦点を絞れば新幹線だって、飛行機だって速いワケですが、そこに愉しさはありません。速さというものは、速度変化量で感じるものなので、どれだけ短時間で速度変化が起きるかの方が遥かに重要です。しかし、それでいうならたとえばテスラのモデルSは0-100km/hを2秒でこなしますが、運転していて愉しいかと言われれば個人的には愉しいとは思えません。血の気が引くほど速いのは間違いありませんが、これが愉しさに繋がるかというと、また別問題・・。相対的に断然遅いマツダ・ロードスターの方がよほどfun to driveです。すなわち、単純に速さではスポーツカーの愉しさを測る事は出来ません。このfunな要素を私は勝手に「動的質感」と呼んでいますが、スポーツカーにとってはどれだけ動的質感が濃密か、が最も重要だと考えます。
今から15年以上前、初めてR35GT-Rに乗った時の衝撃は今でも忘れる事が出来ません。それまで体験したどんなスポーツカーよりも圧倒的に速かったですし、全身の毛が逆立つような加速感はこの時生まれて初めて体験しました。しかし今日に至るまで、一度もR35GT-Rを欲しいと思った事はなく・・これはやはりポルシェなどと比べると圧倒的に動的質感が欠落しているからだと個人的には思います(注:年次改良で、今はGT-Rもかなりfun to driveになった、と聞きます)。実は、ランボルギーニ・ウラカンや、アウディ・R8も同様の理由で惹かれません。これらのスーパーカーは速いことは速いのですが、とにかく無機質に速いだけで、driver's involvementがあまりにも希薄なんですね。運転している、というよりは運転させられている感覚といえば伝わるでしょうか?
で、価格はAMG ONEの1/8にも満たないワケですが、技術的に極めて近い立ち位置にある296にはこの動的質感、fun to driveが間違いなく宿っています。私が過去に運転したどんなクルマよりも濃密なdriving experienceをもたらしてくれ、なおかつ圧倒的なパフォーマンスも身に着けています。先日海外のYouTubeチャンネルですが、マクラーレン・アルトゥーラとのサーキット走行比較動画が上がっていましたが、驚くなかれ296の方が運転していて愉しい、と評されていました。アルトゥーラのパッケージング(カーボンモノコックシャシー、車重の軽さ)を考えれば逆の結果となっても何ら不思議ではありませんが、結果は296の勝利。いかにマラネッロのエンジニアが真面目に、真面目に296のfun to driveを創り上げたかが伝わります。