
4回に渡って書いてきたこのシリーズ、誰かに読んでもらおうというより自分の知識整理を目的に書いてきましたが、これで最後です。結局知識整理出来ないままのまとまりのない記事になってしまいましたが、わざわざ読んでいただいた方々には感謝しかありません。
今回のネタ「悪い物価上昇」については
以前も書きました。
日銀の金融政策はインフレ率と雇用・失業率をコントロールするのが目的であり、為替相場をコントロールすることが目的ではありません。
5月の記事では「悪い円安」という表現に苦言を呈させていただきました。
円安の結果として物価上昇を来す事があっても、それが悪い事なのかどうかは別問題です。
世間で日頃から「日本駄目論」を吹聴している連中に言わせれば、現在の物価高は円安や資源エネルギー価格上昇、小麦等の食料品価格上昇にともなう物で、需要が増えたことによるものではない…という事で「悪い物価上昇」なんだそうです。
「コストプッシュインフレ」とかって表現されることもありますね。
需要の増加ではなく供給側の要因で価格上昇しているとなれば、消費者は他の消費支出を削減して家計全体の支出を抑える方向の消費行動となるでしょう。
ですので物価上昇しているにもかかわらず景気は悪化していく「スタグフレーション」と呼ばれる状況に陥ります。
現在の日本の消費者物価指数の数値を見て「過度の物価上昇」だと判断するなら、今の日本はスタグフレーションだと言えるでしょう。
あらためて今の日本の消費者物価指数を確認します。
総合指数は前年同月比3.0%の上昇、生鮮食品を除く総合指数(コア指数)前年同月比3.0%の上昇 、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコア指数)は前年同月比1.8%の上昇です。
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html
海外ではいわゆる「コア指数」は生鮮食料品のみならず食料品すべてとエネルギー価格を除いた指数で示される事が多いですが、日本の物価をその基準で調べるとまだ前年同月比+1.0%程度だと言われます。
ちなみに英国のコア指数が前年同月比+6.5%、ユーロ圏が+5.0%、米国が+6.6%です。
欧米諸国は「インフレ高進(個人的には『亢進』の方が適切だと思うのですが、一般に『高進』が使われるようなのでこっちで書きます)」と呼ばれる状況ですが、日本は全く異なります。
日銀が掲げる「インフレ目標」の2%というのが、どの指数・指標で見ているのかは明らかではありませんが、俗に「日銀コアCPI」と呼ばれる
「基調的なインフレ率を捕捉するための指標 」https://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/index.htm/という統計があります。
一般に「日銀コアCPI」と呼ばれる指数は、この統計で示されている中の「刈込平均値」の事を意味するようですが、これの最新の数値は前年同月比+2.0%です。
結局、インフレ率は適切な水準にあるとはいえ、それは一部商品価格の供給側の要因と円安による物価上昇であり、需要は低迷したままの「ステルスデフレ」と言える状態です。
原油や食料品価格の上昇に関してはロシアによるウクライナ侵攻というのが大きく影響した話ですし、これは日銀にも日本政府にもやれることはほとんどありません。
円安にしたって日本側の要因ではなく米国のインフレと利上げの影響によるものです。米国の政策金利が最終的にどこまで上がるのかが盛んに議論されていますが、これも日本としてはどうしようもありません。
市場が過剰反応して円安になっているうちに外需型企業を中心に円安の恩恵を受けながら状況を見守りつつ、業態を変えていくしかありません。
「悪い円安」「悪い物価上昇」などと悲観的な事を言うなら、日本の金融財政政策がどうあるべきなのかをもっと建設的に語るべきでしょう。
「日本売り」などと日本駄目論を煽ってるだけの論は只の愉快犯でしかありません。相手にするだけ時間の無駄です。
こういう状況下で日本の金融財政政策がどうあるべきなのか?少なくともインフレの水準は過剰ではないですし、引締めに転じるのは時期尚早です。
今朝発表になった賃金統計などの数値は決して悪い数字ではないですが、先行きの更なるインフレ加速を懸念すべき数値ではありません。
コロナ禍で悪化していた雇用は回復過程の途上です。
製造業の国内回帰を促すには設備投資が必要ですし、設備投資を促すためにはできるだけ低金利を維持していた方が良いのは言うまでもありません。
財政政策については先頃一応岸田政権が補正予算を含む経済対策を発表しました。その中身については既に書きましたしセンスないなあとしか思いませんが、これ以上は岸田政権には期待できません。今の「ステルスデフレ」という状態では、これ以上動かない方がマシではないかと思います。
本来なら減税が望ましいんですけどねぇ…
いずれにしてもそれなりに物価が上昇してますので、大規模な財政政策を打ち出すべきタイミングではないと思います。現状よりもう少し需要を促す方向で、しかもインフレを加熱させない程度に止める…と言っても難しいですし、どうせ岸田政権では減税できないでしょうから、むしろこれ以上は何もしない方が良いでしょう
減税といえば、英国でトラス前首相が減税を口にしたた途端政治経済が大混乱に陥りましたが、日本とは議論の前提が全く異なるのは言うまでもありません。英国はインフレ率が10%を超えてます。
欧米諸国がインフレに苦しんでいる今、日本経済は復活の大きなチャンスを迎えています。これが気に食わない人達が盛んに「日本駄目論」を吹聴していますが、頓珍漢にも程があります。
政治が誤った方向に向かわないように、有権者ももっと賢くならなければなりません。世の中にトンデモ言説が蔓延っている今、より高い水準のリテラシーが求められます。
Posted at 2022/11/08 20:17:54 | |
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