電気工事士の技能試験の練習をやってるときに、ネジをクルクルと回すのに意外と時間がかかっているという事に気付きました。木ネジの場合はねじ込むにしたがってトルクを掛ける必要がありますが、電工部品や私が普段いじるようなPCや樹脂ケースなどはM3かせいぜいM4の小型のネジで、かつ相手側にめねじが切ってあるため、最初に緩めるのと最後に締めるにはトルクが必要ですが、中間状態ではトルクはほとんど不要で単にクルクルしているだけなわけです。
そんな時に現役電気工事士の方々のYouTubeを見ていたら、あにまる電工の鳥バードさんの動画でベッセルの電ドラボール・ハイスピードが紹介されていて、「私の欲しかった物はこれだったんだ!」と目の前がパッと開けた気がしました。時短だけでなく締め付けの最後は自分の手でトルクを確認したいということもありますし。
☆ベッセルの新しい電ドラボール使ってみた【No.220USB-S1ハイスピード】
ただ充電端子が今更ながらのMicro-Bというのが引っかかり購入を躊躇していたところ、次のような情報が得られました。
☆中華電ドラボールを4倍速に改造したら最強かも!?
☆中華電動ドライバー TILSWALLをハイスピードに改造してみた。
そこで私も改造してみることにしAmazonで以下の中華電ドラを購入しました。
タイムセールで300円offクーポンが出ていたので2000円でゲットできました。
●改造後の動画
ランプレセプタクルと端子台のネジを外して再度組み付ける動作を手廻しと比較しました。ドライバーの柄(グリップ)を回した場合の約半分の時間で完了しました。
●購入した電ドラについて
・付属するビットはダメダメ
→ネジの頭に食い付かないし、ネジを回すと電ドラ本体が歳差運動してしまいます。ビットの中心が出てないのかとよく見たら、ビットの後端が見た目で分かるほど波打っています。ベッセルのビットを別途調達しました。ベッセルはネジの頭を噛ませると横や下に向けても落ちないので気持ちいいです。
ちなみに中華ビットは溝までの距離が9mmのタイプですが、ドライバー側のチャックは13mm仕様なので差し込んだ時に前後のガタも大きいです。日本で売られてるビットはほとんど13mmだそうです。
・スペックのバッテリー容量2000mAhはうそ
→中を開けてみたら18350の900mAhが入ってました。もっともベッセルの電ドラボールも800mAhなのでそこは問題ではないのですが。
・ボタンを離してもブレーキはかからない
→モーターはだらだらと動きが止まります。気の利いた電ドラなら一瞬逆電圧掛けてバシッと止めるみたいですが。また思った通りストール(モーターの回転をロック)しても通電は停止しませんでした。
・ネット情報通り遊星ギアは3段構成でした。
太陽ギア T12 φ4.2 モジュール0.3mm モーターのピニオンも同じ
内ギア T42
遊星ギア T15
速度伝達比= zc / za + 1 太陽ギアA(za)、遊星ギアB(zb)、内ギアC(zc)の歯数
なので速度伝達比 = (42 / 12) + 1 = 3.5 + 1 = 4.5
これが3段あるのでトータルの減速比は4.5^3 = 91.125
ちなみにビットの回転数がスペック通り280rpmだとすると、モーター回転数は91.125 * 280 = 25515rpmということになります。
●ハイスピード化の手法
・ネットの情報を元に1段目の遊星ギアを外して、モーターで1段目の遊星キャリアを回転させます(モーターのピニオンギアで直接2段目の遊星ギアを駆動する)。そのためにモーターのピニオンギアと遊星キャリアを結合させる部品をダイソーのエポキシパテで作成しました。
①②1段目と2段目の遊星キャリアは同じ物なので、この2つでエポキシパテをサンドイッチします。中心軸を合わせるのが難しそうだったので3Dプリンタで内径12.2mmの筒状の型を作り、その中を押し出しました。パテを盛る前に遊星キャリアと型には離型剤としてCRC5-56を吹いておきました。
③完全に硬化する前に取り外し、完全硬化後にモーターにセットして回転させてヤスリで整えました。
④1段目の遊星ギアの代わりにセットします。これで4.5倍速になるというわけです。トルクはその分減るわけですが。
●電流が意外と大きい!
・手元にあった0.1Ω2Wのセメント抵抗をシャント抵抗としてモーターに直列に入れて電流を測ってみました。シャント両端電圧が1.1Vなので起動電流 = ストール電流 = 11Aで、この時のモーター印加電圧は1.2Vでした。
・ということはモーターのDC抵抗は1.2 / 11 = 0.109Ω
・バッテリー電圧を4.2Vとして電池とドライバの内部抵抗は(4.2 - (1.1 + 1.2)) / 11 = 0.173Ω
・もし0.1Ωを付けていないオリジナルの状態ならモーターのストール電流は4.2 / (0.109 + 0.173) = 14.9Aとなります。ストール時の全体の消費電力は4.2 * 14.9 = 62.6W、モーターで14.9^2 * 0.109 = 24W、電池側で残り38.6Wが熱になることになります。
→ダイソーで売っているような一般的な半田ごてが30Wであることを思えば、62Wも発熱したらどうなるか、、、モーターが燃えるのが先か電池が燃えるのが先か、、、
→つまりこのような自動停止しない電ドラは、ストールはごく短時間に抑える必要があるという事です。ふつうの使い方をするならば、ねじを締めに行ってロックした瞬間に電ドラ本体が左に回されて指がスイッチから離れることでモーターは停止するはずです。が、YouTubeではコーススレッド(太くて長い木ネジですね)を角材にどこまでねじ込めるかを試すような動画がアップされていたりするのですが、自動停止機能を持っていない電ドラでは絶対にそれを真似してはいけないということです。
●回路
・エポキシパテの硬化を待つ間に制御回路を調べてみました。
・U2は8ピンのマイコンですが型番が印刷されていません。電源ピンからおそらくPICかと。
・LEDはモーターに通電している間だけ光るようになってます。基板単独で外部電源で作動させて、スイッチを押しながら電圧を下げていったところ2.78VでリセットがかかるようでLEDが消灯しました。このまま電圧を上げてもLEDは点灯しません。スイッチをいったん離して電圧を上げると2.86V以上で再び通常作動するようになりました。
・充電の最大電流は333mAhに制限されています。900mAh / 333 = 2.7hなのでスペックの充電時間=150分というのはおおむねあっているといえます。
●自動停止の手法
・先のシャント抵抗0.1Ω2Wをバッテリーの+端子と基板までの間に入れて、ストール電流による電圧降下でマイコンU2の電圧をドロップさせてリセットを行うこととしました。
・そのままだと無負荷でのモーター起動電流による電圧降下でリセットされることが考えられたので、マイコンU2の電源端子に入っているC2と並列に10μFのコンデンサを入れることにしました。
・いじってる間のショートが怖いので熱収縮チューブやカプトンテープで保護を入れてます。
・バッテリーに直列に0.1Ωが入りますが、充電は電流を制御していて充電終了に従って電流値が減少するに伴い抵抗での電圧降下も減少するので、充電自体は問題なく行われるはずです。
●実は偶然うまくいっただけかも?
・狙い通りに動作したのでモーターの回転とマイコンU2の電源電圧を見てみました。
・マイコン電圧Vddの最大が4Vなのは、ショットキーダイオードD3の順方向電圧降下によるものです。バッテリーはフル充電後なので4.2Vあります。
・10μFの効果はなかったようで、モーター回転開始からすぐに電圧が2.4Vまで落ちています。トランジスタのベースに流れ出す分があるからかな。付けなくても良かったという事かも。
・リセット電圧が2.78Vと判明しているのでここの電圧が2.58V以下になるとリセットするわけですが、疑問なのは起動時にはリセットがかからないことです。2.4Vまで落ちているのに。
・最初からストール状態で起動した場合は50msでリセットがかかってます。
→マイコン側で起動後50ms経過するまではリセット電圧の設定(ブラウンアウト検知)を行ってないのか?謎です。
●改造後のトルクは?
・減速比を落とした分と、電源の0.1Ωで電流が減少する分トルクは落ちることになります。遊星ギアの効率を80%と仮定して、改造前のトルクがスペック通り3N・mとするなら、
→改造後トルク:3/4.5/0.8 * 11/14.9 = 0.62N・m
ベッセル 電ドラボールハイスピードは1200rpm 0.4N・mなので同等以上といえそうです。
●動作確認
・回転速度をビットに貼った紙テープとCdSで拾ってオシロで観察しました。
→回転周期:50.32ms → 60 / 50.32 = 1192rpm これはほぼベッセルと同じです。
・端子台のビスM3.5を緩めて締めることを100回繰り返すテストを行いました。
テスト前フルチャージしたバッテリー電圧:4.19V
テスト後のバッテリー電圧:3.98V
テスト後のモーター及び電池温度:40~41℃程度
その後フルチャージまでの総電流量:119mAh
バッテリー容量が900mAhなのでもう何百本かはいけそうです。
●最後に
・かなりトリッキーな手法で自動停止を実現しているので、他の電ドラでは再現できないかもしれません。中華電ドラでも自動停止機能付き(トルク切り替えができるタイプはおそらく自動停止するのでは?と思います)があるようなので、それを使った方が素直かも。少し値が張るようですが。
・思うに、コーススレッドを打ち込むならインパクトドライバーがマストだし、一般的な木ネジやニトリなどの組み立て家具にはドリルドライバーが最適解(最終的な締め付けトルクを設定できるので)かと。してみると通常の電ドラの立ち位置ってどこなの?って感じですね。ボタンを押す強さで回転速度が変わり、最終トルクをダイヤルで設定できればいいのになぁ(ってそれはドリルドライバーと同じか。ドリルドライバーも中華なら安いしね。でも小物の工作にはデカすぎる)
・とりあえず今回は偶然にも機能的に満足な物ができたのですが、信頼性に関しては疑問なのでベッセルからType-C版のハイスピードタイプが出たら買い替えようと思っています。
・リチウム電池はショートすると大変危険なので、いじるなら最大限の注意を払って自己責任で!