
クルマで公道上を走っていると、しばしば
両脚をぶらんと下げたままバイクに乗っている人を見掛けます。あれって、
めちゃくちゃ危険だいう自覚はライダーにあるのでしょうか?ちなみに、時速30km/hで走行中の150kgのバイクが転倒し始めた場合、それを片脚で支えるのは―― まず
不可能です(※単に「止まっているバイクを支える」のとは全く次元が違います)。物理的考察を踏まえ、解説したいと思います。
走行中のバイクは
「運動エネルギー」を持ちます。
バイク質量:150kg(125㏄のスポーツバイク程度)
走行速度:時速30km/h(= 8.33m/s)
状況:転倒しかけた(バランスを崩した)バイクを片脚で支えようとする
☆支えきれない理由☆
①慣性力(運動エネルギー)が大きすぎる
この条件下で、バイクが持つ運動エネルギー(K.E.)**は:
K.E. =1/2mv² = 1/2×150kg × (8.33m/s)² ≒5,208J(ジュール)
これは、およそ
5,200ジュールものエネルギーを持っているということになります。一般的な人間の脚力(特に瞬間的な横方向への踏ん張り)ではこうしたエネルギーを受けと止めるのは
不可能です。仮に筋力が有っても、骨の強度が持ちません。即ち、片脚1本で転倒しそうになるバイクのエネルギーを瞬時に受け止めるのは、筋力的にも骨的にも
まず無理です。時速が40km/h、50km/hと速度が上がれば運動エネルギーが増す事は言うまでもありません。
②バイクの重心の高さ
バイクはライダーも含めると比較的重心が高い乗り物なので、転倒し始めると
梃子の原理でより強い力が脚にかかります。しかも動いている場合には力のかかり方が早く、そして鋭いため静止状態でのバランスとはまったく異なります。プロのライダーでさえ、
走行中に転倒しそうになるバイクは捨てるのが基本です。如何に上手く身体を車体から逃がして転倒するかです。仕事がら多くの交通外傷患者を診てきましたが、重大なバイク事故の場合は、車体に巻き込まれるケースがほとんどです。無理に脚で支えようとするなど、
無謀以外の何物でもありません。
③倒れる=横方向への回転運動(モーメント)が働く
走行中にバランスを崩して倒れ始めたバイクは、ライダーごと横に回転します。
このときバイクは:
重力(150kg × 9.8m/s²)
回転モーメント
走行による慣性
が合わさって、人間の筋力では止めきれない力で地面へ倒れこみます。
上記①~③の理由により、走行中に無理に支えようとすると:
膝・足首・股関節を損傷
骨折・靱帯損傷・筋断裂などのリスク
が高まるため、むしろ
危険です。
結論から言うと、バイクが倒れそうになったら脚を出して踏ん張るのではなく、速やかに
バイクを投げ出して転がるのが正解です。よって、街中でしばしば見かける「脚ぶらぶらバイク」は、極めて危険であることがよく分かるかと思います。そもそも支えきれない脚をぶらんと垂らし、万が一転倒した際には脚をたたんでいない分、車体に巻き込まれるリスクも上がります。そもそも、脚をぶらぶらさせないとバランスを取れないような人は
教習所からやり直した方が良いと思います。
Posted at 2025/07/07 08:37:55 | |
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